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きこりの青年、剣を振る。  作者: 神山 湊
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第一話:出発

『自分の作品を書籍化させる』を目標に日々勉強中の高校生です。


稚拙な文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。

「マルク。そろそろ出発するぞ。準備はできたか」

「はい。ロバートさん、三日間よろしくお願いします」


 俺はいつも運搬を手伝ってくれているロバートさんに深く頭を下げた。

 今から三年前、きこりだった両親が盗賊に襲われてからと言うもの、俺は二人の弟と三人の妹を育てるために必死になって働いた。


「なに、そんな他人行儀はよしてくれ。お前は両親を失ってからトムソン家を守ろうとよく働いている。それを手伝おうと思うのはこの村に身を置く者として当然ではないか。ほら、頭をあげなさい」

「本当にありがとうございます。ロバートさんが一緒なら盗賊も怖くありません」


 家業のきこりを受け継いでから、月に一度、街まで木材を運んでいる。

 人手が必要な仕事で、帰路には売り上げを狙った盗賊も出やすい。

 だからこの運搬は男でにプラスして実戦経験のある護衛が必要になるのだ。


「私は剣を振るわなくなった老いぼれだ。今はもう若いあいつらの方が役に立つだろう」


 そう言って顔を向けた先にはロバートさんのお弟子さん六人が固まって楽しそうに雑談していた。

 老いぼれといえど、ロバートさんの剣技はこの村一番だ。

 この国では、騎士、採掘者、冒険者と言った戦闘及び警護の職業があり、冒険者はその中で一番の上級職種であると言える。

 冒険者は世界各地に存在する怪物や魔物、異常生物などを駆逐するために結成された精鋭部隊で基本的に採掘者経験者が多い。

 採掘者とは、国の中心部に高くそびえ立つ洞窟の中から魔法石を採掘する職種のことである。

 全てのモンスターの発生源はその洞窟であるものの、不思議なことにその洞窟からモンスターは一歩も外に出ようとしない。


「お弟子さん言ってましたよ。師匠には一生かかっても敵わない。って」

「はっはっはぁ!それはいかんな!そろそろあいつらには巣立ちをしてもらわねばならからなぁ」


 そんなことをぼやくロバートさんはどこか嬉しそうな笑みを浮かべる。


「どうだ、お前も剣を振る気にはならんか?」


 俺が一七になってから、ロバートさんはたまにこんなことを口走るようになった。


「ごめんなさい。今は時間もお金もないので、きこりの仕事をしないと……」

「そうだな。兄弟のことを考えると剣なんか振ってる暇ないよな」

「本当にすみません」

「いやいやいいんだ!またいつでもうちに来るといい」


 手をひらひらさせたロバートさんは素敵な笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます」

「じゃあ、そろそろ出発としよう」

「はい!」


 ロバートさんは雑談をしているお弟子さんの方へ出発を知らせに行った。

 すぐに皆んなが動き出して、大量の原木が動き出す。

 俺は最後尾に乗って、合計七台の馬車を見渡せるようにした。

 そしてそのまま馬車は山を二つ越えて、橋を渡った僕たちは三つ目の山に差し掛かろうとしていた。


「盗賊だ!!」

「全員戦闘態勢!!」


 先頭あたりからそんな声が聞こえた。

 すぐに剣を抜くお弟子さん達。

 瞬く間に当たりを囲まれてしまう。

 先頭からは剣と剣が交わる音や、盾に剣が当たる音、そして汚らしい声で喚き散らす盗賊の声が聞こえてくる。

 俺は何もできず、ただ馬車の上で体を硬直させていた。

 すぐ隣では俺を守ってくれているロバートさんが凄まじい速度で剣を振るっている。

 それに圧倒されている盗賊は次第に後退していった。

 その場に数人の手負いを作ったロバートさんは逃げ出した盗賊を追いかける。


「ふざけるなぁ!!人のこと襲っといて、自分たちが危険だと思ったら逃げ出すのか!仲間を置いていくのかぁああ!!!」


 逃げた盗賊は山の中に入っていたようで、ロバートさんはそれに向かって大声で叫んだ。

 相手は盗賊だ。仲間のことなんて考えていないのかもしれない。自分を守ることに精一杯で他人のことなんて気にしていられないのだろう。だから仲間を平気で置いて逃げていける。

