第五話「お誕生日de一日旅行 後編」
「面白かったー!」
お芝居とは思えない迫力で、私はがっつり引き込まれた。
実話を元にしているらしいけど、流石は剣と魔法の世界といった内容。
構成も演技も素晴らしく、すっかりテンペストさんのファンになってしまった。
御爺にいうと不機嫌になりそうなのでナイショだけど。
楽しい演劇も終わり、次はとうとう豪華お誕生日ランチである。
朝の屋台の事もあり、期待はうなぎのぼり。
案内されたお店は、年季を感じる豪奢なレストランで、内装も素敵んぐ。
端っこには、高級店の定番なのか変な石像が飾ってあった。
なんか、すごーく高そうなお店だお?
「御爺、御爺」
「ん?なんじゃい?」
「大丈夫なの?その……お金とか」
一瞬ぽかんとした顔をし、その後大爆笑。
なんだよぅ。
「子供がそんな事気にせんでいいわい!おじーちゃん結構ヘソクリ貯めてるんじゃ」
「そ、そーなの?」
いやよ?今月はパンと水だけとか。
まあ森でクマー狩りでも別にいいけど。
ずずいといい感じの席へ案内される、場違いなグラサンコンビ。
事前に注文は終わっているらしく、何もいわないのに飲み物が運ばれてきた。
私にはジュース。
御爺には高そうな葡萄酒。
グラスもすげー高そう。
ほんとに大丈夫なんだろうか。
「歴史を飲むのです」とか適当な事いわれて騙されてないだろうか。
ウチはそんなに給料はよくないんだぞ。知らないけど。
まああんまり気にしてもしょうがないか。
今日はお金は気にせず楽しもう。
料理はコースになっているらしく、前菜をつつきながら演劇の話で盛り上がる私と御爺。
「しかしのクロエ。話ではいい感じにされとったがヴィッツはろくでもない奴じゃ。もし会ったとしても絶対に着いていってはならんぞ?」
「あ、やっぱり守護者同士仲良かったりする……あれ、あんまよく無さそう」
「仲良くなんぞないわい。どいつもこいつも変なのばっかでのお」
「ふーん。御爺もそう思われてそうだね」
「クロエはなんで時々いきなり攻撃してくるんじゃ……?」
元々はアクセルハルトが主役の演劇をやっていたそうで、そっちを見せたかったとぶつぶついう御爺。
確かにそれは見たかったと思いながら、御爺の気遣いにどうにもニヤニヤしてしまう。
そんな話で盛り上がりつつ、料理は進んでいく。
ぶっちゃけ全てがびっくりのおいしさだったけど、特にメインディッシュのトゥリッシュステイクというステーキがヤバかった。
ちょっと時間がとんだくらいだ。
我に返った時、既にテーブルには食後のケーキが置かれていた。
これはあれだ。
きっと怪しい粉が……
「さてクロエ、改めて誕生日おめでとう。これは儂からのプレゼントじゃ」
アホな妄想をしてたら、突然御爺がお高そうな小箱を私の前に。
もしかしてあれかな?
前世では縁の無かったあれかな?
給料三ヶ月分ですか?
なんちゃって。
「開けていい?」
「うむ」
出てきたのは、凄い高そうな指輪だった。
土台のリングは小さい薔薇を紡いだような、繊細なデザイン。
その上に乗っている宝石は、オニキスとも違う、不思議な光沢の黒い宝石。
カットされた側面にはびっしりと細かい文様が刻まれて、色違いの細かい石も入っている。
気品あふれる、でも力強さを感じる、ざっくりいうとすごくかっこいい指輪だ。
毎年誕生日プレゼントはちょっと大きいぬいぐるみとかなのに、今年はすごいのきちゃった。
キャッチセールスに騙されたりしてないよね……?
