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きこりの青年、剣を振る。  作者: 神山 湊
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第四話:怪物

「……ク……ルク……マルク!」


俺を揺さぶり声を荒げるのは元冒険者のロバートさんだった。


「起きたか!歩けるか!?」

「……んんー……」


俺はゆっくりと体を起こす。


「寝てたのか……?」


一人ぼやくと、目の前でロバートさんは自分の剣を握って俺の肩を揺すった。


「しっかりしろ!!今俺たちは襲われている!!!怪物が出た!」

「!!」


それを聞いて目が大きく見開いた。


「そ、それってどういう!?」

「俺も知らん。意識が戻ったなら俺についてこい!逃げるぞ」


そう言ってロバートさんは俺の腕を引っ張る。


「待ってください!スーラは!スーラはどこですか!」

「彼女は怪物と戦ってくれている。その隙に私たちが逃げるんだ!!」

「ふざけないでくださいよ!!!絶対に嫌です!!」


俺はロバートさんの腕を振り解いて雪に埋れていた先ほどの刀を手に取った。

変わらず手の握力は小さいが、それでも握れないことはない。


「ふざけてるのはお前のほうだ!!」


駆け出した俺を腕一本で背後に倒したロバートさんは俺の知らない怖い顔でこちらを睨んでいた。


「マルク!お前があの戦闘に介入してみろ!一瞬で死んでしまうぞ!」

「だったら!!だったらなおさらスーラの手助けを——!!!」

「だからわからねぇーのか!!!俺たちが間に入っても邪魔になるだけだ——……」


俺が体を起こそうとした時、遠くで一つの光が発生した。思わず顔を背けた次の瞬間、爆風がこちらに押し寄せた。


「ッ!!!」


片腕で雪煙から顔を守るが隙間から吹き付ける雪はかなりの痛みを伴う。

俺は体まで吹き飛ばされそうな吹雪の中、目を細めて光がした方を目指す。


「マル……ゥ!!!もどっ……い!!」


突風の中聞こえてきたロバートさんの声はすぐに遠く離れていく。

俺はスーラがいた場所に向かってほふく前進で進んでいく。

しばらく進んだが、それは何かがこちらに吹き飛んでくることで中断された。


「ス……ッ!!スーラッ!!!」


背中を大木で強打して、人体構造的に曲がらない方向へ体を曲げた。


「……うぐぅ、あぁああ!!」


叫ぶ彼女は頭から、腹から、足から、体をボロボロにして流血していた。


「スーラ!スーラ!!」


気がついたら突風は止み、移動の自由が解放されていた。


「大丈夫か!スーラ!!」

「マルク!早くいくぞ!!ここにいたらまずい!!」


背後からロバートさんがそんなことを言ってきた。


「一人で逃げろよ!!俺たちはこの子に助けてもらったんだぞ!!見捨てておいそれと逃げれねぇーよ!!!」


自分でも驚くほどの声が出た。

腹から湧き立つような鬱憤を全て声帯から吐き出したい気分だ。

それでもそんな気持ちを押さえて、俺はスーラを抱き抱える。


「いくならこの子を連れていく」

「……置いていけ」

「まだいいますか!?」


俺はロバートさんを睨みつけた。


「置いていけと言ってるんだ!」

「嫌です!お断りします!」


俺はきっぱりと言ってロバートさんを睨めつけた。

スーラを抱き抱えたまま俺はロバートさんの隣を小走りで駆け抜ける。


「クッソッ!」


ロバートさんは吐き捨てるようにそう言うと俺の後ろを追いかけてきたようだった。


「その子は大丈夫だ!その子より大事にするべきはこの刀だ!」


そう言って渡してきたのはスーラを抱き抱える代わりに置いてきたおかしな形の剣だった。


「……呆れました。スーラの命よりそのおかしな剣を優先するんですね」

「ち……違う!後で詳しい話は彼女から聞けばいい。だから——」

「もういいです!」


俺は走る足を早めた。

一瞬で遅れたロバートさんはすぐに俺に追いついてくる。


「だから——!!」


ロバートさんが言いかけたとき、俺の中で意識を失っていたスーラがするりと俺の腕を抜け落ちた。

いや、今のは抜け落ちた、と言うよりも、腕を貫通してすり抜けたと言った方が正しい表現だろう。

そして空中で体の角度を変えながら落下した彼女は俺の体をすり抜けて背後に猛スピードで飛んで行った。


「ス、スーラッ!!」


一瞬見えた彼女の瞳。それは先ほどまで俺が見ていた優しそうなものとは程遠く、鋭く研ぎ澄まされて洗練された目をしていた。

一秒もたたずに閃光が走る。

同時に爆風が起こり、再び視界が奪われる。


「くそ!!」


ロバートさんも俺も体を低くしてその場になんとか止まった。

すぐに風は収まり、体を起こす。


「マルク!いくぞ!!今のを見ただろう!彼女は俺たちとは違う存在なんだ!!」

「違う存在ってなんだよ!!彼女も俺たちと同じ人間だろう!?」

「……ッ」


ロバートさんは奥歯を力強く噛み、こめかみに血管を浮かばせる。