 ロバートさんは山の中には入らずにすぐにこちらに戻ってきた。


「大丈夫だったか?マルク」

「はい。ありがとうございます」

「いいんだ。俺たちも報酬をもらっている反面、きちんと仕事をしないといけない」


 ロバートさんとはある契約を結んでいる。

 道場を無料で補修する代わりに街までの護衛を行うというものだ。

 そんな簡単なことでロバートさん達の命を危険に晒すのは釣り合わないので、いつも少量のお金を渡している。しかし、その度にロバートさんは渡した金額以上の野菜や果物を持ってきてくれるので、結局僕たちがトムソン家が助けられてしまっているのだ。


「俺は一旦前に行ってくる。ポール!マルクのこと頼んだぞ!」


 少し遠くで盗賊と戦っていたポールさんにロバートさんは投げかけた。


「任せてください!」


 ポールさんは目前の盗賊を払い除けるとロバートさんと交代してこちらにやってきた。


「マルク。ロバート師匠がすぐに終わらせる。それまでは俺と一緒に行動してもらうぞ」


 柔らかく笑ったマルクさんは俺の肩に手を乗せた。


「わかりました。すみません」

「何言ってんだ。雇い主に怪我されちゃー、俺たちは仕事をしてないようなもんだ。だから、これくらい当然さ」


 これほど肝が座って冷静に対応できるこのは普段鍛錬しているおかげなのだろうか。

 俺はただうろたえて、硬直して、何もできない。守ってもらうことしかできない。

 俺たちの倍以上はいる盗賊を相手にしても怯まない姿勢。

 本当にこの人たちは強い人達だ。


「ありがとうございます」

「にひぃー」


 もう一度笑ったポールさんは剣を構えて戦闘に備えた。



 それからすぐに盗賊集団を拘束した。

 合計で三四人。

 俺たちはギリギリの人数で馬車を動かしていたので、九人しかいない。

 俺は守られていたために、ポールさんと俺を以外が戦っていたので七人。たったそれだけで、5倍以上の人数を圧倒した。

 俺たちの怪我人ゼロ。敵の死傷者ゼロ。

 この人たちの強さは底が知れない。


「マルク怪我はないか?」


 敵の治療をお弟子さんに任せてこちらにやってきたロバートさんは右肩を浅く斬られていた。


「俺は大丈夫です!でも、ロバートさん……」

「あぁ。これか。こんなもん森の怪物に比べたらなんてことないさ。それより、マルクに怪我がなくてよかった」


 顔にシワを寄せてロバートさんは笑った。

 しかし、その瞬間。ロバートさんは僕の方へと倒れた。


「……」


 一瞬何が起こったのかわからなかった。

 ロバートさんの膝から力が抜けてそのまま重力に従ったのだ。


「ロ……ロバートさん!」


 俺の悲鳴に気がついた数人のお弟子さんはこちらに駆け寄ってきた。


「し、師匠!!!」


 僕からロバートさんを剥ぎ取って前後に揺する。

 しかし、ロバートさんの意識は戻らない。


「おい!お前ら何をした!!」


 ポールさんは治療していた盗賊の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 その盗賊は軽々と体が持ちあがり、足をブラブラさせて笑った。


