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第十七話「カーク・ガーベラス」

「そうね……この物語は、今から約三十年前から始まるわ」


 ママンの話は、そんな語りから始まった。






 今の暮らしからは想像できないけど、今から三十年ほど前、世は正に大戦争時代だったらしい。


 その以前からもいくつもの国が戦争によって興ったり滅んだりを繰り返してたらしいけど、その頃はアルスメリド、ルドベニア、ガーベラスの三国が覇権を競い争っていたそうだ。

 とはいっても、国力の差は歴然。

 当時最強の国であったアルスメリド王国は、白人領の半分近くを支配下に置き、虎視眈々と白人領の統一を狙っていた。

 次いでルドベニアが対抗馬として覇を争っていたそうだ。

 そして我がガーベラス王国は、ぶっちぎりの最弱国家であったんだとか。悲しいぜ。


 そしてその最強国家アルスメリドは、まずはと最弱国家ガーベラスの当時の王都であったガルナへ侵攻。

 奮戦虚しくガルナは陥落し、当時の王や多くの配下が討ち取られていった。

 正に一国の存亡の危機。

 そんな中で、死亡した王の後を継いだのが、カーク・ガーベラス。

 この人が私のおじいちゃんらしい。


 そんな最悪のタイミングで後を継いだカークおじいちゃんは、即位した当初、こんな事をいったらしい。


「もう戦争とかめんどいし、三国で同盟して平和に暮らそうぜ!」


 血の繋がりをすごく感じて嬉しいけど、滅亡するかどうかというまさに瀬戸際の段階で全く情勢を理解できていないような発言をしたカークおじいちゃん。

 もちろん家臣一同大激怒。滅亡に相応しい暗愚が継いでしまったと泣き崩れる者までいたらしい。


 ここだけ聞くと前世は劉禅かなって感じだが、ここからおじいちゃんの俺tueeeストーリーが始まる。

 じゃあやってみるけどやり方は好きにするぜ!と言い放ち、彼はまず首都機能を現在の王都であるルピスに移転。

 そしてそこに防衛ラインを構築し侵攻を防ぎつつ、軍の立て直しを始める。

 それと同時に、新たな部隊、特殊工兵隊を設立。

 日本のレンジャーやイギリスSASのような特殊部隊だったみたい。


「おお、なんかかっこいい……でもそんな部隊作る程度には余裕や人材が残ってたの?」

「うーんどうかしら?私はその頃の事は伝聞でしか聞いていないけど、軍のはみ出し者とか傭兵とかを、適当なスカウトで強引に集めたって聞いたわねぇ」

「あいつは結構いいかげんな奴じゃったぞ」


 そんなんで大丈夫なんかしら……

 と思ったけど、そんな彼らは初陣にて伝説を作る。


 彼らはまずアルスメリド兵の鎧を死体から剥ぎ取り、自ら着こみ偽装兵となる。

 そして闇に紛れ、城の外へ。

 それから数日後、月も無い闇夜の中、アルスメリド軍の集積地にて火の手が上がった。

 それは瞬く間に大火となり、アルスメリド軍は大慌て。

 やったのは勿論、特殊工兵隊の皆様だ。


 で、そっからが頭おかしいんだけど、彼らは混乱するアルスメリド軍の中を悠々と進み、軍の指揮官クラスをピンポイントで殺しまくったんだそうだ。

 首なんて無視し、ただひたすら士官以上と思われる者をぱんぱんぱんのぱっちんこ。

 そして同時にそれを喧伝。あっというまにアルスメリド軍は烏合の衆となり、後方へと敗走した。


 そっからまたも頭おかしいんだけど、それを見たカークは少数の騎馬隊を連れて出陣。

 敗走するアルスメリドをガンガン追い立てた。

 そして敗走するアルスメリド兵は先々で落石や放火に見舞われた。

 それに巻き込まれ、恐ろしいほどの兵が倒れて行った。

 カークがアルスメリド軍がどう撤退、敗走するかを予測し、特殊工兵部隊が設置した罠だった。


 結局追撃は王都ガルナまで続き、カークはそのままガルナを奪還してしまう。

 敵は勿論、味方ですら白昼夢を見たのかと疑ってしまう程の大逆撃。

 それは後に「ガルナ城の大逆陣」と呼ばれ、今も本や演劇の題材になるほどの人気であるらしい。


「……んん?私本屋さんとか行ったけど、そんなのあったら気付きそうなんだけどな」

「ハラマに隠させたからのう」

「なんだとぉ……」

「そういえば、あの本の後半にギベルの事も書かれてたわよね?」

「だから隠したんじゃろがい……」


 既に本になってたのか御爺!

