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商人の街グリド①

 イラカの村を出て以来、マリがどんなに話しかけようと、ウィルはそれに応えようという気力がわかずにいた。


 最近ウィルは夜がひたすら怖かった。眠りに就くのが恐ろしくて仕方がなかったのだ。


 ゾンビルート


 あの夜少年が言っていた言葉が、何度も頭の中で蘇る。


 ボクは周りを不幸にするモンスターなんじゃないか。


 いつ自分がマリやほかの誰かを襲いだすのではないかと考え、夜中に飛び起きたのも一度や二度のことではない。


 夜中に眠れずたき火を見つめる中、コンコンと声がする。

 ウィルはあることに気がついた。

 最近、マリが苦しそうにせき込むことが増えたのではないだろうか。


 ボクはモンスターなんかじゃない。


 ウィルはマリのことを気遣った。

 しかしマリは体調が悪いのかといくらウィルが心配しても「大丈夫」と言うばかり。

 ますます気まずい空気が流れる中2人は結局無言で旅を続け、遂に次の街グリドへと辿り着くのだった。



 グリドは商人によって栄える港町だ。この街では一夜にして信じられないほどさまざまな物や金が動く。人々は忙しく過ぎ去っていく、活気に満ちた街だった。


 グリドの街の門にいたのは、優秀な門番だった。

 カウンター越しに来訪目的を訊ね、書類に手早くまとめていく。マリの修道服をみるやいなや、すんなりと許可が下りた。対応は終始笑顔だ。

 しかしウィルには、その張り付けたように変わらない笑顔が、ひどく不気味なものに見えて仕方がなかった。


 街に入ると早速2人は教会へと向かった。ウィルはもう教会などどうでもよかっただが、日々やつれていくマリに頼まれると、どうしても断ることができなかったのだ。


 教会ではこれまたでっぷりと太った司祭(高司祭と呼ばれるらしい)が2人を出迎えてくれた。

 マリは挨拶もそこそこに、いつものようにワインを3本取り出した。しかしそれを見た高司祭は頭を振りながら、いかにも残念そうに言った。


「グリドの街はご存じの通りほかよりもずっと大きな街。教会はもちろん、懇意にしていただいている敬虔な信者もずっと多いのです。

 ですから、もっといただいてしかるべきなのでは?」


「しかしこれは規則に基づく正式な数で……」


 マリは露骨に厭そうな顔をしていた。そんなマリに、突如高司祭は声を荒げる。


「我々はいつも多大なお布施もしております。そう、ほかの街の何倍もの金額を。

 にもかかわらず、ほかの街と同じような対応では納得がいかなくて当然。万が一のことがあって困るのは、我々だけではないのですよ」


「神もきっとお許しになります」高司祭は声を和らげ、にやりと笑った。


「しかしいま手持ちはこれしか」


 マリが言い淀むと、畳みかけるように高司祭は詰め寄り言った。


「ではお帰りの際ワインをお持ちいたします。あとは宿で落ち着いた後、ゆっくりと洗礼を施していただければよろしいでしょう」


 結局マリは高司祭の言い分に負け、帰り際高そうなワインを5本も渡されてしまうのだった。

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