「ッ!!」


 ポールさんはその盗賊を投げ飛ばし、すぐに別の盗賊の体を激しく振った。


「お前らは何をしたんだ!!!!」


 今にも殴りかからん勢いで、盗賊の一人に尋問する。


「け、剣に!!剣に毒が塗ってあるんだ!!!」


 ついにそのシェイキングに耐えれなくなった盗賊は口を割った。


「何の毒だ!!!」

「マルガルグルダの……怪物の毒だ!離してくれ!!」


 その一言にお弟子さん達一同、俺も含めて硬直する。


「貴様らは自分の命まで危険にさらす気か!!ッチ!ふざけんな!!」


 ポールさんは再び盗賊を投げ飛ばした。

 マルガルグルダは毒系怪物で、尻尾の先から出される毒を受けてしまうと即死という恐ろしい者だ。その即効性と、高い致死率でマルガルグルダは毒系怪物の頂点に立つ。

 剣に塗っていたのだろうから、怪物から噴出される毒よりは効果が薄れているだろう。だが、ロバートさんの体内に猛毒が入り込んでいることに違いはない。


「マルク!一旦近くの村に寄るぞ!そこで治療術師に治療してもらおう」


 治療術師とは魔法を使って医療を施す精霊術のことである。

 この国には魔法が存在するが、その使用は治療と物質強化、その二つに限る。

 魔法は、知識を持って鍛錬を積めば誰でも使用可能となる物であるが、攻撃魔法を使用だけは国際魔法使用法で禁止されている。

 しかしながら、魔法を使った犯罪行為が行われた場合、その対処法がないので、国に数百から数千の限られた人間が魔法を使用できこととなっている。


「そそそ、そうですね!どど、どうしましょう!!!」


 俺は慌てふためいて、冷静を保てない。

 思考力も低下して、すべきことをきちんと判断できない。


「とりあえず、俺たちが貨物は運ぶ。マルクは足の早い馬で先に村へ行ってくれ!」

「わかりました!」

「一台積み荷を諦めることになるかもしれん。できるだけやってみるが、そうなったらすまん」

「ロバートさんの命に比べたら馬車一つ分の損失なんてどうでもいい!」

「……すまない」


 馬車一つで大体金貨数枚の報酬となる。

 相当な損失ではあるが、お金はまた稼げばいい。


「この先にムルハラ村があるはずだ!」

「ダメです!あの村は治療術師がいません!」

「くっそ!そうだった!少し遠いが戻ってナダ村に世話になるしかない。頼んだぞマルク!」

「わかりました!!」


 すぐに先頭にいる元気な馬を馬車から外してロバートさんと一緒に馬に跨った。

 ロバートさんと俺の体は縄で固定して、走行中に転倒してしまわないように体の前で抱える。


「じゃあ、僕は先に行かせてもらいます!」

「あぁ!頼んだ!俺たちもすぐに向かう!」

「はい!」


 俺は馬を走らせ、後続の馬車を抜けていく。

 ちょうど、最後尾を抜けた時だった。

 森の中でけたたましい咆哮が鳴り響いた。鼓膜を支配するその方向は馬すらも怯えさせる。

 俺は暴れる馬を何とか抑えて、危険を避けるため一旦お弟子さんお方へと戻った。


「なんだ今のは!マルク何か見えたか?」

「いえ、なにも……」


 全員が剣を抜きそれを構える。


「今の咆哮は怪物のものだよな?」

「お、俺たちの縄を解いてくれ!!」

「殺される!縄を解け!!」


 盗賊の悲鳴を無視してどこかに潜む怪物に注意を払う。


「いたぞ!!」


 お弟子さんの一人が叫んだ。

 彼が指差す方向には黒く禍々しい物体が中を浮遊している。


「おいおい!なんだあれは!!」

「未発見の怪物だ!」

「おいマルク!!」

「はい!」


 ポールさんは下から俺のことを見上げて言った。


「あいつは俺たちが引き止める。お前は混乱に乗じて走り抜けろ」


 そういう彼の頬には笑いが浮かんでいる。

 でも俺にはわかる。

 この笑いが余裕から湧き出る笑いではなく、恐怖から湧き出る笑いであるということが。


「で、でも!!!」


「マルク!!!!」


 ポールさんは声を荒げた。


「正直言う。お前の命なんてどうでもいい」


 今までの冷静を保つ表情は抜け崩れ、激昂をあらわにした表情となったポールさんは続けた。


「師匠を助けろ。これはお願いじゃねぇー。命令だ。今まで散々俺たちをこき使ってきたんだ。これくらい許せよ。師匠を助けねぇーと、お前ぶっ殺すぞ。わかったら俺の指示に従え!!」