「……俺からは何も言えん」

「なんだよあんた!何を隠してるんだ!教えろよ!!」


俺はロバートさんの手から剣を奪い取った。

それを構えてロバートさんに向ける。


「……お前にその剣が振れるか?俺をそれで切ることができるか?できたとしても——」

「うるせぇ!!いいから俺の問いに答えろ!彼女は一体なんなんだ!」

「……」


それでもロバートさんからの答えはない。


「……俺は彼女を助けに行きます」

「……止めるんだ」

「あんたも!ロバートさんは元冒険者だろ?!なんで怪物を恐れるんだよ!戦えよ!!」

「冒険者だったからのアドバイスだ!ここは逃げろ!」

「だったらなんで彼女は連れて行かないんだよ!!」


俺はロバートさんの腕を振りほどこうとするが、ロバートさんの腕は簡単には離れてくれない。


「クッソォ!!」


そうしている間にも再び爆風が起こる。


「離してくれ!!」


俺は爆風の中でロバートさんの腕を振るった。

そして風が止むと同時になんとか振り解くことができた。

すぐに走り出すが、再び爆風に煽られ前に進めない。

体は後退するが、気持ちは前に進もうとする。


「どらぁ!!!」


握った剣を目一杯振るった。

先ほど木を切ったときと同じように上から斜めに切り落とす。

自分でも理解に困る行動だった。

しかし、直感的にこうした方がいい。そう思ったのだ。

剣が地面に近づいて静止した瞬間、俺の前の風が止んだ。

真っ直ぐに道が開けて俺をそこに誘う。

俺は必死になってその道を進んだ。自分でもわからない。瞬発的に出力された筋力は風すらも置き去りにする移動を見せた。

すぐに俺はスーラ元までやってきて、彼女の隣に並ぶ。


「スーラ!大丈夫か!」


俺を見た彼女は鋭い眼光をこちらに向ける。


「なんできたんだ!!!逃げろ!!」


俺は彼女の豹変ぶりに驚き、目を丸くする。


「な、なんでって、君を守るために——」

「私がお前を守ってるんだ!勘違いするな!私はいいからさっさと逃げろ!!」

「……そ、そんなことできるわけないだろう!!!」


俺は握る剣に力を込めた。ずっしりと重力がのしかかり、

地面がエグれる感覚が足を通して通じる。


「な、なんで……」


彼女は一瞬戸惑う姿を見せたが、俺はそれに構わず怪物に襲いかる。

さっき俺たちを襲った怪物だ。

黒い外見をして空中を漂う。禍々しく体を纏う何かは形容し難い嫌悪感を表す。

俺はその怪物に向かって突き進んだ。

剣を大きく振りかぶって正面から攻撃を仕掛ける。

当然、俺の攻撃は避けられてしまい。代わりに俺の胴体に怪物の腕と思われるものが伸びてくる。


「ッ……!!」


反射的に避けるが怪物のリーチはそれを上回る。俺は怪物によって数十メートル飛ばされてしまう。

空中で体を回転させて着地に備えるが勢いが付き過ぎて下半身が地面についた瞬間に胴体が背後に持って行かれそうになる。それを地面に突きつけた剣で支えてなんとか体勢を保った。

勢いが完全に止まった瞬間に攻撃に出ようと剣を構えて足に力を入れたが怪物はすでに俺の目の前で攻撃態勢に入っていた。

殺される……——


「しゃがめ!!」


スーラの声だった。反射でそれに反応して体を地面ギリギリまで下げる。

スーラは怪物と俺の間に入って怪物からの攻撃を魔法防御で防いだ。

閃光と暴風が起こり、激しく地面が揺れる。

一撃だけ放った怪物は俺たちから距離を取ると、中に浮かび上がり、空へと飛んで行った。


「逃げるのか!!」


スーラは叫ぶと両手の中で小さな炎を作り出した。

それを左手を軸にして炎を右手で回転させる。どんどんその炎は大きくなっていき、次第に俺たちの体すらも飲み込むほど大きくなった。

彼女の左手と共に正面を向いたその炎は周りの漆黒を飲み込んで放たれる。

燃え盛る音を鳴らしながら暗闇に消えていく怪物に飛んでいくその炎はまるで太陽のように明るく、空に上がるに連れて大きさを増していく。

そして怪物に直撃した瞬間、それは大きなフレアとなって消え去った。


「やった……のか?」

「まだです」


冷静に言い放った彼女は空を飛ぶ。


「ここから動かないでください」


口調は以前の彼女に戻ったが目元に残る鋭い牙は未だ戦闘中だ。


「……わかった」


俺が頷くと彼女はこちらを見ることもせずに怪物のあとを追った。

斜め上空には炎が通った痕跡として丸く木々が焼けている。

彼女はその下の木々を音を置き去りにするほどの速さで飛んでいく。

俺の前に残ったのはわずかな雪煙と土煙。

一瞬の出来事に圧倒された俺はその場に崩れ落ちた。


次回:翌日18時投稿


 お忙しい中、私の作品に目を通してくださり、ありがとうございます。


 私自身、まだまだ勉強中なため、皆様のレビューが成長の糧になります。

 お手を煩わせて申し訳ありませんが、『星をつけて評価』よろしくお願いします。


 最後に、読んでくださった皆様に感謝を。ありがとう!

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