第四話「お誕生日de一日旅行 前編」
ちょっとだけズルをして得た、念願の外出許可。
御爺は呆れながらも許可を出してくれて、どうせなら私の誕生日を街で祝おうといってくれた。
ふっふっふ、愛してるぜ御爺!おやつは五百円までですね!
誕生日まで、丁度後一週間。
着て行くお洋服やおやつの選定などの準備でばたばたしていたら、あっというまにその日はやってきた。
■ ■ ■
「御爺!早く早く!」
「そう急かすでないわい。もう少しまっちょれ!」
出発の朝、寝不足もおかまいなしに騒ぐ私。
寝不足の目は、サングラスによって隠されている。
そう、この外出に当たっての不安要素だった、魔眼。
それを隠す為の方策として、サングラスを着用する事にしたのだ。
御爺はもう知られまくってるらしく必要ないらしいが、昔は使っていたのだとか。
今回は御爺も後ろめたい部分があるので、お揃いで付けている。
御爺とお揃いでちょっと嬉しいが、見た目は結構怪しい。
御爺の準備を待つ間、私は入念にファッションチェック。
この日の為に用意した、青地に銀の刺繍が入ったワンピース。
入念に梳かした自慢の銀髪は、キラキラと輝いている。
その髪をポンパドールにし、星型のバレッタでとめた。
全身これめちゃカワコーデなり。
「よし、ばっちり!」
チェックを終えた私は、自家製おやつと、そしてマンガの原稿の入ったカバンを肩から下げた。
ふふふ、この日の為に私は、マンガを一つ描き上げたのだ。
アクセルハルトシリーズの一遍を原作にした、20ページほどのマンガ。
素人なりに、結構満足のいく仕上がりになった。
今日はこれを本屋さんに売り込むミッションもある。
私の歴史に、また一ページ……
御爺の準備も整い、いざ出発!
私はユキにまたがっての出発だ。
近いと言っても結構距離があるからね。
忘れがちだけど、私はまだ十歳なのだ。
でもユキは残念ながら、街の入り口近くの預かり所で留守番になる。
街の中でもお店に入らないならいいらしいが、流石にお店の中に連れて入るのはダメ。
もっと文明が進んで、ペット可のお店が増える事を祈るばかりである。
街までユキに送ってもらい、街に入ったらユキを預けて二人で行動する予定だ。
お昼位に一回様子を見にいこうかな。
一日離れるなんてなかったし、ユキちゃんも不安になっちゃいそう。
ちなみに御爺は強化魔術があるから、歩きでOKらしい。なんかずるい
■ ■ ■
麗しのわが家を出発し、思った。
我が家のある森がめちゃ広い。
街に向けて結構なスピードでぶっ飛ばしたにも関わらず、結構抜けるまでに時間がかかったのだ。
今まで思わなかったけど、なんでこんな森の奥に家を建てたんだろう。
近所付き合いは嫌いじゃ!とかゆってたけど、もうちょっとマシな所は無かったのかな。
土地代はすんごい安そうだけど……もしかして、お給料が少ないんだろうか。
いや、考えてみれば、都会の郊外の一軒家。
普通のサラリーマンならそれでも十分夢の物件だよね。
うん、問題無し!
森を抜けると、徐々に人の営みを感じさせる風景が目に飛び込んでくる。
畑を耕してる人や、道で雑談に興じる人々。
平和そうな雰囲気に少し、ほっとする。
そんな人達と高速ですれ違う。
すんげー勢いですれ違う私達を見ても、軽く手を振るだけな事に一寸びっくり。
きっといつもこんなスピードで走ってるのだろう。
高速で走る老人……なんかそんな妖怪の話があったような。
■ ■ ■
「うわあ、綺麗……」
それからまたしばらくし、とうとう街が見えてきた。
小高い丘から見る街はとっても綺麗で、思わずぽーっとしてしまう。
なぜかドヤ顔の御爺は無視だ。
いつか東京のコンクリートジャングルを見せて私もドヤ顔したい。
この街の名は、ガルナというらしい。
なんとこの街、元はガーベラス王国の王都だったんだとか。
戦争時代に城が破壊され、防衛の事もあり、今の王都であるルピスに遷都されたらしい。
現在はもう城は一部しか残って無いが、旧王都とか副都と呼ばれガーベラスで二番目にデカい街として賑わっている。
「まあ分かりやすく言えば、京都みたいな町じゃな」
「御爺が日本通すぎる」
なんて話を、屋台のサンドイッチを食べながら教えて貰った。
因みにユキちゃんは既に門近くの預かり屋さんに預けている。
お土産買って帰るから許してね、ユキ。
ユキを預けて街に入った私達は、取りあえずご飯という事で入口近くの屋台に足を運んだ。
すげーいっぱいある屋台の中から厳選された御爺おススメのこの屋台は、5種類の具材と野菜を好きな組み合わせで挟んでくれる、サ〇ウェイみたいな屋台だった。
謎肉の炒め物、薄切りのハムを分厚く重ねた物、何かのペースト、卵サラダ、謎サラダ。
食欲を誘う見た目と香りにも惹かれ、他も気になりつつそこへ。
私はハムと卵サラダを別々で。
御爺は謎肉ダブルだった。
大丈夫か御爺。
ハムも卵もすごくおいしく、分けてもらった謎肉ダブルサンドもめっちゃうまかった。
こんなおいしい物を一人で……と思いつつも、謎肉のレシピを必死に探った。
いつかウチでも作ってみたい。
ふと思ったけど、この世界は前世の地球に比べて文化レベルは余裕で負けてるくさいけど、ご飯のレベルは遜色なく発展しているんだよね。
ジャガイモは普通にあるし、砂糖も塩も油もお手頃っぽいし、お米もあんまし食べられてないっぽいけどあるし。
この屋台のサンドイッチも、記憶にあるあのサンドイッチよりおいしいくらいだし。
食いしん坊の多い世界なんだろうか。
もしかして、食べる系マンガの方がウケがいいのかも……ゴローさんをこの世界にも召喚するべきかな?
