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善良な異教徒の街④

 一向に動こうとしないウィルを見てマリはため息をつくと、仕方ないと言わんばかりに話し出した。

 ゾンビのこと、そして審判者の役割について。


「前にも申し上げたように、すべてのひとがゾンビになるわけではありません」


 マリはそう言って歯形のついた自らの腕を見せつけた。


「ウィル、いつかお話しなければと思っていましたが、いまがそのときのようですね。

 そう、これまであなたが見てきたゾンビは、すべてあなたが噛んだからゾンビになったのですよ」


 ウィルはマリが一体何を言っているのか理解ができなかった。したくもなかった。


「でもボクは噛みついた記憶なんて何も……」


 ウィルはそう言いながらも、昨日見た夢を思い出していた。


「気にすることはありませんよ。あれはあなたの意志ではないのですから。

 祝福のとき、ウィルあなたには神の意志が宿っているのです。あの日あのとき、あなたは神の意志の下動いていたのです」


 マリはそう言うと、うっとりとした表情でウィルのことを見つめる。しかしその目は自分のことを捉えてはいないのだとウィルは確信し、胸がチクリと痛んだ。

 マリはそんなウィルに構うことなく歌うように話を続けた。


「神はすべてをご覧になっています。我々の預かり知れぬ遥かなる高みから。

 そしてときにウィル、あなたのような者を生み出し、この地にしかるべき祝福を授けるのです」


 マリは肉塊を背に両腕を広げ言った。


「それがゾンビなのですよ」


「……じゃぁゾンビルートって何なんだ?」


 マリはその言葉が嫌いなようで、顔をしかめた。


「審判者はときに、ゾンビルート、ゾンビの根源と呼ばれることがあります。ですから審判者ではなく、ゾンビルートと呼ばれることもあるんです」


「神聖な審判者に向かって、失礼な言い方だと思いますがね」マリはぷりぷりと怒っているようだった。


「この村のどこに、こんな酷いことをされる必要があったんだ」


 昨日までは笑い声と、活気に満ちた村だったのに。


 今や廃墟と化した村を見て、ウィルは悲し気にぼやいた。


「女将さんはいい人で、いつも笑顔で、あんなに美味しいご飯を作ってくれた。シーツは太陽の匂いがした。子どもたちは元気に走り回って、大人たちは一生懸命畑仕事をしていた。この村のどこに……」


 ウィルの目からはとめどなく涙が溢れていく。


 マリはコトリと首を傾け、何でもないことのように言った。


「ここは異教徒の村ですから、こうなるのは当然のことではありませんか」


 いまマリは何て言ったのだろう?


 ウィルは混乱する頭で必死に考える。


 もう聞きたくない!


 頭のどこかでウィルは悲鳴を上げていた。そんなウィルに、マリは駄々をこねる子どもをあやすように話す。


「だから裁きが起きたのですよ」


 ウィルは話す気力さえ失ってしまった。


 すぐに村には火の手が回り、村はあっという間に火に沈んだ。

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