神の使徒マリとの出会い
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ゾンビルート、そは愛の力によって世に生まれし審判者であり、祝福である。咎なき者は恐れることなかれ。祝福のとき、神は正しき者を守るだろう。
ルード教福音書より一部抜粋
「村が、燃えている」
絶え間ない悲鳴がそこらじゅうで響き渡る。
視界が赤と黒に占められるその中で、少年ウィルの目の前には、そんな世界から切り離されたように場違いな少女が立っている。
長い金髪は艶やかで、白く張りのある肌はシルク。優しくこちらを見つめる大きな瞳にはサファイアがはめ込まれたようだ。炎の光を吸い込み、きらきらと瞬いている。
「私を、食べていただけますか?」
少女はそう言ってウィルに向かって手を差し伸べる。そのとき、何故自分がそうしたのかはわからない。ウィルはそのふっくらとした手に、自分でも訳がわからないままかぶりついてしまっていた。
犬歯が柔らかい皮膚をぷつりと破ると、暖かな血が溢れだしてくる。じわじわと口の中に広がる甘みと、鼻先に抜けるかぐわしい香り。ウィルはこれ程までにおいしいものを味わったことはないと、思わず少女の手から口を離し、深くため息をついた。
深く息を吸い込むと、頭がこれまで経験がない程すっきりとしている。
「おめでとうございます。類稀なる愛をその身に受けし方」
少女はそんなウィルの様子を構うことなく、噛まれた痕を愛おしそうに撫で、ひと舐めしてから言った。
「あなたは生まれ変わったのです」
※
「いったい、何が起きているんだ?」
ウィルは混乱する頭抱え込むと、きょときょとと周りを見渡した。
……どうやらここは、いつも家族で行く教会のようだった。だがあちらこちらが破壊され、当時の面影がそこここにあるばかり。
ウィルは次に自分の体を見た。いつの間にかよそ行きの一番上等な服を着ていて、それが泥と血に塗れているほか体には傷一つなかった。
そのとき、教会の入り口からうめき声とともにナニカが入り込んできた。
それは低いうめき声をあげながら、緩慢な動作で歩いてくる。爛れた肉は歩く度に腐れ落ち、その臭気がこちらまで漂ってきて思わず吐きそうになる。
「あれはゾンビです」
少女は忌々しそうに顔を歪めて言った。しかしにらみつけるばかりで逃げようともしない。
「何言ってんだよ、逃げよう!」
ウィルは少女の手を掴み、走り出そうと引っ張るが、少女はビクとも動かなかった。
(何をしているんだ)
思わず舌打ちをしながら逃げ道を探し辺りを見渡すが、教会の裏口は瓦礫で埋まっている。出口はゾンビが入ってきた入り口の一つしかなかった。
「ご安心ください」
少女はウィルの手を振り払うと、一人、ゾンビの下へとすたすたと歩いていく。その姿に怯えなど少しもない。
(もう駄目だ、襲われる)
ウィルは思わず目をそらした。
少女がゾンビに襲われる光景を想像したウィルだったが、いくら経っても凄惨な声は聞こえてこない。不思議に思い恐る恐る目を遣ると、そこにはなんと、少女を怯えるように道を開けるゾンビの姿があった。
「言った通りでしょう? 不浄な者は私たちには近づくことすら恐れるのです」
少女は夢でも見るように、恍惚とした表情を浮かべゾンビの間を通り抜けていく。その姿はスキップでもしているように軽やかだ。
少女は入り口までたどり着くと軽やかにターンしてこちらを見ている。ウィルは噛まれるのではないかとゾンビに怯えながら、おっかなびっくり少女についていった。心配とは裏腹に、ゾンビはウィルが近寄ろうとすると益々離れるのだった。
「あ、こいつボクをいじめていた奴だ」
少し心に余裕が生まれたのか、ウィルがゾンビたちをよく見てみるとどれも見覚えのある顔ぶればかり。中には村でも問題視されていた悪ガキや、いつも何かと人の陰口ばかりをこぼす老女の姿がある。
「ゾンビになる連中です。ロクなものではないはずです」
少女はそう言うとウィルの手を強く引っぱっていく。ウィルはされるがまま村の外に出た。
※
息を切らしながら丘を登ると、そこにはもうゾンビの姿は見えない。振り返り、村を見下ろすと村全体が燃え盛っていた。
「父さん、母さんたちが!」
駆けだそうとするウィルの前に、少女が立ちふさがった。
「待ってください。村は火の手があって危険です。その身に何かあったらどうするつもりですか。
それにもう、お二人は生きてはいません」
ウィルは少女が何を言っているかわからず、首を傾けながら少女を押しのけ、村へと進もうとする。
「お二人はあなたを生き返らせる尊い犠牲になられたのです」
少女のその言葉に思わずウィルは立ち止まった。ゆっくりと振り返るとそこには何かを差し出す少女がいる。その手には、見覚えのある母の髪と、父の指輪があった。
「申し遅れました。私はルード教の使徒、マリと申します」
少女マリはそう言ってスカートを両手で持ち、優雅に腰を曲げ挨拶をした。ウィルはわなわなと頼りない足どりで少女に近づくと、二人の形見を奪い取るようにして掴み泣き崩れた。
マリはただそれを、無機質な眼差しで見下ろしていた。
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