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善良な異教徒の街②

 ウィルは川面に映る自分の顔を見ていた。


 見た限り、何も変わっていないように見えるのに。


 体を改めて見ても、どこも変わったところなどない。では何故……。ウィルは故郷の村を出て以来、自分のことを見る他人の目を怖がるようになっていた。



 宿屋で食べる食事は、この村で採れたものを中心にした郷土食で、ウィルには懐かしささえ感じさせる発酵食も数多くあった。

 しかしそんな料理の数々もマリは気に入らないようで、一口もつけようとしなかったのが残念なくらいだった。


 慣れれば美味しいのに。


 ウィルはそんなマリを尻目にぱくぱくと食べ、何度もおかわりをして堪能するのだった。


 部屋に戻ったウィルは、膨れたお腹を抱えるようにしてベッドに倒れ込んだ。

 その気分は晴れないままだ。


 誤魔化すように無理に明るく振舞っても、あのとき少年たちのバケモノを見るような目がふとした瞬間に蘇るのだ。

 ウィルはそんな思いを振り切るように頭を振ると、気分を切り替えて寝ようと歯を磨くために立ち上がった。


 するとそのとき、強い耳鳴りがウィルを襲った。


 いったい何が起きているんだ。


 耳鳴りはどんどん勢いを増していく。ウィルはふらふらと倒れ込み、気絶してしまった。



 ……ウィルは厭な夢を見ていた。出てくるのは昼間に会ってきた人たち。

 驚きのあまり口を開けている女将。こちらをにらみつけ、包丁を振りかぶっているご主人。

 だが振り下ろされた包丁に切り裂かれても、何も痛みは感じない。


 やっぱりこれは夢なんだ。


 ウィルはぼんやりとそんなことを感じていた。

 自分ではないダレカは、2人を噛み殺すと満足したのか宿屋を出ていく。そのあとも外にいる人だけでなくときには家の中にまで入り込み、手当たり次第に人を襲っていくのだった。


 首周りの肉が好きなのか、そのダレカは贅沢に好きな場所だけつまみ食いをしては亡骸を捨て次に向かう。

 すると噛まれた人々はしばらくするとゾンビになって起き上がり、また新たな人を襲っていく。ゾンビに噛まれた人もまたゾンビになって起き上がるので、まもなく村はゾンビだらけになっていくのだった。


 目の前を少年が走って逃げている。

 ウィルは追いかけっこをしていた子どもの頃を思い出し、すっかり楽しくなってしまった。

 

 次第に縮まる距離。


 ついにウィルは少年を捕まえ、首元に噛みついた。こちらを振り向いた少年の顔は恐怖に酷く歪んでいた。その顔には見覚えがある。それは夕方、ウィルにぶつかってきた少年だった。


「ゾンビルート」


 少年は震える口でそう言うと、もう二度と話すことはなかった。


 ウィルはショックのあまり目を覚ました。

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