3 土下座とドラゴンとドストライク 前
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
ざわざわっ。
ビクビク。
理由はさっぱりだが、敬意を持たれているらしい。恐れおののかれているらしい。
市役所を木造建築に作り替えた建物の中にて、頭を下げて膝と肘を地に着ける土下座者が多数目撃された。
その先にいるとはあらまぁ不思議、シズムです。
行けと行けよの譲り合い。
シズムの前に最初に出てきたのは、先ほどの婦警ーーギルドの方って言われてたから職員か。
「お金なら可能な限りお支払いします。ですから、街を食い尽くさないでください。一年に一度であれば生贄を差し出しますから。この通り」
なぜ謝られているのかさっぱりだけれど、お金を貰ったら銀行強盗になりそうな気がするのは気のせいか。
「いえいえいりませんよお金なんて。人の肉の方が好ましいので」
いえいえいりませんよお金なんて。なんにもしてないわけですし。
「まだ若い子供もいるのです。お願いします。ご慈悲を」
明らかに話が合っていないぞ。
同じ日本語で話している。それは間違いない。文字もちょいちょいおかしな部分はあっても日本語だ。さっきの女の子と普通に話せていたじゃないか。
な、ら、ば。
「先に我と話した子を用意せよ」
さっきシズムと話した女の子を連れてきてください。
ざわついた。
「まだ小さいのです。子供の命は取らないでください!」
話すだけだよ?
「我は待たぬ。子の柔らかい肉が好みである。連れて来なければ皆殺しにしてやろう」
いいから早く連れてこい。
しばらくして、女の子がやってきた。
名前はドン。女の子の名前として付けた人はさぞネーミングセンスがなかったんだろう。お腹の中のあの子の後だと、きつねうどんを連想する。
「どーしたの?」
「それはこっちが聞きたいの。なんかさ、言葉が上手く通じなくって。翻訳してくれない?」
「いいよー」
同じ日本語なのに翻訳がいる世界。
たった一人、通じる相手がいて助かった。誤解は解け、謝罪の意を込めてか料理を振舞われた。謝罪すべきは逆なのでは。
「強かったなぁ。まだ子供なのにとんだ手練れだ。拳一つで吹っ飛んじまった」
おっさん三人衆が一人、髭男の……名前忘れた。興味がなかった。
「近づいたら殺すぞ」
あっち行ってください。
「近づいたら焼き殺すぞだって」
「ひぇー、炎まで使えるのか」
性悪に仕上げてないで真面目に翻訳してくれない?
「きちんと翻訳しようか。嘘は良くない」
「はーい」
無邪気な笑顔って恐ろしい。
なんでこの子だけ普通に話が通じるんだ。同じく女の子に生まれ変わった人だとか?
美味しい物とは言えない料理だが豪勢ではあった。口に合わなかったが最大限の持て成しは受けた。
本当に謝罪なのだろうか。食べておきながらなんだが、『何かをお願いする前に相手の機嫌を良くして手伝ってもらおう』という意図を感じる。
「ドンちゃんドンちゃん。少々いいですか」
肉ばかりを好むドン。なかなか返事がない。
「ドーン」
全く聞いていない?
「お肉美味しいね。頼む?」
「もっと食べる」
食べ物の話題だと反応するのか。食い意地の張った子め。
料理が持って来られる前に聞いておこう。
「この街ってさ、変な問題とか抱えてないよね」
もし抱えているのなら、面倒ごとに巻き込まれる前に空気に紛れて街を出たい。
「強かった」とお世辞を言われたのも気掛かり。頼む前に気を良くしてもらう方法は奢るだけじゃない、褒める方法だってある。天狗にして何かやらせようって魂胆が見えてきた。
「あるよ。ちょーやばいの」
ちょーやばいって。ドンがちょーやばいって。
聞く前に逃げた方が良さそうだ。
席を立つと、料理を持った職員が道を塞ぐ。料理の他に、手に機械を持っている。顔より大きい。
職員は言った。笑顔で。
「あのーもしよろしければ、冒険者登録カードを見せては頂けないでしょうか。あ、こちらをどうぞ」
「おお助かる」
お前にじゃないだろ。料理を横取りしたドンを横目に、嫌な予感が這い寄ってくる。
のんびり暮らすには、この街はダメだ。早く引っ越して田舎で過ごそう。絶対こき使われる。媚び売られて集られる。
「冒険者登録カードなんて持っていませんよ」
ドンがモグモグ食いながら余計なことを。事実だが初見の人がなぜ知っている。
「では登録致しませんか? きっとお役に立てるでしょう。クエスト、も受けられますしねぇ」
強調されたクエスト、受けたくないんですがどうしたらいいですか。
後ろには無数の料理が控えていて、『精一杯尽くしたのだからもちろん断ったりしませんよねぇ』の圧に押し潰される。
「割引もされますしねぇ」
「よかろう」
仕方ないなぁ。
安くなるなら乗っかって損はない。
機械の上に手を乗せたら、こんな画面が出てきた。
氏名:シズム
職業:復讐者
レベル:ERROR
物理攻撃力:ERROR
魔法攻撃力:100
物理防御力:ERROR
魔法防御力:EROOR
スキル:《早熟》《不条理な感情論》
状態:《不老》《特殊強化》
物理攻撃力とか魔法攻撃力とか、ゲームで見たこと百パーある。
「「「エラーだと」」」
周りの反応など見ずとも、馬鹿でも理解。測定器でエラーが出たら、異常ってことだ。
「数千年生きていようとも、目にせぬスキルよ」
ドンの謎風格アピールはさておき、期待の眼差しが凄まじい。
「これなら」
「ああ、行けるぞ!」
「ようやく街に平和が」
奢ってもらって何もしなかったら、名前を暴露されたシズムは世界中に晒されてしまうだろう。
やるしかない。たとえなにがこようとも。
測定不能なんだぞ? 負ける気がしない。
「シズムさん、いえシズム様!」
どんとこい! 魔王以外ならなんでも行ける!
「魔王さえ噛み殺したドラゴンの討伐、どうか頼まれてください!」
「「「シズム様ー!!」」」