表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

第二話「魔眼勝負」

「さてさて、今日は影縛りと影剣でもやろうかの」


 体調もすっかりよくなり、毎日お勉強や家事やユキちゃんに追われる日々。

 今日は闇曜日なので、闇魔術を勉強する日だ。


 私の住むこの星は地球と色んな所が似ていて、一年は365日で、12ヶ月ある。

 週も一緒の七日なんだけど、呼び方はちょっと違う。

 この世界の魔法の属性は七種あって、曜日もそれが当てはめられている。

 聖、闇、火、水、土、風、無。


 魔法の授業はその曜日の属性に合わせて一日一種類づつ。

 因みに無魔術だけは他と少し違い、自分の魔力をメインに使う魔術だ。

 他は全てその辺にふよふよしている大気中の魔力を使う。


 無魔術は成人してからが好ましいという事で、今は習っていない。

 という事で、無曜日はお休みにしている。


 今日は闇曜日なので、闇魔術メインでのお勉強という訳だ。


「まずはクロエ、やってみぃ。狙いはユキじゃ。ユキ!ちょいとその辺を走り回っておれ!」

「ふっふっふ、今日こそ捕まえるよ!ユキ!」


 影縛り。

 いつもだるそうな某ちょんまげ忍者が得意だった術によく似た魔術だ。

 マンガでも大活躍だったが、実際使い勝手はかなりいいと思う。

 街でスリに遭っても一発捕獲。

 まあスラれた事にすら気付けなかったらダメだけど。


 でもこの術、命中させるのが結構難しいのよねぇ……


「おいでよおいで精霊さん。楽しい宴の始まりよ」


 この呪文で、周りの精霊と呼ばれているナニカを自分の周りに集める。

 集まる量は人それぞれで、私は闇の精霊が多いらしい。


「闇が微睡み宴を愛でる」


 特定の精霊をさらに呼び込み活性化させる為の呪文がこの部分に当たる。

 火なら踊り、水なら奏で、だったり色んなパターンがあるのだぜ。

 厳密には人それぞれ色々違うんだけどね。


「宴を荒らす、無粋な輩を捕まえて!影縛り(シャドーバインド)!」


 ここが腕の見せ所!なんだけど、ユキはあっさりと避けて走り回っている。おのれー。


「ふぉっふぉっふぉ、まだまだじゃのう。よいか、目標の軌道と魔術の軌道をリンクされるんじゃ。見とれよ」


 御爺の放った影縛りはあっさりとユキを捕獲。

 ユキが悔しそうにこっちをみている。

 御爺は満面のドヤ顔でこっちを見ている。

 とりあえず『死ね』!と御爺に魔眼を飛ばすがレジストされた。


「クロエ、それちょっとひどくない?じいちゃん涙目」

「ふん!」


 ひどい腹いせだが、まあこんなんで御爺にかかるはずもない。小粋なジョークです。

 ヘイオジー!君のおでこはまるで太陽のようだね!


 次に影剣の練習もしたが、2本しか出せなかった。

 まだまだだ。


「ん、そろそろ昼も近いのう。今日の昼ごはんはなんじゃ?」

「あ」

「あ?」


 やっべー忘れてた。

 昨日食材をあらかた使い切ったんだった。

 お買い物頼むの忘れてた……


「今日のお昼は、クロエ特製小麦パンです!」

「うん?おかずは?」

「小麦パンです!」

「なんじゃとぉ……」


 昔は御爺が一人で、たどたどしくもご飯を作ってくれてた。

 けど途中から私が手伝うようになり、どこぞから色んなレシピを仕入れてきた御爺と一緒に練習してたら、いつのまにか私の方がおいしく作れるようになっちゃっていた。

 それから徐々に私の当番が増え、今ではご飯は私の係である。


 レシピもどんどん増えて、御爺がご飯をすごく楽しみにしてくれるようになった。

 ってな訳で、パンだけというメニューはご不満らしい。

 でも、ねーんですよ。おかず。


「クロエ、ちと今日は課外授業じゃ!魔術の実践を見せちゃる!」

「お、おお!」


 これ絶対おかず狩りだわ!

 でも実践を見れるのは嬉しいし、食材ゲットも助かる。

 御爺とユキちゃんもおいしいご飯にありつける。

 勝者しかいない提案だ。












 ■ ■ ■


「いいかクロエよ。魔眼は便利な魔術じゃがな、人以外の動物にはきかぬ」


 やってきたのは、わが家のあるガルナの森の更に奥深く。

 この辺は御爺が張った結界もなく、結構凶暴な動物も棲息している。


「なのでの。基本動物を狩る時は、魔術を使うのがいいんじゃ。まあ剣士とかは別じゃがの」


 そんな森の奥で、のんびりと講釈を述べる御爺。

 その目の前には、滅茶苦茶凶暴そうなクマがグルルルッ!とうなりを上げている。

 クマさんと私と御爺の温度差が激しすぎるんですけど!


