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カゾクアイ  作者: 紀章櫻子
第一章
13/61

13話 3人の夕飯


「いやー、晩飯までごめんなー」

「い、いや、私も勝手に思い込んじゃってごめん。てっきり食べて帰るのかと」

「まぁ、俺は今金欠だし、超助かるけどな」


 数時間前、忍が帰ってきたので家に帰ろうとしていた俺は、忍に引き留められた。というか、『帰る』って言ったらすんげぇ驚かれた。

 忍いわく、『え? 晩ご飯食べてかないの?』だそうだ。


 そんなわけで、いただくことにした。

 忍の飯、うまいし。


「しのぶー、おなかすいたー」

「はいはい、ちょっと待って。康、味噌汁持ってって」

「了解」


 味噌汁を運ぶと、忍がキッチンからテーブルを覗きながら俺に言った。


「よし、これで全部かな。……あ、康はお酒どうする?」

「……あー。俺はいいや。白飯が欲しい」

「オッケー」


 忍はパパッと炊飯器から白飯を盛り付け、俺の前に置く。


「サンキュ」

「いいえ」


 忍が結の隣、俺の向かいに座った。


「それじゃ、いただきましょうか」


「「「いただきます」」」


 手を合わせて、箸をとる。


 1口、味噌汁を飲んで、ほぅ、とひと息。


 なんだろう……何か回復する。落ち着くというか……


「味はどう?」

「ちょうどいい。うまい」

「そ。よかった」


 うーん……サバの塩焼きもちょうど良き塩加減……。


 1人、塩焼きをかみしめていると、今まで静かだった結が忍の腕をつついた。


「ん? 結、どうしたの? お魚苦手?」

「ううん、すっごくおいしいよ! そうじゃなくて、あのね」

「うん?」

「しのぶとこう、ふうふみたいだねっ」


 むせた。

 昨日もあったぞこんなこと。


「えーと……夫婦?」

「うん! おとうさんとおかあさんってふうふなんでしょ?」


 無邪気な笑顔でそう言う結。


「い、いや、結、ちょっとま」

「なるほど、お父さんとお母さんか。じゃ、結は私たちの子供だね」


 平然と微笑む忍に、俺の手から箸が転がり落ちた。


 い、いや、わかってたけど! 友達としか見られてなくて、そういう風には何とも思われてないことくらいわかってたけども!

 ……え、夫婦みたいとか言われて顔色ひとつ変えないの? 俺、1人でバカみたいじゃねぇか。


「……康、百面相して何やってんの? 箸落ちたよ」

「……何でもないデス」

「? 変なの」


 不思議そうな顔して首傾げてるけど、お前のせいだからな!?


 そう言ってしまいたいのをぐっとこらえる。

 いやー、ショックだわ、改めて。


「ゆい、しのぶとこうのこども?」


 そんな俺は放置され、結と忍の会話は続く。


「そうだよ。私は結のお母さん……代わりだからね」

「代わり?」

「うん。もしかするとこれから結が、やっぱり本当のお母さんがいいなぁって思う時がくるかもしれないでしょ? だから、今はまだ、私は結の母親『代わり』。結が大きくなって、自分で色々できるようになって、考えられるようになったら、結がどうしたいのか、決めたらいいよ」


 俺はハッと顔を上げた。


 忍の笑顔が少しだけ、寂しそうに見える。

 コイツ、もしかして結がいつか、自分から離れていくんじゃないかって思ってるんじゃ……


「うー、よくわかんない」

「そっか。まぁ、そうだよね。それじゃ、この話の意味も、大きくなったらかんがえな」


 結の頭をなでながら、忍はふと、俺の視線に気づいた。目が合う。


「どうかした?」

「……いいや、何にも」


 忍が誰かを本気で信じられるように、俺ができることはなんだろうか。




「いやー、うまかった。忍、ありがとな」

「ううん、こちらこそ。気をつけて帰ってね」

「おう」


 玄関で靴を履くと、忍が「はい」とタッパーの入ったビニール袋を渡してきた。


「筑前煮。今日の残り物で悪いけど、よかったら食べて」

「え、いいの? サンキュー」


 ありがたくもらう。

 超ラッキー。最高。


「あ、あのさ、忍」

「ん?」


 俺はもらったビニール袋の持ち手を握りしめて、言った。


「いつでも、頼ってくれていいから」

「え?」

「俺でよければ、いつでも頼ってくれていいからな。ほら、今日みたいに、急な仕事が入ったりとか、何かで人手が欲しいと思ったときとか。お、俺もそうしてくれるとうれしいし」


 ヤバ……俺、何言ってんだろ。顔熱くなってきた。


 忍はまばたきを2回して、俺を見つめ、クスッと笑った。


「何言ってんの、十分頼りにしてるって。っていうか、さっきもこんな話したよね」

「そうじゃなくて! お前はただでさえ色々我慢するんだから、そろそろ人に甘えることを覚えろって言ってんだよ!」

「なんでちょっとキレ気味なのよ。わかったわかった。何かあったらちゃんと康に連絡しますって」

「……! わ、わかったらいいんだよ」


 俺、別に俺だけを頼れなんて言ってないんだけど……。

 ちょっとうれしい。


「あ、私からも1ついい?」

「? 何?」

「晩御飯、よかったらまた食べにおいでよ。連絡くれたら作るから」


 突然の忍の言葉にポカン。


「え、なんで?」

「金欠なんでしょ? アンタのことだからどうせ家ではあんまり料理してないんだろうし」

「う……」


 図星をさされて小さくなる。

 エスパーかよ……。


「で、でも、仕事とか忙しいんじゃ……」

「よっぽどのことがない限り大丈夫。これでも仕事は速いほうだし」

「……だろうな」


 簡単に想像できる。忍が黙々と1人で仕事してる姿。んで、周りがあまり話しかけられないっていう……。


「それに、康のためだけじゃないわ。今日の留守番で、ずいぶん康を気に入ったみたいだから……何もしてないよね?」

「近い近い近い! 何もしてねぇよ!」

「そ、ならいいけど……ま、そんなわけで、また来てくれるとうれしいなって」


 忍がそういったとき、とたとた足音が響いた。


「こう、もうかえるの!?」


 先ほどまでトイレに入っていた結が顔をのぞかせる。


「こら、結。夜だから騒いじゃダメ」

「はーい……こう、またきてね!」


 そんなキラキラした目で見られたら、『いいえ、遠慮します』なんて言えない。


「おう。またな」


 なんて、返事してしまった。


「じゃ、俺帰るわ」

「ん。今日はありがとう、康。おやすみ」

「ああ、おやすみ。結もな」

「おやすみなさーい!」


 手を振って見送りをしてくれる2人に、俺は腹だけでなく胸もいっぱいになったのだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

感想や誤字、脱字等あれば是非教えてください。

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