16話 おでかけ② 服屋
「うちの店の入り口の前でやられるのはちょーっと困っちゃうかなぁ」
そう言って、苦笑しながら私たちを見下ろす女の人。
「え、えっと……」
ハッと足元を見下ろして、自分の体がドアの邪魔をしていることに気づく。
「あ……! ごめんなさい! 邪魔ですね」
慌てて腰を上げ、結を抱えて1歩後ろに下がる。
ガラス戸が開いて、女の人が出てきた。
「ごめんねー。お話の途中に」
「いえ、明らかにこちらが邪魔だったので」
とっさに答えて、しまった、と口を抑える。
またそっけない言い方をしてしまった。
感じ悪いよなぁ……。
だけど女の人は特に気を悪くした風もなく、ニッと明るく笑いかけてきた。
「あはは、別に邪魔とまでは言ってないよ。あたしもお店にお客さん来なくてヒマだったところに、ちょうど子供の泣き声が聞こえてきて覗いてみただけだし」
「は、はぁ……」
なんだか、今までに会ったことのない性格の人だなぁ。悪い人ではなさそうだけど。
「おみせってなにやさんー?」
突然結が女の人を見上げて言った。
女の人は、ちょっと体をかがめて、「よくぞ聞いてくれました」と。
「うちは服屋だよ。『CLOVER』って名前のね。あたしが店長」
「くろーばー? あのよつばのー?」
「そうそう。みんなが幸せになりますようにってね!」
見てるこっちが自然と笑っちゃうような明るい笑顔。
……ん? 服屋?
「あの」
「ん?」
女の人……店長さんがこっちを向く。
「なあに?」
「ここって、子供用の服、売ってたりします?」
「うん! 売ってるよ」
「見せてほしいんですけど」
「もちろん! いらっしゃいませ!」
案内されて、私たちは店の中に入った。
「わぁぁ! かわいいふくいっぱい!」
「ここが子供服のエリア。お母さんとおそろいになれるのもあるよー」
説明してくれながら、両手に服を持ち、私に見せてくれる。
服屋、『CLOVER』は小さいけれどきれいなお店だった。というか、かわいらしい雰囲気だ。
ロッジ風の店内に、たくさんの服が並んでいる。
しかも、この服、よく見ると……
「同じ服が1つもない……?」
いや、サイズや色が違うのはあるけど、同じサイズで同じデザイン、同じ色のものは1つもない。
「おっ、よくぞ気づいてくれました! ここの服、全部1からあたしが作ったんだよ!」
「全部!? 1から!? この刺繡もですか!?」
私は近くにあったワンピースを手に取り、その細かい花の詩集を指さす。
「そうだよ! あたし、こういう手芸が得意でさー。大学卒業したら何になればいいのかわからなくて、それならもういっそ趣味を合わせた仕事をしよーってなったんだよね。頑張ってバイトしてお金貯めて、去年やっとオープンしたんだー」
「へぇー……すごいですね、この量をたった1人でなんて」
「まあね、時間はたくさんあったし……」
そしてちょっと視線をそらし、
「そ、その……お客さん、全然来なかったし……」
と、小声でもにょもにょ。
え、じゃ、今までどうやって生活してきたんだろ。これって聞いてもいいのかな?
「しのぶ! このふくかわいい!」
キラキラした目で店内を歩き回っていた結が、てててっと私のところにかけてきた。
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