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第二十三話「夜会de演説 後編」

 学園特区特別法。

 前世の知識にあった、行政特区という物をヒントにした法律だ。

 まあ正直それがどういう制度か詳しくはしらにゃーけど!


 アニメで見て「へーそんなのあるよねそういや」って思った程度のぺらっぺらな知識しかなかったので、結局ふんわりと説明した後は全部コステロさんに丸投げした。

 忙しすぎて痩せたっていってたけど、見た目は全く変わってないお。


 簡単にいえば、学園では校則を守りましょうというのを大げさに整備したというお話です。

 決まりを作っても、それに強制力がなかったら意味がないって気付いたしね。


 最初だって、別に学園に決まりが無かったわけじゃないのだ。

 ただ王国法を明らかに犯せば処罰も出来るだろうけど、学園の決まりなんて殆どただのお願いだったらしい。それでも平民の子やバックのいない小貴族なら聞いたんだろうけど、ある程度力を持った貴族の子弟にはなんの枷にもならなかった。


 今回の校則は、王国法と同列だ。


 校則を無視すれば、最悪の場合こわーいオジサンが「貴様をこの学園から解放してあげましょう!」って叫びながらおっかけてくる事になる。


「これは通常の国法とは別で、学園内のみで適用される方です。そしてそれを破ったからといって投獄されたり等といった事は一切ありません。ただ違反をある程度重ねると学園を退()()になるというだけの物です」


 だけ、とはいっても、まあされた方はたまったもんじゃないだろう。

 ここの部分は本当に揉めたけど、これがなきゃ絶対にみんな決まりを無視するだろうと頑張って押し通した。


「その学園法……校則の内容は、先ほどお配りした『生徒手帳』と名付けた手帳の前半に記載しております。興味のある方は、是非御確認を」


 さっき渡したGペンと一緒に渡した手帳だ。

 宣伝も兼ねて、校則の他に施設の案内や先生の名前も書かれている物で、息子さんや娘さんを入学させるかどうかの参考にしてもらえればとセットで配った。


「学園の本文はあくまで学業。それを疎かにする方は無理をしてまで通う必要などありませんからね。そしてそれを監視する為の組織も立ち上げる予定です。その組織名は『生徒会』」


 そして当然、最後はコレ!

 王族が会長の椅子に座る生徒会……扇子とか用意した方がいいかしら。

 妄想がはかどりますにゃー。


 ……でも気をつけなきゃ、「生徒を家畜にしたいんですの」とかいう頭おかしめな人に勝負を挑まれたりするかもしれない。

 ギャンブルは校則で禁止にしてるので、ひとまずは安心だけど。


「生徒の、生徒による、生徒の為の組織であり、初代会長には私、クロエ・ガーベラスが就任させて頂く事になりました」


 ここで私の目が一瞬きらりんと輝く。

 これはギベル先生に考えてもらった、おめめが一瞬光るだけの魔法だ。

 これもめっちゃ練習しました。


 なんでそんなあほな魔法を使ってるかというと、単純にびびらせたいからです。


 ペンや制服や優秀な先生が「好きだから決まりを守る」という部分。

 生徒会、そしてそれを率いる私は「怖いから決まりを守る」という部分だ。


 だからミルカを生徒会長にはしなかった。

 絶対恨まれるし、ミルカにはそういうのよりも、みんなのアイドルでいて欲しい。

 制服の紹介でミルカにモデルをしてもらったのは、そういう意図もこめてだ。


「……勿論生徒会の他のメンバーは、学園の皆さんから募集いたします。貴族の方、平民の方、両方からの募集になると思います。魔眼をお持ちの方でも歓迎します。学園生徒のみんなで、よりよい学園作りを目指したいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」


 私達が卒業後に、貴族に支配されるようになっては意味が無い。

 公平に全ての身分の人が所属できるシステムも作っていかなければいけない。


 強引な事もしなくちゃいけなくなるだろう。

 なら多少ビビられてるくらいで、丁度いい。


「長くなりましたが、これにて挨拶を終えさせて頂きます。どうぞ皆様、よき夜をお過ごしください」


 ……結局私の挨拶というより、殆ど学園についての話になってしまった。


 でもみんなそんな事にはかまわず、ペンを見たり、手帳を見ながらヒソヒソしたり。

 実に興味を持ってもらえたみたいだ。頑張った甲斐があるってもんです。


 準備と練習をぎりぎりまで頑張った、私の人生初の大演説。

 それは結局、成功か失敗かも分からないままに終幕した。


 いいたい事はいいきったつもりだし、特に後悔もない。

 後はもうやってみるしかないし、今はその事は忘れよう。

 なぜなら、私の目の前に並ぶ豪華な料理を攻略しなくちゃいけないからね!


