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第二十二話「夜会de演説 前編」

 とうとうやってきた、クロエちゃんお披露目夜会。


 本日の夜会は水仙宮という、水をテーマにして建てられた宮殿で行われる。

 その外観は涼やかで、クリスタルを使った装飾や彫像が至る所に飾られている。

 そしてどうなっているのか、宮殿中に上から水が流れていて、その水は宮殿の建てられている湖へと流れ落ちて行く。


 なんとこの宮殿、湖の中に建てられているのだ。


 炎王城は湖の中にある島の上という感じけど、この水仙宮は本当に湖の上に浮かんでいるかのような感じで建っているのですぞ。

 正面にごつい橋がかけられていて、そこから馬車ごとはいれるからめんどくさがりな人でも一安心。

 宮殿の周りにはちょっとしたお庭や船着き場なんかもあり、水の上でお茶をしたり小舟で遊覧なんかも出来るみたい。

 その造りの珍しさと美しさから、こういったぱーちーや国外の賓客の受け入れにも使われるんだって。


 外観はミルカに連れてきて貰って知ってたけど、中はまだ入った事がないのだ。

 夜会の緊張を感じながらも、ワクワクして宮殿へと入っていった。


「おお~!」



 水仙宮の外にお水が流れているのは見たけど、中もいたる所に水が流れている。

 建物内に流れる水、まさにセレブです!

 それに合わせて中にも水晶細工の装飾や置物がいい感じに配置されていて、すごく綺麗。

 でもカビとかだいじょうぶなのかぴら?


 ずっと見ていたかったけど、時間が無いという事で見学もそこそこに控えの間に案内された。


「おまたせしましたネムさん。本日はお願いします」


 奥のドレスアップルームに入ると、既にネムさんが先に来てまってくれていた。

 今日の為に急ぎでもう一着ドレスを作ってくれ、今日のメイクアップも快く引き受けてくれたのだ。

 やっぱり持つべきものは友達だね!


 長年にわたり老人と動物しか話し相手がいなかった私だけど、ここに来てずいぶんと友達が増えた。

 急に増えたので正直とまどいもあるけど、単純におしゃべり出来る友達が増えるのは楽しい。


 ポイントはほとんどが結構な年上という事。

 みんな優しく甘やかしてくれるのだ。どっかの王様以外は!


「しかし……本当にこれでいいのかい?」

「はい、これがいいんです」


 ネムさんの視線の先には、本日の夜会用のドレス。

 デザインも作りも流石ネムさんといった感じだけど、全体的にちょっと地味な感じだ。

 今日の演出の為に、わざと抑えめなのをお願いしたのだ。


「君は雰囲気が少し……いやなんでもない。では始めようか」


 それ以上いけない。

 少し不満そうだけど、メイクアップに関する真剣かつ丁寧な対応。

 それがとても気持ちよく、まるでお姫様になったみたいな気分になる。

 まあお姫様なんですけど。


 ドレスアップも終わり、ネムさんとお茶を飲んでいた所へAD騎士のセラさんが「そろそろおねしゃっす!」みたいな事をいいに来た。

 いつも色々大変そうなセラさんだけど、ちょっと楽しそうだ。


 大広間の方の控えに移ると、既におっさんがスタンバっていた。

 ちょっと不機嫌そうなのはいつもの事だと信じたい。


 既に夜会は始まっており、私達はもったいつけて途中でドーンと入場するらしい。

 一番最初に来てご飯をパクついてるとか、そういうおちゃめな感じもフレンドリーでいいと思うんだけどなあ。


「ブリザ・ガーベラス国王陛下、クロエ王女殿下、ご入来!」


 ごわーんと銅鑼が鳴り響き、とうとう入場。

 ぶっちゃけさっきから場違い感がすごくて倒れそう。

 もうトイレ行ってそのまま帰りたい。


 進んだ先は洋館のホールの二階みたいな感じのとこで、下のでっかいホールに割とびっくりするくらいの貴族様方がひしめいていた。

 そんな中にコステロさんを発見。

 今日もまるくてすごく安心。


「皆、今日はよく集まってくれた。改めて紹介しよう。娘のクロエだ」


 流石というかよく響く声で簡単に紹介され、しずしずと前へ出る。

 さあ、出番だクロエちゃん。

 今にも気を失いそうだけど、やるしかない。

 私達の冒険はこれからだっ!


 静かに気合を入れ、心のカンペを読み上げる。


「……先日、謁見の場におられた方にまずはお詫びを。見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。つい前日まで平民として過ごしておりました故、混乱してしまったようです。今は落ち着きましたので、改めてのご挨拶をさせて頂く事となりました」


 まあ最初のお披露目?ともいえる謁見式は、最悪のスタートだった。

 やってきていきなりキレて帰っていく小娘。

 印象むちゃくちゃ悪そうだけど、今回の計画にはちょっとだけ役に立ってる、かもしれない。

 という事にして、恥ずかしくて逃げたくなる気持ちを必死に抑える。


「皆様、私は魔眼持ちです」


 そういって一呼吸、周りをぐるっと見渡してみる。

 みんな平然としているが、恐怖や嘲笑のような物を隠し切れない人もいる。

 こういう感情はやっぱり怖い。

 でも、御爺や私が、魔眼を持った人達が気兼ねなく暮らせる世界が、私は欲しい。


「そして、長らく平民として生き、今は王女という立場となりました。そんな私に出来る事は無いか。そう思った時に、お父様の計画した学園の話を聞きました。貴族も、平民も、そして私は魔眼を持つ方も、皆一緒に学べる場を作りたいと思いました。それは困難な事でしょう。価値観の違いもありましょう。恐怖も嘲りもありましょう」


