第二十話「嘘はバレなきゃ嘘じゃないっていうのは嘘」
なんとなく気まずくなった私はメガネをシーダ先生にかけ直し、御爺に助けを求めた。
なんとかしてよオジえもん!と裾をぐいぐいしてると、
「仕方ないのう……喝!」
「ぴゃっ!」
じいちゃんらしい大声が突然響き、ビクッとする先生と私。
ハッとしたようにきょろきょろする先生に、王室御用達カップを渡す。
「シーダさん、とりあえずこれ飲んで?」
「あ、は、はい、すいません……」
紅茶を一口飲み、少し落ち着いたシーダさんは改めてこちらに向き直り、謝罪した。
「みっともない姿をお見せしてすいませんでした。私、あの、フリード様をとっても尊敬してまして……」
ほう、分かってるねキミ!
「急に会えたショックで訳が分からなくなってしまったようです……考えたらクロエ様の宮殿にいらっしゃるのですから、心構えをしておくべきでした」
御爺がすげえドヤ顔でこっちを見てたのはウザかったけど、結構嬉しかった。
御爺はすごいんだから、もっとみんなにこうやって慕われるべきなの!
まあそれはいいとして。
「そんで御爺、今シーダさんと話してた事なんだけど、学園の先生が足らないんだって。先生やってくれそうな知り合いとかいない?御爺って確か大学にもいたんだよね?」
「む?ああ、ブリザのやっとる新しい学校の件かの。悪いが……ん?」
お、いるのかな?
流石御爺だぜ、煎餅を食べる権利をあげましょう。
「そういやクロエよ、お前さんはそこにいくつもりなんかの?」
違ったぜ。煎餅はまた今度ね!
「い、いや……うん、再開したら私も行こうかなって思ってるんだ。ミルカも行くらしいしね!」
「お、お姉様、嬉しいです……!」
勿論嘘だ。
御爺は意外とめんどくさがりだからね。
でもうぬぼれかもしれないけど、私が関わる事には積極的に動いてくれるのだ。
まあ何人か紹介してくれるだけでもシーダさん的には嬉しいだろうし、甘んじて私が後で御爺にお尻をペンペンされましょう。
「そうか……今までクロエには友達を作ってやる事も出来んかったしの。儂も少し協力するか」
「ほ、ほんとうですかフリード様!ありがとうございます!」
うう、心が痛い……そんなに申し訳なさそうな顔されたら「行くっていったの信じちゃった?残念行きませ~ん!ねえねえ今どんな気持ち?行くっていった孫がニート続行しちゃってどんな気持ち?(笑)」ってやりにくくなるじゃないか!
「ふむ、他には何に困っとるんじゃ?」
「ええっと、他には……」
「設備と生徒のいざこざのう……設備はわからんが、生徒のイザコザは大丈夫じゃろ?」
「え?そうなんですか!?」
「クロエとミルカが一緒に行くんじゃから、こやつらに監督させればええじゃろ」
「!?」
それだー!みたいな顔をしたシーダさんは、すっげー期待の籠った顔でこっちを見つめている。
そうだねミルカは入学するしね。うんうん。
「がんばって下さいミルカお姉様!」
「突然何を言ってるんですかお姉様。……でもお姉様の威光があれば、学園の者はすべからく平伏するのは必然ですわ!私も微力ながらお手伝いさせて頂きますが、もう問題は解決したも同然ですね!」
そんな訳ないでしょ。もしかして私が御爺を見る目ってこういう系統なのかな?気をつけよう……
しかしこれ以上嘘を続けたら、ごめんじゃ済まなくなっちゃうなこれ。素直に謝ろう。
「ごめん、学園に行くっていったのは嘘です!行くっていったら御爺が協力してくれるかなって思って!てへぺろー!」
「……クロエ、ちょっとこっち来なさい」
御爺がすげえ顔しておいでおいでをしていたが、私は既にユキちゃんに跨っていた。そうそういつもお尻を叩けると思うなよ!
「ユキ!にげ……ぐへ!」
流石世界最高の影縛り!そこに痺れるごめんなさい!
■ ■ ■
結局ミルカに睨まれながらお尻をぺんぺんされた私は、気を取り直してお茶を一口。
「やっぱり人間、嘘をつくのはよくないね」
「既に嘘ついとる気がするのう?」
「お姉様……?」
バレなきゃ嘘は嘘じゃないんだい。
「でも、本当に学園には行きませんの?お姉様」
「うん、ごめんねミルカ」
大体学校ってあれでしょ?トイレでご飯食べたり、勇気を振り絞ってメイトに話しかけても「は?お前誰?」とかいわれちゃう魔境なんでしょ?そんなとこになぜ行かなきゃならないのか。
「まあ行きたくないならそれでいいわい。教師の件は何人かなら紹介しちゃろう」
「ありがとうございます!」
「生徒の事はミルカがいれば大丈夫だよ。流石に王族に面と向かって逆らってくる子はいないでしょ」
「そうだといいのですが……」
不安そうなミルカを見て心が揺らぐけど、行きたくない物は行きたくないのだ。
あ、そうだ。
「生徒会みたいなの作って誰かにやってもらえば、わざわざミルカが行く必要もないでしょ?」
「生徒会というのはなんですか?お姉様」
「え?」
あ、そういうのないのか。
でもいいと思うんだよね生徒会。
憧れの「権力をもった生徒会」を作れそうじゃん?
