0 このまま死ぬくらいなら呪ってやるぅ!
「好きです。付き合ってください!」
空の青さに花びらが混じる。
出会いと別れの春を表す、日本で有名な桜の花。
卒業したら、二度と会わないかもしれない。
この気持ちを放っておくのは、生きていく上で苦しむ一端になりかねない。
緩やかな花びらの流れは吹雪に。
自然の行くままに、髪が揺れていた。
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朝日 沈二十五歳。
出身、東京。東京〇学を三年程度浪人し、大手企業に新卒で内定を貰った会社員一歩前。
留年の理由は授業をサボっていたでも素行が不良だったでもない。彼の卒業を待っていた。
特別接触もなく、失敗してもお別れな卒業のタイミングを待って告白した。当然のようにフラれた。
覚悟を決めていたのだから、多少気が落ちる程度で済んだ。
事件は新入社員歓迎会の前夜。
お祝いで友達と焼肉パーティーに行った帰り道。
見てしまったのだ。彼と他の女の子が手を組んで歩く様を。
結構な量を飲んでいて、気が付けばーーマンホールに落っこちていたらしい。頭の後ろを撫でると、面白いほど膨れ上がっている。
マンホールに不意で落ちたら死ぬだろう。当然のように死んだ。見ているのは、地下水路で見るに堪えない自らの亡骸。
幽霊になって、それからそれから。しばらくして、温かい光と共にお迎えがきました。赤ちゃん型の羽根の付いた天使が二人、手を繋いで運んでくれた。
で、気が付いたら雲の上だ。
今度は赤ちゃん型じゃない、小さな女の子だった。
じっと見つめて、シズムの第一声を待っているようだ。
「リア充〇ねって言ったら、地獄送りになりますか」
「お気持ちは察します」
よしよし。頭に掛けられた重力が、温もりで体を包み込む。
人生、頑張った。うん、頑張ったよ。あとは天国で安らかに、のーんびりと暮らそうか。
「何か、生まれ変わったらやりたいこととか、なりたいものとかありますか? 遠慮せず、言ってみてください」
死んですぐに来世を考えろって言われても。
適当に選んだら勿体ないし、欲張ったら「そんな贅沢言う子には何も上げません!」って断られちゃうんじゃ。
頭が痛い。考えてるのもあると思うけど、落ちた時の衝撃も残っていると思う。
「いきなり決めろ言われて決められるほど優秀な人材じゃないので」
本音を言うと、人を呪いたいくらい鬱憤が溜まっている。前世となる記憶は消えるのだから関係ないだろう。
就職活動のような目先の目標もない。ダラダラ過ごして、好きなことを見つけたらそれがベストに思えてきた。
「身長高いのはちょっと」
途端、忌々しい言葉と光景が浮かんだ。フラれた原因は、身長が高いから。来世も低身長が人気なのだろうか。小学生の時には中学生の身長、中学生の時には高校生の……。
「あなたと同じ身長でお願いします」
「それだけ、ですか」
「オンリーワンで」
太りやすい体、痩せやすい体。こいつらはまだ運動次第で変えられる。身長は遺伝が大きいし、一度成長したら老後まで縮まない。
「できるだけ長い間、そのサイズで」
「不老、と」
「不死だと辛くても生きないとなんで、できたら不老だけでお願いします」
「変わってますね」
生まれ変わった後はその後のシズムに任せよう。頑張れ。前世の嫌なことは忘れて、未来に向かって頑張れ。
「ではそろそろ。成績が優れていましたので、魔法使い向きの体にしておきますね。あと、早く結果が出るよう、成長も早くしておきます」
魔法使い、か。夢も希望もない日本より、よっぽどワクワクしそうな響き。
感謝したいが声が出ない。心の中だけど、ありがとう。
来世の姿を想像しながら、意識の消滅に身を任せた。
***
朝日 沈。年齢不詳。自分の体がどうなっているのかも不明。
出身、不明。頭が冴えている気がするが、名門校でも卒業したのか。
いつの間に?
まず、生まれておにゃーの記憶がない。次に、親の顔も浮かばない。育った地も思い出せない。
--正確に言うと、???(ここ)、での記憶が。
時間が経つにつれて、脳が回転し日本の記憶ばかりが蘇る。
ああ。
嗚呼。
あ"あ"あ"あ"!
アアアアアアアアアアアア!
耐え難い失恋の記憶に、体が勝手に暴れ出す。意識が朦朧としていて、地面の上にいる他は理解できない。
憎い。
よくもフったな。
ああああああああああああ!
呪ってやる。永遠に呪いの電話かけてやる!
顏がいいからってなんだ。調子乗るなボケ。
くそう。
ぶん殴りたい。顔をぐしゃんぐしゃんにしてやりたい。
「くそったれえええええええええええええええええ!」
狂乱の始まりが被害を生むのは、少し先の話である。
次回は本日の22~23痔の間に更新する予定です。