15話 お出かけ① 朝食
ピピピピッ ピピピ カチッ
アラームの音を止めて、私はのっそり起き上がった。
午前8時。
いつもより遅いのに寝た気がしない。自業自得だけど。
隣を見やると、結はぐっすり眠っている。
起こすのはちょっと気が引けるけど、起こさなくては。
「結ー、朝だよー、起きてー」
「うー……ん」
「今日はおでかけの日だよー」
「……おでかけ!」
『おでかけ』という言葉に反応して、結は飛び起きた。
そして私の顔を見ると、パァァッと顔を輝かせる。
「しのぶ! おはよう!」
「おはよう、結。さ、着替えてね。今日はご飯も外で食べちゃおう」
「うん!」
今日は日曜日。
結の日用品を買うために、でかけることになった。
結はすごく楽しみにしてくれてたんだよね。
「しのぶー、きがえたー!」
「よし、えらいえらい。じゃ、歯を磨いて出かけましょうか」
「はーい!」
元気な返事。
天気もいいし、今日はきっと楽しくなるだろう。
「えーと。結、まずは、ご飯食べよっか」
「うん!」
私と結は、まず、近くのファーストフード店に入って、朝食をとることにした。
「どれにする?」
「うーんとうーんと、これ!」
「チーズバーガーね。じゃ、私は……私もそれにしよっかな。すみません、チーズバーガーセット2つ」
「お飲み物はどうされますか?」
「ゆい、コーラ!」
「コーラ1つとウーロン茶1つで」
「かしこまりました」
……ファーストフード店なんて、何年ぶりだろう。最近来てなかったな。
ぼんやりそんなことを考えていると、「おまたせいたしました」と、店員さんの声。
「チーズバーガーセット2つです」
「あ、ありがとうございます」
早! ほんとにファーストフードじゃん!
あまりの速さに驚いていると、結が私の服を引っ張ってきた。
「しのぶー」
「あ、ごめん結。あっちで食べようか」
「うん!」
私たちは2人で、少し遅めの朝食を食べた。
「ふぅ、お腹いっぱい」
「おいしかったー!」
「ねぇ。たまにはいいね」
ハンバーガーを食べ終え、店を出る。
右手で結と手をつなぎながらチラッと腕時計を見ると、時刻は10時過ぎだった。
ハンバーガーってきれいに食べるのなかなか難しいんだよね……2人して時間かかっちゃったな。
「結、そろそろお店が開く時間だから行こうか」
「まずはどこにいくの?」
「えっと、まずは……そうね、服屋さんに行こうか。結は今その服しかないからね」
「ふく?」
「うん、かわいい服選ぼうね」
言ってから、ハッと足を止める。
「しのぶ?」
結が私を怪訝そうに見上げてきた。
……かわいい服を見に行くって言ったけど、そういえば私がいつも行ってるとこって子供服置いてなかった気がする!
……なんという失態。私としたことが、そこを忘れていたなんて!
「え、えーと、結、服は後でにしようか……?」
ぎこちない笑顔で結を見下ろして、ハッと目を開く。
手をつないでいたはずの、結の姿がない。
いったいどこに……!?
グルッと辺りを見回して、駆けていく結の姿を見つけた。
「ちょちょちょ、待ちなさい、結!」
道路に出ちゃったら危ない!
慌てて追いかけて捕まえる。
「結! 危ないから勝手にどっか行っちゃダメでしょ!」
そう言って結をにらむと、結はうるっと瞳を潤ませた。
あ、と思う間もなく、結の目から涙がこぼれだす。
「ゆ、ゆい、ふくやさん、い、いくのぉ」
「だから行くって。勝手にウロチョロしちゃダメ!」
「し、しのぶ、ぼーっとしてたもっ」
「ボーっとしてたのは悪かったけど! でも、結が1人でどこかに行っちゃったら、危ないでしょ!?」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大きな声で泣き出した結を、通行人が何事かと振り返る。
……早急に何とかしなくては。
私は結を地面に下ろし、しゃがんで視線を合わせた。
「結」
名前を呼ぶと、結はびくっと肩を揺らし私を見る。
「結、私は別に怒ってるんじゃないの。ボーっとしてたのは私が悪いし。でもね、外で結が勝手に動き回ったら危ないの。なんでかわかる?」
結をじっと見つめると、結はふるふる首を横に振った。
「ゆい、わかんない」
「じゃぁ、教えるね。結みたいに小さな子が間違って道路に出ちゃったら、車からは見えなくて、最悪、ひかれてしまうの。そうしたら、結はすっごく痛い思いをするし、私も悲しい。他にも、結が1人で歩いていたら、迷子になっちゃうでしょ? それに、怖ーい人にさらわれちゃうかも」
想像したのだろうか。結は顔を青くして、震えている。
……まぁ、デパートで迷子になってたのを最終的に家に連れ帰った私が言うことじゃないけども。
「だからね、結、今日みたいに私とお出かけするときは、絶対に私から離れないで。ね?」
首をかしげ、結を見ると、結は素直にこくんとうなずいた。
わかってくれたことにホッと息をつく。
「何かあったときは、私も連れてってね」
笑顔を向ければ、結もふにゃっと笑い返してくれた。
「へぇー、すごいねぇ、しかり方が上手。言い聞かせる感じがあたしは好きだなぁ」
突然聞こえてきた声に振り向く。
「でも、うちの店の入り口の前でやられると、ちょーっと困っちゃうかなぁ」
ガラス戸をほんの少しだけ開けて、私と同い年くらいの女の人が、苦笑しながら私たちを見下ろしていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
投稿頻度が落ちてきていますが、頑張ります(主に週末に一気に……)。
感想や誤字、脱字等あれば是非教えてください。