そんな事をつらつらと考えながらもしっかりとサンドイッチを完食し、謎肉のレシピ談議をしながら次の目的地へ。
午前の予定は、この街で一番大きいらしい歌劇場での演劇鑑賞だ。
それもすごく楽しみだったので、どんな演劇なのかなんて話にも華が咲く。
そしてそんな話に夢中になっていた私は、向こうから歩いてきたちょっとごっついおっさんにぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
「チッ!気を付け……ヒッ!」
文句を言いかけたおっさんは、なんかびっくりしたような声を出した後、無言で行ってしまった。
なんじゃいな一体。
と思ったが、ずり落ちた眼鏡を直しながら気付く。
ああ、そういう事か。
「ふぉっふぉ、気にする事はないぞいクロエ」
「……うん」
■ ■ ■
ほどなくして歌劇場に到着。
その建物はそれ自体が芸術的で、またもちょっとぼーっとしてしまった。
こういった大きくて綺麗な建物は、見るだけで楽しいね。
そろそろ公演が始まる時間らしいので、ちょっと急ぎ気味に席へと向かう。
いい席が取れたんじゃ、と嬉しそうに案内してくれた席は確かにいい席だった。
席につき、さっそく私は持参したおやつを取り出す。
観劇しながらお菓子を、お菓子を……食べていいのかな?
今更だけど、お芝居を見ながらのお菓子はアリなのかナシなのか。
御爺が小声で「儂にも少しくれんかの?」と聞いてきたので、アリのようで一安心。
フリード家特製、というか私特製の煎り豆は、御爺と私のソウルフードだ。
ぽりぽりと開演を待っていたら、でっぷりと太ったおっちゃんが舞台の中央へ立ち、通りのいい声で叫ぶ。
「本日からの公演は、かの英雄『風鍵の守護者、ヴィッツ・テンペスト』の英雄譚の一遍!どうぞお楽しみください!」
ワァッ!と上がる歓声と拍手。
って、風鍵の守護者?
「ねえねえ御爺!……どしたの?」
御爺がよくいってる闇鍵の守護者と似たような名前にびっくりして御爺を見ると、周りの熱気とは対照的に不満げなご様子の御爺。
「儂が見せたかったのは、あんな馬鹿の話ではないんじゃ……」
「え?知り合いなの?」
演劇の演目に選ばれるくらいすごい人と知り合い?
うちのおじーちゃんの謎は深まるばかりだ。
「歌劇場のお話に使われるくらいすごいんだ、守護者って……」
「儂の方がすごいけどの!」
もしかして、自分が選ばれなかったから不機嫌なんだろうか。
それとも、有名なその守護者とかいうのを勝手に名乗ってたのが孫にバレるかもとかそういう心配をしているのかもしれない。
大丈夫、嘘でも御爺はすごいって分かってるから!
という生暖かい目で御爺を見ていたら「わしゃ寝る!」といって寝てしまった。
一人で見るのはちょっと寂しかったが、まあいいかと向き直る。
しばらくして灯りが落ち、いよいよ公演という所でふと視線を感じた。
見れば前に座っていた女の子が、ちらちらとこっちを見ている。
なんじゃろなと思い、すぐに気付いた。
こんな暗がりでサングラスをしてるのは私と御爺だけだという事に。
恥ずかしくなってサングラスを外したら、女の子はびっくりしていた。
あ、そういえば魔眼を隠す為にかけてるんだった!
すぐにかけ直したけど、かけっぱなしだと舞台はやっぱり見にくかった。
そうしている内に舞台は開演。
みんな舞台に集中してるし……まあいいか、とやっぱりサングラスを外した。
舞台が終わる頃にかけ直せばいいでしょ!
演目は、「暴風」ヴィッツ・テンペストの冒険討伐譚。
ヴィッツの名が知れ渡るきっかけの一つになった魔獣討伐のお話らしい。
暴風というのはヴィッツさんの二つ名で、七鍵の守護者の方々はみんな二つ名を持ってるんだとか。
威勢のいい掛け声が響き、御爺も起きたようで解説してくれた。
サングラスは御爺も外していた。やっぱ見にくいよね。
その二つ名だけど、御爺は「暗黒卿」とか「死神」とか呼ばれているらしい。
中二心をくすぐる実によい二つ名である。死神は多分見た目からだね。
「研究所でも死神様と呼ばれての。尊敬されとるんじゃぞ!」
「……んん?」
いや、なんかそれ大丈夫なの?
急にイジメで付けられた呼び名感が出て来たんだけど……
人間関係は大丈夫なのかね御爺様よ。いい笑顔で語っておりますが。
よし、今度御裾分け用に美味しいクッキーを焼こう。
私がなんとかしなくっちゃ……!
まあそんな決意は劇が始まって五分で忘れた。
子供ってそんなもんです。