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第八話「襲撃」

 それはミルカがうちに来てから、わずか数日後の事だった。




 私はユキに寝転がって、新しい遊び道具を考えながらごろごろしていた。

 あれから御爺は毎日私の護衛を探しつつ、調査を頑張っている。

 色々ごめんね御爺。


 勉強する気も起きず、マンガを描く元気も出ない。

 暇なので遊び道具を考えてみたけど、なかなかいいのが出てこない。


 はあ、早く解決しないかなあほんと。

 でも解決したらしたで、どうなるのかな。

 王族として城に連れて行かれるのかなあ?

 めんどくさいので勘弁して欲しい。


「早くいつもの日々に戻って欲しいよ~ユキ~」


 大丈夫よ!みたいな顔をして顔を舐めてくるユキ。

 ユキはいつでも優しい。ふふっ


「そうだ。今度は人生ゲームでも作ろうかな~」


 でもほんと、人生は山あり谷ありよね。

 誕生日が楽しすぎたのがダメだったのかなあ。



 その谷は、突然に訪れた。






 ガシャーン!


 窓ガラスが派手に散り、何かが飛び込んできた。

 矢だ。

 そして丸い筒のような物がついていて、煙をもうもうと吐き出している。

 襲撃だ。


 当面は大丈夫。

 御爺も私も、そう楽観していた。


 それでも毎日御爺は、護衛を探してくれていた。

 でも早々都合のいい護衛さんは見つからなかった。


 そもそも、襲撃の速さが想定外だ。

 でも今は後悔してもしょうがない。


「ユキちゃん!出るよ!」


 速攻でユキに跨り、裏戸口から外へ飛び出す。

 出た先には2人の人影、そしてすぐにもう3人が駆けつけてきた。


 彼らはみんな魔眼対策なのか、変な眼鏡を掛けている。

 子供一人に5人とかおかしいでしょ!もう!

 それに、こんな堂々と襲ってくるなんて!


 どうしよう?

 私でも分かるような、すごい殺気だ。

 はっきりいって怖い。

 怖いよ。

 怖い。

 怖い!


 必殺土下座の命恋も通じそうにない。

 最終奥義を封じられた私は、すぐに考えを切り替えた。


 頭と心を切り離すんだ。

 前世ではよくやってた事だ。


 軽く一呼吸。

 よし。


「おいでよおいで、精霊さん。楽しい宴の始まりよ。水が奏でて風が舞う。幻想的な霧の舞、みんなに見せて下さいな。水霧ウォーターミスト!」


 一面に大量の霧を発生させ、直後にユキが大ジャンプ。

 一端屋根に乗り、そのまま包囲を抜け、街の方角へと走る。


 すぐさま5人は追いかけてきた。

 いつのまにか馬に乗っている。


 大丈夫、想定内だ。


「おいでよおいで精霊さん。宴はまだまだ終わらない。お酒でご機嫌土精さん、宴を邪魔する悪者に、大地の鉄槌食らわせて!」


 発動直前でユキの上を半回転。

 目の前に5人が見える。


岩弾ストーンバレット!」


 狙いはばっちり!

 全員の顔面に岩の塊が突き刺さる!

 あ、一人防いだ……!

 取りあえず四人に仕上げだ。


「あ、御爺様!!!!」


 なるべく大きい声で叫ぶ。

 勿論御爺はまだ来ていない。

 でも敵の目が一瞬探る様に動き、そして一斉にこっちを見た。


『止まれ!!!!』


 魔眼をありったけの力で撃つ。

 眼鏡が砕けた四人にかかり、四人とも落馬した。

 もう一人!


「続くよ続く……」

「キャウン!!」


 次の詠唱に入りかけた所で、ユキに異変。

 派手に転がるワタシとユキ。


「ユキ!?ユキ!!!」


 何をされた?

 ユキはそのまま動かない。

 なんでだ。

 畜生。

 畜生!


 だめだ、感情を切れ私!

 畜生!

 この世もやっぱりクソだらけだ!!


 いや、落ち着け、先ずはヒーリングだ。

 諦めたらそこで人生終了ですよ!

 心の中でアゴをタップして気を持ち直しかけたその時、私の首に何かが刺さる。

 ああ、これか。

 そう思いながら、私はパタリと倒れた。





















 ■ ■ ■



 パァン!

 頬を打つ平手の痛みで、私は目を覚ました。

 暗い……目隠しをされてるみたい。

 カビ臭いし、どっかの地下室?


「ほら、起きなさい?よくまあのんきにすやすやと寝れるわねぇ。フフッ」

「誰ですか?」


 パァン!

 また平手が頬を打った。


「誰か、喋ってもいいって言ったかしらぁ?」


 いやな声だ。

 ねばっこくて気持ち悪い、ワタシが一番嫌いな声質。

 ねばねば女は何が楽しいのか、気持ち悪い笑い声をずっと立てている。


「ほほほ。本当ブリザにそっくり……まさか本当に生きていたなんてね。

 魔眼持ちだったなんて、そりゃ逃がしたくもなるわよねぇ?

 その魔眼で私の愛しいマーコスを操るつもりだったのかしら?