「これはの、魔法の効果をあげる指輪じゃ。昔は杖なんて物が主流じゃったが、最近はこういう装飾品にした物が多い。こういった小さい物が主流になったのは、小さい魔石に魔法陣を刻む技術がーー」
御爺の長話を聞き流しながら、じっくりと指輪を眺める。
うーんふつくしい……
うふふ、気に入りました!
しかし指輪が杖かー。
まあ杖なんて邪魔臭いし、こういう発展もどの世界でもあるもんなんだね。
■ ■ ■
お腹が落ち着いた所でレストランを出て、本来の目的だった本屋さんへと向かう。
本屋さんの店主は御爺の知り合いらしく、私へ買ってきてくれる本も全てそこで買っているんだとか。
そんな話をしながら向かっていると、
「きゃあああ、泥棒ーーー!!!」
という物騒な声が響いた。
声の方を見ると、いかにもな薄汚れがこっちに走ってくるのが見える。
「ふむ、丁度いいわい。クロエ、ちょっとお勉強の時間じゃ」
「へ!?」
周りと御爺の温度差が激しい。
御爺はいつもマイペースだ。
しかしさて、お勉強とは。何すんだろ?
「魔眼というのはな、対策をされれば結構簡単に無効化されるんじゃ。まあそういう研究を先代様がやってくれたおかげで今の地位があるんじゃがのう。じゃがやりよう一つでいくらでも使えるもんじゃて。こういう時はな、ちょっと殺気を当ててやるんじゃ」
そういうと、御爺はサングラスを少しずらし、泥棒の方をみる。
次の瞬間、体にぞっと寒気が走った。
そして泥棒さんもびくっと震え、こっちに振り向いた。
『止まれ』
その声が響いた瞬間、走っていた泥棒は無理やり体を止めようとするように地面を転がった。
「振り向く程度の殺気をぽんと当てての、向いた瞬間にドンじゃ。まあ儂が本気で殺気を当てたら、それだけで死んでしまうかもしれんから加減が大事じゃ。ふぁっふぁっふぁ!」
自慢げな御爺はちょっとめんどくさかったけど、素直に感心した。
思わず「さすがですお兄様!」と叫びそうになった。
じいちゃんなのでやめたけど。
まあ殺気の出し方なんて分かりませぬが。
いや、そういうのも覚えて行かなきゃなのかな。
いつか私にも、覇王色の覇気が宿りますように……
あ、でも不意に注意を引いて振り向かせるのはいいな。
なんか考えよう。
「ん……クロエ、店はほれ、あそこに見えとるあれじゃ。じいちゃんちょっと泥棒を引き渡して来るでな。先にいっちょれ」
「むー、はあい」
周りの人も気付き始め、騒がしくなってきた。
御爺を見る目がなんか変な人もいたけど、魔眼に気付いた人がいたのかな。
あの人のお財布がスリに遭いますように……
泥棒さんの始末を御爺に任せ、一足先に本屋へと到着。
兵士さんとか見てみたかったけど、私を連れまわしてるのを見られるのもあんまりよくなさそうだし、我慢我慢。
本屋さんは昔の古書店を思わせるような、趣のある感じのいい店だった。
あ、異世界本屋ってなんかありそうなタイトルだね。
「いらっしゃい。ゆっくり見てってね」
やさしそうな声だけど、顔と体のごっついおっちゃんがお出迎え。
ちょっとびびったのはナイショだ。
店内はちょっと暗めだったけど、本がどれも渋い装丁で、いい雰囲気が出ている。
なんだか古い図書館のようで、居心地はいい。
のんびりと見て回り、何冊か手に取ってみる。
魔法などの実用書などを除けば、大半は恋愛系と冒険物だ。
この世界の冒険物は、実話ベースの物が多い。
剣と魔法の世界だし、ど派手な人生の人が多そうだ。
恋愛物はフィクションぽい物が多いみたい。
思ったよりも自由に書かれているようで、一安心。まあまだよく分かんないけど恋愛とか。
買って帰る本も選ばなくちゃ!どれにしようか、楽しい作業の始まり始まり!