「クロエ、来なさい」

「……はい」


 どうやら王女にご飯休憩は認められないらしい。

 なんてブラックな会社なのだ、子供にご飯も食べさせないなんて!










 ■ ■ ■


 結局演説の後、小一時間ほど色んな貴族様との会話を強制された。

 流石に歩き回るという事はなくあっちからやってきてはくれたんだけど、なんせもうくたくただったし、結局殆ど覚えれなかった。後でミトさんにでもカンペお願いしようかな……


 そんなこんなで、やっと私にもご飯タイムがやってきた。

 先に挨拶を済ませた理由は、その後は家族のみでの食事をする予定だったかららしい。

 じゃあ後はみんなでやってくれたまえーとかいって先に帰っていく上司みたいなアレだ。たぶん。


 すでにお母様とミルカは席についていて、最後に私とおっさんが席に着くという形になった。

 御爺はいなかった。

 席は並んで二つ空いていた。


「やだー」

「……何か言ったか?」

「いえなにも」


 心の声がもれるというありそうでない経験をしつつ、しぶしぶ席へ。

 さっさと食べて、後で御爺とかとお茶でもゆっくり飲みながらお疲れ会だね!


 おいしそうな料理が次々と運ばれてきて、とってもおいしそうな匂いをさせているんだけど、私はとなりのおっさんのせいで全然楽しくなく、味もよく分からなかった。

 お母様やミルカが気を遣って話しかけてくれるけど、会話は続かず、終始いやなムードのまま、デザートまで進んだ。美味しそうなのに、美味しくない。

 はあ、早く帰りたい……


 そんな中、おっさんは唐突に切り出した。


「クロエ、これなのだが」


 そういってゴソゴソと取り出した物は、一冊のマンガ。

 私の描いたマンガ、「勇者と聖女」であった。


 そういえばおっさんも読んだとかお母様がいってたような……

 絶対嘘だと思って忘れてたけど、ほんとだったのか。

 いや、こんなものを描いとるひまがあったら-とかそういうアレか!


「私はこういった物を今まで読んだ事がなかったのだが……」

「ふぁい……」

「ここの、この展開だ」

「ふぁい?」

「ここでアクセルが激昂して、剣を抜いて飛びかかる。素晴らしいシーンだと思うが、ここはこの本で一番盛り上がる所だろう?ならばここは、彼の衝動と慟哭をもっと表現すれば更によくなるんじゃないか?」


 そこは確かに、うまく描けずに悩んだ所だ。


「それと、ここの表現は素晴らしいと思うが、この部分が……」


 おっさんは、彼はびっくりするくらい的確な指摘をして来た。

 マンガなんてない世界で、物珍しさばかりが目立つであろう本を、彼はメチャクチャ読み込んできた。

 決して暇な訳はないだろうに。

 必死に私に語り掛けてくる。

 よく見れば、本は既にボロボロだった。


 そして面白い事に、いつものしかめっ面でチラチラと盗み見てくるのだ。

 見てくる時は、決まってここを直せばという話の時だった。

 そしてそういう話の前に、必ず「ここは素晴らしいと思う」とか「この表現は秀逸だが」とかがくっついててくる。

 私はそれをうんうんと聞き入っていた。

 ここはこうしたらどうすればいいか、ここはどう思うか、誰かに聞いて欲しかった質問を、疑問を、色々ぶつけた。

 彼は悩みながらも真摯に応えてくれ、私はまたうんうんと聞き入っていた。


 気付けば私はあっさりと彼を、父を好きになっていた。


 そんな事でとはいわないけど、なんともチョロい私である。

 そういやメルティナの時は、結局ちょっと謝られただけで「まあいっか」ってなった。

 もしかして私って、チョロインの素質があるんだろうか。


 お母様もミルカもホッとしたみたいな、嬉しそうな顔だった。

 私も多分、似たような顔になってた。


「まあこういう物もいいが、王族としての本分も忘れぬようにな。……何か困った事があれば言いなさい」

「はい、お父様」


 自然とそう呼んでいた。

 私もいってびっくりしたけど、周りもちょっとびっくりしていた。


 そしてめっちゃニヤニヤされた。

 お父様もニヤニヤしていた。

 ……そういう顔もできるんじゃないか!


 話しながら、私は考える。

 正直まだ、家族だという気持ちは薄い。

 でも、ようやくというか、やっと家族としてやっていけそうな、そんな気がした。

 そんな事を思い、自然と笑みがこぼれた。


 こうして私の初めての夜会は、意外なサプライズと共に幕を閉じたのだった。


 

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