 ミルカは無事だったみたいだけど……ああ気持ち悪い!」


 気持ち悪いのはお前だよおばさん!

 って叫んだら気持ちいいだろうなあ。

 殴られるだけじゃ済まなさそうだけど。

 ってかこいつ、メルティナ本人……?


 この国の王族はなんでこんな行動力あんのよ。

 いや、このババアの血か、ミルカの行動力は。

 なんとも困った親子だね!


 手足は……鎖っぽい物でガッチガチ。

 どうしよう。


「なんとか言ってみなさい。喋ってもいいわよ?」

「あの、一体なんの事だか」


 パァン!

 また平手だ。


「そういうのはいいわ。めんどくさいから」

「そうですか。息が臭いので横を向いて頂けませんか?」


 ドスッ


「ギッ!!」


 太ももに何か刺された。

 調子に乗ってゴメンなさい!

 滅茶苦茶痛い!


 でもそれは、すぐにどうでもよくなった。


「はぁ、まあいいわ。フフッ、黒鍵のジジイは国家転覆罪で処刑にしてあげるわね。

 いくら七鍵でも、王族の誘拐なんて許されようが無いものねぇ?

 私達が救出に行ったけど、もうアナタは殺されていたって感じでどうかしら?

 フフッアハハハハハハ!!あのジジイ、邪魔だったのよねぇ」


 ババアが巫山戯た事を言い出したからだ。


 ワタシはもう別にいいよ。

 でも、御爺はダメ。

 御爺にもうこれ以上迷惑は掛けたくないんだよ。

 殺すぞババア。


「あ、準備が出来たらアナタのお父様も送って上げれるかも。嬉しいでしょう?」


 そっちは本当にどうでもいい。


 ババアの他にも、何人かの人の気配がある。

 逃げるのは難しそう。

 どうするか。


「あ、アンタを乗せてた狼ね、あれもちゃんと先に送ってあげといたわ。感謝しなさい?」


 なんとか時間を稼ごうと考えてた頭が止まる。

 いや、まあそうだよね。

 ついでに殺すなりしとくよね。

 でもさ。

 そんな事を伝えて、なんでそんな嬉しそうに笑うの?

 なんでそんな気持ち悪くなってまで、生きようとするの?

 ねえ?


「これでも感謝してるのよ?ジュアスはなかなか死んでくれないけど、どうにかなりそうだし。ずっと気になっていたアナタの存在は取り除けるし。黒鍵も排除できるし。フフッアハハハハハッ!」


 気持ち悪い声で余計に考えが定まらない。

 頭がぐちゃぐちゃだ。

 ふと思い出す。

 前世で見たドラマに出て来た、変な弁護士の言葉。

 髪型も変だった。

 いや実は結構好きだったけど。


 いいセリフが多かったけど、これが一番好きだった。


『人の醜さを愛せ』


 いい言葉だと思った。

 それが出来れば、世界平和なんてお茶の子さいさいだ。


 でもそれが出来ないから、人は醜いんだよね。

 前世を思い出し、おかしくなりそうだった私。


 その支えは、御爺とユキだった。

 この世はそんなのばかりじゃないと、教えてくれた。

 もう会えないのかな。


 いやだなあ。

 いやだいやだ、あーいやだ。


 自分も他人も、みんな醜い。

 自分が嫌いで、他人も嫌いだ。

 ワタシもババアも死ねばいい。

 全員総じて死ねばいい。

 そうだ、死ねばいいんだ。


「全員死んでよ!!」


 思わず叫んでいた。

 ……子供か私は。

 あ、子供だったよてへぺろ!


 我にかえって身構える。

 腿ドンはもう勘弁してつかぁさい!


 ……でも、何も反応はなかった。

 そして、


 ドサッ


 突然、近くで人が倒れるような音がバタバタっと響いた。

 何?今度はなんなの?


 もしかしてみんな死んでくれたんだろうか?

 んな訳ない。


 あーとかうーとかいう声だけが聞こえる。

 何が起こった?

 確認したくても動けないし……

 もしかして御爺?


「御爺?御爺なの!?」


 もう大丈夫!何故かって?御爺が来た!

 でも、誰からの返事もなかった。

 なんなんだよぅ……


 鎖は取れない。動けない。

 そだ、回復魔法!


「おいでよおいで精霊さん。楽しい……あれ?」


 精霊が全く反応しない。

 なんで?

 ……魔法封じ?


 何度か試すが、魔術が発動する気配は無い。

 腿から血が流れっぱなしだ。

 滅茶苦茶痛いけど、刺さったままだから流れは遅い。

 でもこのままなら、結局死んじゃうのかな。


 いやだなあ……

 もう一回だけでもいいから御爺とユキに抱きつきたかったなあ。

 痛みが無くなっていき、かわりに眠気が来た。

 あ、これアカン奴だ。


 必死に頭を振ったりしたが、どんどん眠気は強くなっていく。

 どうしようもないのかな。


 意識が落ちかけた時に、御爺の声が聞こえたような気がした。

 御爺、今まで本当にありがとう。

 ユキちゃん、本当にごめんね。

 いつかあの世で謝るから、許してね。

 ばいばい。



























「クロエ!?クロエ!しっかりせい!!!」




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