こういう時間はほんとたのしいよね。ふふふ。
たっぷりと見て回り、選んだ候補は二冊。
一冊は「大公国誕生記」
もう一冊は「ウーノ・ベラクルスの生涯」
大公国誕生記は、実話を元にした戦記だ。
白人族領にはガーベリア王国を含めて今は三つの国があるけど、昔はいくつもの国に分かれて争っていた。
その内の一つであった、イントピレッド大公国を立てた偉人の英雄譚。
戦記物も大好物なので、すごく読んでみたい。
もう一つは、親の代で家が潰れてしまった元貴族のウーノという少年が、立身出世を果たし貴族に返り咲くという話。
こちらはフィクションで、最近人気の作家さんが書いた物。
物語も勿論素晴らしいけど、更に綺麗な挿絵がある点も人気の理由みたい。
ただその分写しが大変で数が少なく、人気がある事もあり、割とレアな本であるらしい。
なかなか絵もいい感じである。是非マンガを教えて上げたい。
実話ベースの物は、書いていい物かダメな物かの参考になりそう。
挿絵付きの物もマンガの戦略的に参考になりそう。
うーん物語的にはどちらも甲乙つけがたい……。
あ、だったらさっきの本の方がいいかも?
もう一回物色しようかしら。
「どうじゃクロエ」
どうしようかと悩んでたら、いつのまにか御爺が到着。
どうなったかはまた聞かせてもらおう。
「いっぱいあって目移りしちゃうよ。御爺、この本屋さん買って?」
「無茶いうのう……」
ダメだった。
御爺は「ゆっくり見るがええ」といい残して店主さんの所へ。
物色再開だ。
旅行記や食べ物系の本も結構多い。
こういったのは共通して人気なんだな~。
図鑑とかも興味あるし、恋愛系のもちょっと気にはなる。
でもやっぱこの二冊が読みたい…………むむむ。
あ、オススメでも聞いてみようかしら。
カウンターに行くと、店長さんと御爺がお茶を片手に歓談中の模様。
そこで思い出した。
マンガ見て貰わなくちゃ!
御爺の服をぐいぐいし、例のブツを渡す。
そして御爺経由で店主さんへ。
おっちゃんが怖かったからではけっして無い。
「おおそうじゃった!ハラマよ、これは孫が趣味で書いた物なんじゃがの。お主のプロとしての意見が欲しいらしいんじゃ。暇な時でいいから読んでみてやってはくれんかの?」
「はーそりゃすごいなお嬢ちゃん。じゃあ時間が空いた時にでも読ませてもらうよ。悩んでたみたいだけど、何かお嬢ちゃんのお眼鏡にかなう本はあったかい?」
あ、いい人そう。
「はい!目移りして困っちゃってます。店長さんのオススメってありますか?」
「ふむ。お嬢ちゃんが持ってる二冊は俺もオススメだな」
「なら、どっちも買えばええ」
今日の御爺の貢君レベルがやばい。
安くはないのに……
どっちか一冊でもいいんだけど、せっかくだし甘えてしまおう。
「うん。ありがと御爺!」
その後は余った時間で少し街中を観光。
気付けば、あっというまに日が暮れる時間になっていた。
「初めての街はどうじゃったかの?」
「んふふ、最高だったよ御爺!ありがとう!」
こうして私の初お出掛けは、中々に素晴らしい物となった。
まあ今日は色々特別だったけど、また遊びに来たいな。
あ、御爺の職場に配るクッキーの材料も、ギリギリで思い出して買ったよ!
……まだなんか忘れてる気がするけど。
帰りの城門前で思い出した。
ユキちゃんの事を忘れてた。
慌てて迎えに行ったら、あんた誰?みたいな顔された。
ごめんねユキちゃん……!
お土産も忘れてました……!
感想お待ちしております