 あのクマ、御爺に聞いたので間違いなければガーベルベアだ。

 ガルナの森に棲む動物の中では最強最悪の生物。

 私が森で出会ったら、二秒でぱちんだ。


 当然私はクマにびびりまくって、御爺の後ろでブルっている。

 御爺が何を言ってるかも頭に入ってこない。

 そういえば朝、トイレに行くのを忘れていた。

 やばい。


「こりゃ、しっかり聞かんか」

「いやいやいや、怖いし!」

「もらすでないぞ?ふぁっふぁっふぁ」

「いつか泣かす!」


 さて、そんな明らかに死亡フラグが立ちまくっている状況。

 なのに御爺が平然としているのは、確実にクマを倒す術があるゆえなのだろう。

 きっとそうだ。そうだといって?


 でも私の常識の中には、少女が森で熊に出会ったら、歌いながら逃げるなんてことも無く殺される結末しかない。

 もし突然御爺がボケちゃったとかだったらジ・エンドだ。


 グルアアアァァァ!!


 クマさんは殺る気満々のようだ。

 うひょぉぉぉぉ……


「まあ割と熊っちゅうのは足が速いからの。まずは止めるんじゃ。宴の邪魔者じゃ!闇よ!捕えよ!」


 単略詠唱で影縛りを発動し、クマを固定する御爺。

 クマさんはものすげー顔で怒り狂っているが、もうピクリとも動かない。すげー。


「で、ここからじゃの。頸動脈をスパッといって血抜きじゃ。風よ集え!邪魔者を切り裂くのじゃ!」


 ゴゥっと風が吹き荒れ、首の付け根が半分ほどスパっと切れた。

 大量の血が噴き出す。


「後は逆さにして、血を抜きながら持って帰るだけじゃ。クロエの場合はまだ難しいがの、土魔術で壁を作ったり、遠くから狙撃したり、やりようはいくらでもあるでな。まずは相手を先にみつけ、先手を打つのが大事じゃぞ」


 なんともあっさり、課外授業という名の狩りは終わった。

 途中から魔術講座なのかお料理教室なのかよく分んなくなった話をしながら、影人形でクマを逆さに吊って家へと帰る私と御爺。

 帰ってさっさと解体せにゃあのぉ!腹が減ったわい!とウキウキな御爺の後ろを歩きながら、私は素直に感動していた。


 御爺は『闇鍵の守護者』という中二ちっくな二つ名を持っているらしく、その称号はこの世界で一番の闇魔術の使い手が選ばれるらしい。

 他にもそれぞれの属性に一人づついるらしく、合計七人で『七鍵の守護者』と呼ばれているんだとか。

 証拠の鍵を見せながら得意げに語る御爺はちょっとうざい。

 ナイショだよ?