 そんなのは嘘だ。

 この状況でそう言わないと俺が動かないと思ったのだろうか。

 だったら俺はこう返事をするしかないじゃないか。


「……っはい!わかりました!!」


 俺の返事を聞くと再びポールさんは頬を吊り上げて笑った。


「お前はいい男になるぞ」


 ポールさんはそのまま剣を高く持ち上げてお弟子さんに向かって大声を上げた。


「お前ら!今こそお世話になりっぱなしの師匠を助ける時だ!!これから俺たちがおとりになってマルクの馬を村まで送るぞ!!」


 さすが師匠の一番弟子なだけある。

 お弟子さんに指示を出して士気を高めている。

 その他のお弟子さんもそれを聞いておー!と高らかに声を上げた。


「俺たちのことは心配するな。これでも国でトップ十に入る人の弟子なんだ。そう簡単には負けねぇーさ」


 震える手を押さえながらポールさんは余裕ぶって見せた。


「……ナダ村で待ってます」


 俺が小さくうなずきそう言うと、ポールさんは森の方へと駆け出した。それに続いてお弟子さんがかけて行く。

 いつの間にか解放されていた盗賊は怪物とは逆の方向へと走っていく。これもきっと作戦の内だろう。

 俺はその両方でもない道の真ん中で馬を走らせる。

 背後から聞こえてくる悲鳴や咆哮に振り返ることもせずに俺は馬を走らせる。

 馬車からだいぶ離れたところで振り返ると馬車は怪物に踏み潰されていた。

 先ほどとは違って地面に足がついている。四肢が生え、黒くうごめく何かを纏った怪物は一人のお弟子さんを蹴り上げた。


「あ、あぁああああ!!!!!」


 俺はその人がポールさんであることを理解して悲鳴を上げた。

 森を木々を軽く突き抜け空高く舞い上がったポールさんはすぐに地面に落下した。


「は、はぁ……はぁ、はぁ」


 俺は過呼吸になるのを押さえつつ、必死に馬を走らせた。

 それ以降は振り返ることをやめてただただ馬を走らせた。

 しかし、ちょうど橋に差し掛かったところで俺は背後から聞こえてくる地響きに気がついた。

 振り返ると先ほどの怪物が猛スピードでこちらに向かってきている。

 俺は限界に近い馬をさらに酷使して鞭を撃つ。

 端を渡ってしまえば怪物は追ってこないだろう。

 怪物もそれほど馬鹿ではないはずだからこの橋に乗った瞬間、谷へと落下することくらいは想像がつくはずだ。

 もし、その知能すらもないとしても、追ってきたところで谷へと落ちてしまうのだから問題はないだろう。

 俺とロバートさんが乗った馬は橋へと差し掛かった。

 逃げ切れる。そんな淡い期待を持ったことが地獄へと誘ったのか、橋の向いに盗賊らしき集団が現れた。統率の取れた動きで両サイドには弓を持っている人物も見て取れた。

 橋の中央で馬を止めてどちらに逃げるか見比べる。

 背後には橋の手前で止まった怪物。

 正面には五人ばかりの盗賊。

 あまり止まっていても弓で狙い撃ちされてしまうだけなので、俺は瞬時に盗賊への突進を決心した。


「くっそぉー!!!!」


 馬を全力で走らせて突進して行く。

 盗賊はそれを避けることもせずにただその場でこちらを睨み付ける。


「よし!このままいけば!」


 いつも甘い考えを持った時は危険が迫る時だ。盗賊の一人が人間離れした加速を見せて俺の首を貫いた。

 体が宙に浮く。馬は主人を置いて走っていき、盗賊の誘導で森の中へ消えた。

 俺の体は落下して橋から落ちる。

 走馬灯のように兄弟のことが脳裏をよぎるが、それらは怪物が人間に懐いているのが目に入ったことで吹き飛んだ。


 怪物が、人間に懐く……?


 その信じられない光景を眺めながら、俺とロバートさんは冬の冷たい水の中へ沈んだ。


 次回:翌日18時投稿


 お忙しい中、私の作品に目を通してくださり、ありがとうございます。

 私自身、まだまだ勉強中なため、皆様のレビューが成長の糧になります。

 お手を煩わせて申し訳ありませんが、『星をつけて評価』よろしくお願いします。


 最後に、読んでくださった皆様に感謝を。ありがとう!

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