14話 夜中の作り話
「……ぶ、し……ぶ!」
ん……誰かの声が聞こえる。
「……のぶ、しのぶー!」
徐々に鮮明になって聞こえてくる声に、私はハッと目を開けた。
目の前にはニコーッと笑っている結。
「しのぶ、やっとおきたー!」
「え!? 『やっと』って、私、寝過ごした!?」
ばっとカーテンを開けると……外はまだ、寝静まった夜だった。
「ゆーいー! まだお日様昇ってないじゃないのー!」
おぉ、ほっぺたを引っ張ると、もちもちほっぺは伸びる伸びる……
「ひのぶ、ひょうはおえかけ!」
「え? 『今日はおでかけ』って言ったの?」
聞くと、結はこくこくうなずく。
手を離すと、結はまたニへーッと笑った。
……あぁ、朝からかわいい。まだ夜だけど。
それに、おでかけって、昨日私が仕事行く前に言ったことだよね。楽しみにしてくれてたんだ。かわいい。
「しのぶっ、きょうはゆいとおでかけ!」
「あはは、そうだね。今日は一緒におでかけしようね」
「うん! はやくいこー!」
今にも駆け出していかんばかりの結を、あわてて引き止める。
「ちょ、ちょっと待って。まだどこも開いてないから。まだみんな寝ているから、結ももうちょっと寝とこうね」
「いや!」
「え、なんで?」
「だって、くらいときにねたらあしたになるもん!」
おぉぉ、いや、確かにそう感じるけども。
「じ、じゃぁ、朝になったら、私が結をちゃんと起こしてあげるから」
「うぅー! でも、いっぱいしのぶとおでかけしたいの!」
「でも、どこも開いてないし、こんなに早くに起きちゃったら、結、おでかけの途中に寝ちゃうんじゃない? そうなったら、私、寂しいなぁ」
「や! ぜったいねないもん!」
うーん……なかなか頑固だなぁ……こうなったら……!
「そっかぁ、じゃぁ今から行く?」
「! うん!」
「本当に、今からでいいのね?」
「うん!」
「よし、わかった。じゃ、出かける前に少しお話を聞かせてあげるね」
「おはなし?」
「そう。昔ね、とある女の子がいたんだけどね、ちょうど結くらいの。その女の子、こっそり夜中に家を抜け出して、遊んでたんだって。そしたら、車が走ってきたらしいの。女の子は小さかったし暗かったから、運転手さんからは見えなくて……そのまま、車にひかれて、死んじゃったそうなの。女の子は暗い世界にひとりぼっち。寂しくて寂しくて……夜中になると出てきて、自分と同じ年くらいの子供を、自分と同じ世界に引きずり込むそうよ」
……ふぅ。即席で作った割には筋道は通ってるな。
あとは結の反応だけど……
結を見て、ぎょっとした。
「う、うぇぇぇぇぇぇぇこわいぃぃぃぃぃ」
「あ、あれ!? ゆ、結!?」
突如泣き出した結に、私は意味もなく手をバタバタさせる。
い、いや、『くらいところにひとりぼっちなんてかわいそう! ゆいがともだちになってあげる!』とか言われなくて何よりだけど!
この話、泣くほど怖いかな!?
「え、えっと、外に出なきゃ大丈夫だし、それに、朝になったらいなくなるから!」
そもそも、今もいませんから! カップラーメンよりも速くできた即席ストーリーですから!
「と、とにかく、結、どうする? 今から行く?」
「グスッ いかない……ゆい、いまはねる」
「そ、そうだね、そうしとこうね」
結は布団に寝転ぶと、しばらくして寝てしまった。
なんか……これでよかったはずなんだけど、胸が痛いなぁ……。
その夜、私は罪悪感でなかなか寝付けなかったのだった。
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