なんせ生徒会長は王女様なのだ。
やっべーオラわくわくしてきたぞ!
「うん、いいね生徒会!ええっとね、生徒会っていうのはね」
従来の生徒会なんてぶっちゃけ知らないので、マンガを基準に警察と裁判所を兼ねたようなすげえ組織みたいな感じで説明する私。ちょっとやばいかなって思ったけど、そのくらいの方が多分ミルカも安心だろう。はびこる不良生徒に立ち向かう、正義の生徒会!うーんグッドです。ジャッジメントですの。
「なるほど、生徒達自身に生徒達を見させる……いいかもしれません」
「ねーいいよね。あ、後そうだ、これなんだけど」
なんか楽しくなってきた私は、他にも色々と提案し、それは食事を挟んで夜中まで続いた。
やるのは大変だろうけど、こういうの考えるのって楽しいよね。上手く行ったらミルカに聞いてマンガに……あ、学園にマンガを広めて貰ったりとかいいよね。うん、マンガ描かなきゃ!
最近少し停滞気味なマンガ制作だったけど、学園配布用にがんばろう。
ふふ、楽しくなってきたね!
■ ■ ■
それから数日、日課の習い事や夜会の予習なんかをしつつ、私は次に描くマンガの事を考えていた。
ミルカももうかなり絵は上達したし、今度は合作で描くのもいいな。
どんな話がいいか……
「クロエ様」
「ん?どしたのミトさん」
「キリ様がお見えですが」
「え?あ、お通しして!」
「かしこまりました」
そうだそうだ、キリさんにはあれからまた一つお願いをしてたんだった。
「クロエ様、ご機嫌麗しゅう」
「こんにちわキリさん!無理をいってごめんね」
「いえいえ、依頼された物は私にとっても得難い道具となりそうですので、お礼をいうのはむしろこちらです」
キリさんにお願いしていた物。
それはざっくりいえば文房具の数々で、コンパスや各形状の定規、そして鉛筆とケシゴムだ。
定規のような物はさすがに既にあったけど、それはいってみればただの薄い木の板に目盛りを書いた物で、それだとマンガを描く用にはちと向かない。
ペンを当てる部分が少し浮いた造りでインクが滲まないようになってないと、せっかくの原稿がインクのにじみで一発アウトになってしまう。
なのでその形状を伝え、尚且つ素材を透明な物にし、更に色んな形の物をお願いした。
「各種定規はこのように仕上がりました」
「おお……!」
机に並べられた定規は、完璧ではないものの透明な素材で、形や作りも完璧だった。
王国筆頭彫金師に頼む事じゃないと思うけど、他にやってくれそうな人知らないんだよね……そういう人をキリさんに紹介してもらおうと思ったら、是非私がっていうし。
キリさんは穏やかで喋りやすいから、ついつい甘えてお願いしちゃったのです。
「コンパスは従来の物にGペンを取り付けれるようにしただけですが」
「十分です!ありがとー!」
「後、言われていた鉛筆?という物は材料が見つかりませんでした。木炭などを使えば書く事は出来そうですが、ケシゴムというのは皆目……」
「あ、うんそっちはダメ元だったから大丈夫。わざわざごめんね」
やっぱ無理だったか~。まあ多分素材や構造は難しくないはず……いつか頭のいい人が発明してくれる事を祈ろう。
「ですが、私も王国筆頭彫金師としてのプライドがございましたので……これをご覧ください」
いや王国筆頭さんがやるような事ではないと思うよほんとごめんなさい!
なんか申し訳ない気分いっぱいで、そういって差し出されたペンを見た。
前に作ってもらったのと殆ど一緒のように見えるけど、両方に蓋がある?
ペンの太さが違うとかかな。
「やってみた方が早いですね。紙にこう適当に書いて……そしてこの反対側のこの部分を書いた部分に当てると……」
「お?お、おおー!」
な、なんという事でしょう!
書いた文字が、ペンに再び吸い込まれていくではありませんか!
思わず脳内がナレーションをしてしまったけど、これすごくない?
「インクとペン両方に細工を施さねばなりませんが、このようにインクを全て吸い取る事が出来ます。これならば鉛筆という物でなさりたかった事も、可能なのではないでしょうか」
「うん!すごい!すごすぎるよ!」
魔法ってすごいっていうか、キリさんがすごすぎて怖い。
もうこれの特許だけで一生遊んで暮らせるんじゃないだろうかこの人。
十年後に独身だったら結婚して上げてもいいんだからネッ!
「作りがかなり複雑になるのでまだ量産は無理ですが、どうぞこれはお使いください」
「いいの!?ありがとう!どうお礼をしたらいいか分かんないよ」
「いえいえ、クロエ様がいらっしゃらなければ、これは私には思いつくことは出来なかったでしょう。素晴らしい案をありがとうございました」
キリさんマジいい人すぎぃ。
その好意、無駄にはしませんぞ。
よし、これでミルカと学園用マンガを描くぞー!