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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
18/61

18話 おでかけ④ 同級生


 朱音の店を出て、次に私たちが向かうことにしたのは家具屋。

 結に必要な、机とか椅子とかを見に行くためだ。


「しのぶっ、かわいいねっ」


 どうやら結は、先ほど買った私とおそろいのワンピースがとても気に入ったらしい。

 さっきからつないでいる手を揺らしては満面の笑みを向けてくる。


 かわいすぎ……! 天使じゃん……!


 私自身は着慣れないひらひらしたワンピースが恥ずかしくて爆発しそうだけど、こんなにも喜んでもらえて、しかもこんなにかわいい結が見られるなら、買ってよかったとうれしく思う。


「しのぶ、ゆいといっしょ! かわいいねぇ」

「あはは、ありがとう。かわいいのは結だよ」


 そんな会話をしていた時、ふと、視界にワイワイと楽しそうに歩いている集団が入ってきた。


 その中に、見覚えのある横顔を見つける。


「あー! こうだー!」


 結が大声で叫びながら、駆けて行こうとする。

 だけど、なぜかピタッと動きを止め、キュッと私の手を握りなおした。


 かと思ったら、私の手を引いて、康のところへ一直線に駆けだした。


「わわわ、転ぶ! 転ぶって!」


 結、もしかして、さっき私がしかったこと思い出したのかな。勝手にどこかに行っちゃダメだけど、早く康のところに行きたいから、いっそ忍ごと連れて行こう、みたいな。


 ほんっとかわいいなぁ、この子は。


 なんて考えてる間に、いつの間にか康の目の前に立っていた。


「え? 忍と結?」


 当然、急に目の前に私たちが現れた康は目を丸くして、私と結を見比べている。


「こう、こんにちは!」

「お、おぅ、まだ朝だけどな……。え、忍、何してんの? つか、その格好何?」

「別に。笑いたいなら笑ってくれていいし」

「いや、笑わねぇけど……」


 下からジトッとにらみ上げると、康は心なしか顔を赤くして、「笑わねぇし……」と目を逸らした。


 笑うのをこらえているのか、この男。


「ちょっと」

「康、知り合い?」


 文句を言ってやろうと1歩踏み出したその時、康の後ろにいた康の友達らしき人が、康の肩に手をまわした。その後ろから、女の子2人も顔を出す。


「お、誰、このかわいいちびっこ。お前の親戚?」

「えー、やだ、ほっぺぷにぷにしてそう!」

「かわいいー」


 彼らは康の脚にしがみついている結を興味津々という感じで覗き込む。


 結は、サッと康の後ろに隠れてしまった。


 っていうか、この人達、大学一緒だった人だ。いつも康と一緒にグループの中心にいた人。

 ……ま、私はあんまりしゃべったことなかったけどね。


 と、男の子が私に気づいた。


「あ、この子のお母さん? え、超若いな。あれ、でも俺見たことある気が……」

「……綿野です」


 軽く会釈をすると、彼らはぎょっと目を見開いた。


「えぇ!? 綿野さん!?」

「ほんとに!?」

「え、じゃあ何? この女の子、もしかして、康の子供!?お前ついに……やったな!」

「ば……! んなわけねぇだろ!」


 盛り上がる彼らを、康が真っ赤な顔でベシッとはたく。

 一方私はそれどころじゃない。


「ったぁぁ……。え、違うのかよ」

「ちげーよ! まったく合ってねぇよ! 忍、気にすんなよ!」

「いや、まったく気にならないけど。それより康、うちの結がだんだんしょんぼりしていってることにそろそろ気づきなさいよ」

「え?」


 ……たぶん、ほったらかしにされたからだろう。

 結がうつむいてしゅんとしちゃってる。

 それはそれでかわいいけど、そんな顔させるヤツは私が許さん。


「おー、綿野さんが康を親のかたきのようににらんでいるぞー」

「え!? 意味わかんねぇよ! ……結、どうした?」


 康が結と目線を合わせて優しく笑いながら聞いた。


「…………」

「ん? ……あ、結の服、新しいやつだ。かわいいじゃん」

「!」


 その言葉に、結がパッと顔を上げる。


「こ、これ! しのぶにかってもらったの! しのぶとおそろい! うしろのね、かみのけとめるのも、あかねちゃんにもらった!」

「あかねちゃん……? そうか、よかったな。似合ってる」


 結がキラキラした顔で、私を勢いよく振り返った。


「よかったね、結」


 そのいい笑顔に、私も笑顔を返す。

 結は満足そうにうなずいて、また康に体を向けた。


「こう! しのぶは!? しのぶもかわいい!」

「「え」」


 結の弾んだ声に私と康はそろって固まる。


 いやいや、待って待って。結さんあなた、康に何言わせようとしてるの? さすがに康だって困るでしょそんなこと……


「ちょ、ちょっと結」

「……か、かわいいと思うよ」

「……え?」


 聞こえた声に、私は結に向かって伸ばしていた手を止めた。


「す、すごく、似合ってると、思う」


 康の顔がすごく赤い。

 目が合うと、ふい、と逸らされてしまった。


「あ、ありがとう……?」


 なんだか胸のあたりがくすぐったいような、何とも言えない気持ちになって、私は頬が熱くなるのを感じながら、なんとかお礼の言葉を絞り出したのだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

感想や誤字、脱字等あれば是非教えてください。

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