善良な異教徒の街①
次に二人が向かったのは、ウィルにとってどこか懐かしい、土と家畜の匂いのする村だった。
村を囲む木塀は低く、門番のような者は誰も立っていない。ウィルは故郷の村を思い出し、つい浮足立ってマリに早く行こうと急かすのだった。
しかしマリは何故か気が進まないようでその足取りは重い。そんなマリを半ば引っ張るようにして2人は次の村、イラカへと入っていった。
イラカ村は外から見た期待通り、素朴な農村だった。小さな子どもから腰の曲がった老人まで、すべての村人が力を合わせて農作業に勤しんでいる。
ウィルはかつて、家族そろって農作業をしていたことを思い出していた。
あのときはあれほど辛く、いつか逃げ出してやろうとそればかり思っていたのに。
ウィルは村で過ごした日々を愛おしく思い出すのだった。
※
「いらっしゃい旅人さんかい。その恰好、ルード教の方だね。そしてあんたはもしかして……」
出迎えてくれたのは、イラカの村で唯一宿屋を営む女将さんだった。商売柄にこやかな笑みを絶やさなかったが、ウィルのことを見て、一瞬表情が強張ったように感じた。
マリと違い巡礼服を着ていないウィルは気まずそうに苦笑いを浮かべながら軽く頭を下げた。
「うちは宿屋をしているから、いくらでも休んでいっておくれよ」
女将に案内された部屋は掃除も行き届き、ベッドはやや硬かったがさらさらとしたシーツからは太陽の匂いがした。
夕飯まで時間があるというので、ウィルは外を散歩することにした。マリも誘ったのだが、「ここには教会もありませんので」と言ったきり一歩も外を出ようとしなかったので、やむなく置いていくことにした。
夕暮れが近いのか、辺りは作業を止めて農具の片づけている村人も多く、仕事を終えた子どもたちはふざけて走り回っている。ほのぼのとしたその光景に、ウィルは荒んだ気持ちが洗われるようだった。
とそのとき、前を見ずに走っていた少年がウィルにぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
ぶつかったことに気がついた少年は顔を上げ、慌てて謝ってきた。しかしウィルを見るなりその顔はみるみる強張り青ざめていき、終いには泣き出してしまう。
その声を聞き駆けつけた母親らしき女性も、ウィルの顔を見るなりその笑顔を強張らせた。少年は後から追ってきた父親に、助けを求めるように飛びついた。
目の前で繰り広げられる光景に、ウィルは置いてけぼりにされた子どものような思いをしていた。
「大丈夫、私たちは悪いことなど何もしていないのだから」
そんなことを言っているのが聞こえてきた。
ウィルはその家族に何度も謝れたが、いたたまれない気持ちになり逃げるように走り出した。まるで化け物を見るような目に、深く傷ついていたのだ。