 パッと考えただけで、無理だろうと思える計画だ。

 でも、それが普通にならなければいけないと、そう思うんだ。


「私は王族であり、魔眼持ちであり、そして今も平民であると思っています。だから全ての人と通じ合えると傲慢な事を思っている訳ではありません。ですが、それぞれの立場での気持ちを理解する事は出来ると思ってています」


 貴族の矜持なんて理解できない。

 平民の友達なんていない。

 魔眼を持つ苦しさだって少ししか分からない。

 嘘ばっかりだ。


「……何も出来ないかもしれません。ですが、今回の学園計画が成功した時、そこは国の礎を支える人材を育成する機関として、ガーベラス王国の発展に大きく寄与する事となるでしょう。その一助と私はなりたい」


 この計画を考え、準備に奔走しながら、私は考えた。

 御爺や私みたいな魔眼を持つ者、貴族、平民。

 私から見れば、みんな一緒だ。


 誰だって面白い物を見れば笑うし、怒られればシュンとする。

 貴族にも平民にも、教会にこもっている魔眼をもった子にも、私はマンガを読んで欲しい。


 みんなで同じマンガを読んで、笑い合う世界にしたい。

 だから嘘を付いてでも、私はこの計画を成功させたいと思った。


 あ、もちろん領地は欲しいですけど!


「ですが、このままではだたの子供の戯言かと思いますので、まずはこのような物を用意しました。……セラ、お願いします」


 ADさんに指示し、この日の為に用意してもらった物を配ってもらう。

 ついでにちょっと威張って王族感も出しておく。実にエクセレント。


 うっとりしていたらいつのまにか贈り物が配り終えられていて、結構ザワっていた。

 まあ配られた物がよく分かんない棒と紙束だしね。

 でもすっげー便利だからね!今から説明しちゃうからね!


「これは私が考案した物で、『Gペン』といいます。一緒にお配りした手帳の後ろのページは余白となっておりますので、よければ試し書きを。インクを付ける必要はございません」


 しばし反応を見る。

 結構反応はいいように見えるけど、どうなのだろうか。


「従来の羽根ペンのようにインクにひたす事なく書き続けられ、書き損じの修正も可能であるこのペンは、学業は勿論あらゆる場面で使って頂けるのではないかと思う次第でございます。このペンは父の許しを頂き、学園生徒全員に配布させて頂く予定です。あ、勿論今お配りした物は差し上げますので、是非お持ち帰り下さい」


 キリさんに超がんばってもらい、生徒用の物は機能重視で価格は頑張って下げてもらった。

 それでも高い物になったけど、こういう特典は嬉しいからね。

 さて、反応は上々に見える。次だ。


「次に、学園の生徒を導く教師の一人をご紹介いたします」


 入場音楽と共に入場してきたのは、我らが御爺だ!

 御爺は最初いやがったけど、こういう演出はやっぱり楽しい。


「御……ギベル・フリード卿は皆様もご存知の通り、世界に轟く闇鍵の守護者の立場にあり、あらゆる分野に精通し、わが国の誇る大学院でも特別顧問に就任して頂いていた事もあるお方です。この度の学園の再出発に際し、匿って頂いていた縁を頼み、学園の特別学園長をお願いした所、快く引き受けて下さいました」


 これは実は結構揉めた。

 御爺は協力は惜しまないといってくれたけど、学園長ともなると流石にめんどかったらしい。

 最終的には実務担当とか実質の学園長である副学長等を立てて、仕事や手間を減らしてやっと頷いてもらったのだ。


 ぶっちゃけ仕事がいやというのもあるけど、やっぱり私が心配なので、ある程度暇がないとという事だった。

 愛されちゃってこまるねほんと!うひひ。


「更にもう一人、紹介させて頂きます」


 それはそれとして、次は御爺の時よりちょっと演出を凝らせてもらった。

 照明を落とし、私達が下がる。


 代わりに前に出て来たのは、みんなのアイドルミルカちゃん。

 登場と共に一斉に照明が当てられ、音楽がジャジャーンと鳴り響く。


 そのミルカの着ている服は、前世の記憶と知識と趣味をぶちこんだ、ラノベ感満載のブレザー制服だ。

 なるべく丈夫な生地を選んでもらったけど、安っぽい感じはない。

 デザインはネムさんだ。

 平民の子は勿論、貴族の子にも喜んでもらえるだろうとお墨付きを頂いている。


「ミルカが着ている服は、学園専用の制服となります。この制服を学園の象徴のひとつとし、誇りを感じて頂けるような学園作りを目指したいという気持ちで作成致しました。これも学園の生徒全員に無料で配布する予定です」


 全員無料配布は平民生徒への配慮の部分が大きい。

 お金の無い家の子も多いだろうし、それにみんな同じ服なら無駄に貴族の子を刺激する事もなくなるだろうしね!


「これらは学園の発展に大きく寄与するであろうと、確信しております」


 ここまで紹介した物は、全て学園の魅力を上げるための物。

 そしてここからは、学園の治安や生活の改善の為の物だ。


「勿論、学園に起こった事案を忘れている訳ではありません」


 そしてこれが、今回私が提案した学園の対策、その肝になる物の紹介だ。

 いったいこれがどうなるか、ドキドキしっぱなしだ。


「特にその中で懸念されている事案である、生徒同士の諍い。これを払拭すべく、コステロ・マイヤー法務大臣や委員会の皆様との協議の末、一つの新たな特別法を制定致しました」


 一度言葉をとめ、自信にあふれた顔で周りをスッと見回す。

 ミルカ先生の指導の下、めっちゃ練習した新技だ。

 そして一瞬目を伏せ、再びあげ、それを告げた。


「その法の名は、学園特区特別法。……通称名は『校則』です」



 

明日も13時頃に投稿予定です。

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