 まあ実際は町内で一番くらいなのを誇張しているんだろう。

 おじいちゃんというのは、昔は儂も……という語りが好きなのだ。

 仕事もしがない魔法研究員らしいし。


 と、思っていた。

 でも今日でちょっと考えが変わった。

 実はほんとにすげーじいちゃんなのかも。


 やっぱりガーベルベアだったらしいクマのお肉をステーキにし、結構豪華になった昼食を済ませた。

 ユキちゃんも結構食べたがお肉は余りまくり。

 塩漬けで少し保存し、残りは街で売っちゃうらしい。

 お腹がイカメシみたいになるまで食べてしまったので、長めの休憩をとった。


 午後は魔眼についてのお勉強だ。


 魔眼は発動までが一つの壁だったけど、それはまだ入口に過ぎない。

 発動の精度、命令の精度、そして一番肝心な誤発動の制御。

 認可で一番必要なのは誤発動の制御であるらしい。


「さて、今日はちと魔眼の歴史のおさらいでもしようかの」


 午前が慌ただしかったのを考慮してか、本日の魔眼講座はお茶を飲みながらのお話のようだ。

 こういう授業は物語を読み聞かすように語ってくれるので楽しい。

 御爺の先生スキルはなかなかに高いのよね。


 そんな御爺が聞かせてくれた、魔眼の大まかな歴史はこんな感じだ。


 まず、魔眼は遺伝では無く、突然に現れる。

 因みに魔眼を持った子が生まれる比率は今も昔もかなりの低確率で、現在も殆どいない。

 その為、昔は魔眼の使い方を習えない者、そもそも魔眼という物を知らない者が大半であったらしい。


 そして恐ろしい事に、偶然にも発現してしまえば、特別な呪文も必要とせず、コツさえつかめば簡単に使えちゃうのだ。

 私も一度発現させた後は、術の使用自体は簡単に出来た。

 そしてこれが、お互いの不幸を呼んだ。


 子供の頃を少し思い出してほしい。

 結構簡単に「死んじゃえ!」とかいってしまった事がある人は多いだろう。


 まあ普通はそういって気持ちを発散させる程度だ。

 でも魔眼を持った子が術を発現させてしまえば、本当に相手は死ぬ事になる。

 エターナルフォースブリザード!相手は死ぬ!みたいな感じだ。違うか。


 実際死なないまでも、そんな事件が各地で起きた。

 結果、金色の眼をもつ者は大いに忌み嫌われ、恐れられた。


 その反面、その能力を欲する者もまた多く存在した。

 自白、強要、暗殺。魔眼があればなんでもござれだ。

 そうして長きに渡り、魔眼持ちの不遇の時代は続く。


 が、ある時代に、魔眼持ちを保護し、世間のイメージを変えようとする集団が現れる。

 その時代の黒鍵の守護者と、その仲間達だ。


 やっぱ守護者ってすごいのかぴら。

 うちのおじーちゃんは守護者なんだぞー!とか威張れちゃうのかな。

 いやまあ友達とかいないんだけど……


 彼らは三神教会の協力のもとに、魔眼という物の研究と対策を徹底的に行った。

 そして、現在魔眼持っている者、魔眼を持って生まれた者を保護、育成、教育までを出来る施設を創設。

 そして世界を巡り、各国の協力と理解を求めた。


 そしてそれは少しずつ実を結んでいき、今は世界中で、魔眼の子が生まれた場合には教会か各国の受付へ連れて行くという習慣が根付いたのだそうだ。


 施設は基本は三神教会の総本山近くにある物が使われている。

 緊急で収容される施設も一応あるらしいが、落ち着いたら結局本山の施設へ行く事になる。

 御爺のように個人で教育資格を持っている人に預けられるパターンもあるが、それはものすごくまれな話なんだとか。


 つまり私ってば、超ラッキーガールなのだ。


 施設も、許可が下りれば親と同居出来るらしいけどね。

 対策も万全なので子供と普通に接する事が出来、日々の暮らしも快適。

 近年では魔眼持ちの子が生まれた村は、総出でお祝いをする所もあるくらいなんだそうだ。


 そんなこんなで、今はおおむね魔眼持ちでも平和に過ごせる時代になった。

 就職にも超有利。

 いい人生を送れるといえるだろう。


 でもまあやっぱり差別は根強く残っているらしく、頭の痛い問題なんだとか。

 この世界より進んでいただろう地球でも、差別問題は色々あった。

 はーやだやだ。平和にいきたいですにゃー。


 ちなみに魔眼は、実は私の持つ命令の魔眼以外にも存在する事が分かっている。

 ただその他の魔眼は更に希少で分かっていない事も多く、現在も研究や発見、保護を頑張っているんだとか。


 魔眼の歴史は、このような感じであるらしい。

 そんな歴史のある魔眼。

 御爺が認可に慎重になるのも分かる。


 でも一つ、気になる事がある。

 話の中にたまに出てくる、私の教育方針についてだ。


 その話を統合すると、こんな感じだ。

 私が成人し、魔法も基礎全種、魔眼の完全な制御が出来るようになり、ついでに教養もダンスもこなせるようになり、料理を極め、許嫁が決まるまでは、家から出すつもりは無い。


 愛が重い……!

 どうもうちのおじいちゃんはちょっと過保護だ。


 以前ならそれでもよかったかもしれないけど、今はなるべく早く街へ行きたいのだ。

 下手したら一生この家にいるかもしれないという状況はつらたん。

 という事で御爺にひとつ、勝負を持ち掛けた。


「もし私が本気の御爺に魔眼を使えたら、褒美に街へ連れてって!」


 失敗一回につき一枚、私が「御爺専用肩もみ券」を発行という条件で。


「ほぉ……?いいぞい。まあクロエのダサい魔眼なんぞ、儂が本気になれば絶対かからんと思うがのう」


 自信満々な御爺である。

 イラついたので、晩御飯は御爺の苦手なポッタ炒めにしよう。

 ちょっと子供っぽい味覚の御爺は、ポッタの苦みが辛いらしい。

 私の前では見栄を張って食べてるけど、お見通しなのだぜ!


 と嫌がらせを考えながらも、簡単な条件ではないというのは分かっていた。

 その後、私の肩もみのスキルはどんどん向上していく事になる。

 まあこういう勝負も、楽しい事の一つなんだけどね?


 でも、うーん、なんというか。選択をミスったかな……!






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