17話 おでかけ③ おそろい
「おぉぉ、引きずってる引きずってる!」
結が持って来た……というか、引きずってきた服を慌てて持ち上げる。
「すみません! 大事な商品……に……」
店長さんを振り向いた私は、動きを止めてまばたきを2回。
なんか……すっごい真剣な表情で私と結を見ながらブツブツ言ってるんだけど……。
「名前呼び? もしかして姉妹? でも、年が……」
「あの」
「うひゃぁ!?」
「……」
「え、や、ごめんなさい! 決して結ちゃんとあなたの関係が気になったけれど複雑な事情があって簡単に聞いちゃだめかもしれないとか思ってたわけじゃないから!」
「……気になるんですか? 結と私の関係」
「えぇ!? なぜそれを!?」
「…………」
ほんとにいるんだ、自分で口滑らしたのに、気づかずびっくりする人。
漫画や喜劇だけの人物かと思ってた。
「たしかに複雑と言えば複雑ですけど、聞きたいなら別に聞いてくださってもかまいませんよ?」
結が私の脚にペタッと引っ付いてきたので頭をなでる。
「え、いいの?」
店長さんが目を丸くして聞いてきたので、うなずく。
別に、聞かれたところで何の問題もないしね。
「あ、えと、じゃあ、聞かせてもらってもいい? あ、あたしはここの店長してる、保月朱音。今年の2月で25歳になりました!」
「え? あ、じゃあ私も……。綿野忍、25歳です」
「え!? ウッソ同い年!?」
「あ、そうなりますね。私、8月に誕生日だから……」
「そうなんだ! いや、大人っぽいからもうちょっと上だと思ってた!」
こ、この人すごい……すっごく話しやすい。というか、グイグイ来る。
話しやすいけど、結が退屈しすぎて、スネそうになってるから、早く本題に入らなくちゃ……!
「あ、あの、保月さん、話は……」
「あ、うん! ごめんね、話止めちゃって。どうぞ」
「あ、はい……」
促されるがまま私は、私が結と一緒にいるいきさつを話した。ついでに、なぜさっき結が大泣きして私がなだめてたのかも。
話を聞き終わって、保月さんは1度、「うーん」とうなってから、二パッと明るい笑顔を私と結に向けた。
「なるほどなるほど! それは2人とも大変だったね! それじゃ、この、幸せを運ぶ店『CLOVER』の店長、保月朱音、今日のおでかけがさらに楽しくなるように、2人に似合う服を選んであげるよ!」
「え、ちょっと待って、結の分だけでいいんですけど……」
「何言ってんの! せっかくの初めてのおでかけなんだから、結ちゃんも忍とおそろいの服、着たいよね?」
保月さんが結に問いかける。
「しのぶ、ゆいといっしょ?」
「うん! いっしょのお洋服、着たくない?」
あ、待って、この流れは……
「ゆい、しのぶといっしょがいい!」
「やっぱり……」
額に手を当て、ため息。
「しのぶ、ゆいといっしょ、いや?」
「……ッ」
はい出たよー! この殺人級のかわいすぎるうるうる顔!この顔されたら断れなくなるんだってば!
「……ッいいですよ」
しぶしぶうなずくと、結がパァァッと顔を輝かせる。あ、結だけじゃない、保月さんもだ。この2人、小動物に似ててかわいすぎるんだけど……っ。
「じ、じゃあ、保月さん、おすすめとかあれば教えてください」
「うんうん、もちろん! あ、それとね、あたしも忍って呼ぶからさ、忍もあたしのことは朱音って呼んで! 同級生なんだし、もちろんため口でよろしく!」
言うなり、ものすごい勢いで店内の商品を見ていく保月さ……朱音に、私は、えぇー、っと声をもらす。
そんな私の袖を結がグイグイ引っ張った。
「しのぶ! おようふくみる!」
「わかったわかった。ちょ、そんなに引っ張ったら伸びる……」
私は手に持っていた服に目を落とす。
白い生地に、花と蝶の細かい刺繡があしらわれたワンピース。
これを1から作るなんてすごいな、朱音は。
「しのぶー」
「ごめんごめん。結はこれがかわいいって言ってなかった?」
「うん! そのおようふくかわいい!」
「そうだね。これ、買っちゃおうか」
重ねられていたかごを1つ取り、服を入れる。
そして私たちは結の服選びを開始した。
「え、お会計これで合ってる?」
「もちろん合ってる。電卓で計算したし」
「どれか計算に入れ忘れてない?」
「忘れてない。これで合ってる」
ずい、と出された電卓が示す金額に目を丸くする。
普通に作るのより何倍も時間と手間がかかってるはずなのに、普通に売ってる服よりもはるかに安い……。
「ねぇ、こんなこと聞くの失礼かもしれないけど、利益あるの、これ」
「ないよ。材料費だけだもん、プラマイゼロ」
「バカなの?」
「ヒドイッ! でも、いいんだよ。この店は私が趣味でやってるもんだし」
「いやいやいや、生活とかどうしてんのよ」
「旦那がちゃんと働いてくれてるから」
「あぁ、旦那さんが……って、え!? 朱音、結婚してたの!?」
「うんうん、毎日ラブラブだよ」
「へ、へぇー……」
そ、そりゃそうか、25って結婚しててもおかしくない年だもんね……。
なんて、ボケーッと考えていると、朱音が私を上から下までじぃぃっと見てニヤニヤする。
「にしても、結も忍も似合ってるじゃん。作った甲斐があったね」
「わーい!」
素直に喜ぶ結。
対して私は、顔が赤くなるのを感じた。
自分の着ている服に目を落とす。
結とおそろいの、ツバメがクローバーをくわえているこれまた細かい刺繡が施されたワンピース。
実は私、ワンピースみたいにひらひらした服、あんまり着たことないんだよね……。脚が何とも……。
「んー、そうだ、2人にプレゼント!」
突然頭に何かつけられ、鏡を見る。
私と結の髪に、茶色でかわいらしいデザインのバレッタがついていた。
「え、ちょ、いいの?」
「うん! それも手作りだし! あたしからのプレゼント。使ってね!」
「あ、ありがとう……」
「あかねちゃんありがとー!」
「いいのいいの。2人にはいっぱい服買ってもらったしね」
気持ちのいい明るい笑顔に、つられて私も笑顔になる。
「じゃ、また来てね! 何か困ったときとか、いつでも相談してくれていいから!」
「うん、ありがとう」
「ばいばーい!」
朱音に見送られて、お店を出た。
なんか……メアドも交換しちゃったし、いつでも相談していいなんて。
「まるで、友達みたい……!」
口元をほころばせる私を、結が不思議そうに見上げ、ふと目が合ったとき、彼女はふにゃっと愛らしく笑った。
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