12話 幼馴染の本音
昼になって、忍が作ってくれていたチャーハンを食べると、結は速攻で寝てしまった。
まあ、午前中、トランプに飽きて公園に行き、あれだけ遊びまくれば当然だろう。
忍に『結は公園で遊ぶことが好きらしいから、することなかったら連れてってあげて』って言われてたけど、あそこまではしゃぐとは思わなかった。
結構広い公園の遊具を遊びつくし、移動はすべて全力疾走。
疲れないわけがない。というか、若干俺が疲れた。
すやすやとよく眠る結の髪をなでながら、ふぅ、と息をつく。
保育園の子供らもそうだけど、こんな小さな体のどこにあんなエネルギーがあるんだろうか。
まあ、元気が何よりなんだけどな。
「康、康」
ゆさゆさと揺さぶられて、重たいまぶたをこじ開ける。
少しぼやけた視界の中で、忍が俺を覗き込んでいた。
「康、おはよ。って言ってもお昼の3時だけど」
……? なんで忍がうちに……
と、思ったところですべてを思い出す。
ちがう! ここ、俺ん家じゃない!
俺は飛び起きて、忍を見た。
「ごめん、俺、寝ちまって……」
「あはは、よく寝てたね」
うお、忍が笑った……じゃなくて!
最低だ。子守頼まれてたのに、一緒に寝てしまった。
「忍、ごめん、任されてたのに……」
「大丈夫だよ。この通り、まだ結も寝てるし。むしろ、疲れてるのに任せちゃってごめんね。ありがとう」
苦笑いで謝る忍に、ぶんぶん首を横に振る。
「あーっと、仕事、終わったのか? トラブルがあったみたいだったけど」
「うん。そっちも大丈夫。誠意をもって謝りに行ったら、許してくれたよ」
「そうか、よかったな」
「ほんと、安心したわ」
ほっと息をつく忍。
「えと、おつかれ」
「ふふ、ありがと」
声をかけると、笑顔を向けてくれた。
「そ、それにしても、なんか俺、頼りねぇよなー。忍はちゃんと自分の仕事してんのに、俺は寝ちまうし」
会話を続けたくて、ポロッとこぼれた本音。
……あ、しまった。こんなこと言っても忍が困るだけだ。
何か他の話題を探さなくては……!
「……そんなことないよ」
少しの沈黙の後、忍が言った。
俺は話題を探す思考を止め、忍を見る。
忍は小さなほほえみを浮かべて、まっすぐに俺を見ていた。
ドクン、と大きく心臓が鳴る。
「康が頼りないなんて、そんなことないよ。実際、今1番私が頼りにしてるのは康だし、それに、康は今日のこと、すぐにオッケーしてくれたじゃん。せっかくの休みなのにさ。誰にでもできることじゃないと思う」
あと、と、忍は続ける。
「昔からさ、康だけだったんだよ? 私に毎日話しかけてくれたの。他のみんなは1度私としゃべったら、もう2度と話しかけてこなかったのに。自分でも愛想ないの自覚してるのに、康だけは変わらず話しかけてくれたんだよね。そんな相手が頼りにならないなんて……ありえないから」
『ま、私にとっては、だけどね』なんて言いながら笑う忍。
顔が熱くなっていくのがわかった。
「……そっか、サンキュ」
「言っとくけど、お世辞とかじゃないからね?」
「わかってるよ。お前普段こんなにしゃべんねぇだろ」
「うるさいな」
軽口を言い合いながら、俺は火照った顔を横に向けて隠す。
ただひたすらにうれしかった。
ふと、忍を見ると、忍の頬も少し赤くなってる気がした。
「んー……」
「あ、結。ただいま」
結がもぞもぞと動き、目を覚ます。
忍が結を覗き込んだ。
「しのぶー?」
「うん、帰ってきたよ。結もそろそろ起きようか。夜、寝れなくなっちゃうからね」
「うーん」
まだ眠そうに目をこする結を忍がくすぐる。
すると結は笑い声をあげて転がり、若干フラフラしながらも立ち上がった。
「おはよう、結」
「しのぶ、おかえりー」
ポスン、と忍の胸に結が飛び込む。
忍はちょっと、いや、結構うれしそう。
結の頭をニコニコしながらなでている。
「あのねーゆいね、こうとこうえんであそんだんだよー」
「へぇー、楽しかった?」
「うん! こうね、てつぼういっぱいまわれるんだよ!」
「そっかぁ、すごいね!」
「うん!」
……照れるな、ちょっと。
「忍、じゃ、俺そろそろ帰るわ」
「……え?」
「え?」
目を丸くして固まる忍を、俺も目を見開いて見つめ返した。
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