19話 おでかけ⑤ 家具屋
「……ぶ、しのぶっ」
「!」
はっと我に返る。
手をつないだ結が息を切らして私を見上げていた。
「しのぶ、あるくの、はやい」
「あ……ごめん」
だめだ、ボーっとしてた。
っていうか、何も考えてなかった。
康があんなこと言うから……!
『か、かわいいと思うよ』
思い出しただけで、顔が熱くなる。
いつもはあんなこと言わないくせに、いつから康は軟派な人間になったんだろう。
ああいうことは好きな人に言うべきものじゃないのだろうか。
……私も私で何考えてるんだろ。なにせ、あんな言葉を家族以外からもらったのは、初めてだから。
ん? 待てよ、そもそも康は私の家族みたいなものよね。お父さんやお母さんよりも長い時間一緒にいるし。
……というか、冷静に考えて、さっきの康の言葉は社交辞令じゃない。あの流れで「似合ってない」って言うほうがどうかしてるわ。ただのお世辞じゃないの。
「しのぶ、こんどはうごかなくなった……」
結がもう泣きそうな顔で私の手を揺らす。
……馬鹿馬鹿しい。結ほったらかして、何考えてんだろ。
「ごめんね、結。ボーっとしちゃってた。もう大丈夫だよ」
笑顔を向けると、結はほっとしたように笑った。
「ひろーい!」
「結、大声で叫ぶのはやめなさい」
初めて来たらしい大型の家具屋に、結は大興奮だ。
目をキラキラ輝かせては、
「しのぶっ ベットふかふか!」
「つくえがいっぱい!」
と、あっちこっちに動き回っている。
「結、あんまり離れないでね」
私は私で、結のかわいらしさに注意する口元がゆるむ。
……は! ダメだ、しっかりしないと!
「えーと、まずは、タンスとか見に行こうか。買った服、収納する場所がいるからね」
「タンス?」
「うん。で、その次に机と寝具を見に行こう。結はお布団とベット、どっちがいい?」
その問いかけに、結はキュッと私の手を握り、無邪気ににぱっと笑って見せた。
「おふとん! おふとんだったら、しのぶとならんでねれるでしょ?」
「……っ!」
ズッキューン!
と、撃ち抜かれた気がしたけど、なんだ今の。
かわいすぎかっ!
私はちょっと震え気味で、結の頭をなでる。
な、なるほど、これがいわゆる「キュン死しそう」というやつか。
「しのぶ、さむい?」
「寒くないよ。ただ、結がかわいいだけ」
「……? えへへ」
頭の上にはてなマークとばしつつも、結がてれっと笑う。
ああ、なんかもう、それだけでいいや。
初めて会った時、あんなに泣いてた結が、こんなにかわいらしく、うれしそうに笑ってくれるだけで、私はもう、幸せな気がする。
なんだかちょっと、胸に熱いものがこみ上げてきた。
大きく息を吸い、笑う。
「さ、結、行こっか」
「うん!」
結のいい返事。
やっぱりかわいいなぁ……。
……って、ちょっと待って。
これって、親ばかというやつなのでは?
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
最近は忙しく、全然投稿していませんが、続いています。
気長に待って頂けると幸いです。