 まあ主役ではないみたいだから私がいつか御爺を主役で書いてあげるよ。


「まあそれで、無事ガルナを奪い返したんだけど……」




 怒涛の大逆撃でガルナを奪還したガーベラス軍だったが、そこは既にボッコボコに荒らされた後。

 結局首都をそのままルピスとし、ガルナは前線基地となった。

 そこでカークは一旦兵を止め、前線基地の構築を始める。

 同時に、少なくない被害が出た工兵隊の補充や、軍略部の大幅な増員も行う事となった。

 そして更に、新たなる部隊「特殊魔術師団」を設立。


 設立にあたり、カークは当時その辺をぷらぷらしていた無職の老人、ギベル・フリードをスカウト。

 とうとう御爺の登場だ!ひゃっはー!


「無職じゃないわい!」

「あら、教会に所属してたけど何もしてなかったんでしょ?」

「いや、一応色々やっとったんじゃぞ……?」


 という訳で、無職改め教会所属、そして既に闇鍵の守護者であった御爺。

 つまり、正式に軍へ加入する事は出来なかった。

 そこでカークおじいちゃんは一考。

 ギベルおじいちゃんを客将扱いとし、魔術師団と軍略部の特別顧問という肩書で強引に迎え入れた。


 ちなみに御爺は、その頃から既にじじいだったらしい。

 ずっとじじいだな御爺。


「御爺、もしかして感謝の正拳突きとかやってる?」

「なんじゃいそりゃ」


 まあそんなこんなで新しい体制の整った、御爺入りの新生ガーベラス軍。

 それ以降、おかしなサイクルが完成していく事となる。

 おかしい事だらけだね!


 まずカークが、こういう感じの作戦をやりたいといいだし、軍略部に投げる。

 ↓

 それを実用可能な形に検討し、ついでに悪乗りして無茶な方向へばーじょんあっぽ。

 ↓

 同時にカークが「こんな魔術できない?」と魔術師団に新魔術の提案を投げる。

 ↓

 それを実用化させ、ついでに魔改造した魔術を無理やり作戦にパッチ。

 主犯はモチロン御爺だ。

 ↓

 結果、割と酷い感じの作戦が完成。

 ↓

 そして作戦の無茶な部分を全て特殊工兵隊に投げる。

 ↓

 工兵隊員ガチギレ。

 ↓

 でも軍略部と魔術師団(主に御爺)が「こんなのもできないの?」と煽る。

 ↓

 できらぁ!と工兵隊が簡単に乗せられる。

 ↓

 敵が消滅する。


 こんな感じであったらしい。

 おかげで連戦連勝で驀進ばくしんするガーベラス軍。

 けど、作戦の数だけ御爺と工兵部隊の隊長さんが喧嘩ってか殺し合いに近いバトルをやってたらしい。


「御爺……」

「ヴィッツが馬鹿だったのが悪いんじゃ」

「ヴィッツさん……どっかで聞いたような」


 その噂の工兵部隊の隊長ヴィッツさん。

 実は現在の『風鍵の守護者』である、ヴィッツ・テンペストさんだったらしい。


 因みにヴィッツさんは今現在『風鍵の守護者』としての武勇伝が本になるくらいに有名な人だけど、当時はまだ守護者でもなんでもなく、流れの傭兵でしかなかったらしい。

 でも当時からものすごく強かったらしく、それで幸か不幸か工兵隊の二代目隊長に抜擢される事になる。

 結果、主に御爺からガンガン煽られ、煽り耐性がなさそうな若者であったヴィッツさんはいちいちそれに反応し、結果殺し合い寸前の大げんかとなっていったそうだ。


 御爺、もう老後なんだしそういうのはやめなよほんと……!

 今度ヴィッツさんに粗品持って謝りに行こうね?



 そんなヤバめな集団を戦闘の核に据えたおかしさ満載のガーベラス軍は、その後も順調に領土を拡大していく。同時にその凶悪さも、敵に伝わっていったそうだ。

 

 それでも工兵隊の方はメインは裏方なので、なんかやばい集団いるって!絶対!みたいな都市伝説的な広がり方だったみたいだけど、メインであるガーベラス兵に混じって好き勝手暴れていた特殊魔術師団はもろに見られてるので、恐怖の代名詞みたいに伝わっていった。

 その頃から御爺は「死神卿」と呼ばれ始めたらしい。

 職場のイジメじゃなくてよかったけど、やっぱしよくないなぁ!

 まあ実際会えば高確率でぱっちんこされちゃうので、敵の方には正に死神に見えたんだろうけど。


「だから言いたくなかったんじゃ……でも噂程無茶したわけじゃないからの?」

「でもギベル、今でも周りにすごく怖がられてるじゃない」

「んなこたぁ!……ないと思うがのぉ」


 ん?周りの御爺を見る目がアレなのってもしかして魔眼とか関係ないんじゃ……?

 い、いや、魔眼があるからやっぱ余計に怖がられてるんだよね?


「それにの、儂はまあ見た目で尾ひれがついとると思うが、凶悪さで言えばゼルの方がよっぽどじゃったぞ」

「え!?ゼルってあの、迎えに来てくれてたゼルドリックさん?」

「おう、あいつは当時工兵隊の副隊長じゃったが、なぜか一般兵にも混じったりしてあばれとっての。解放者とか呼ばれて滅茶苦茶びびられとったぞ」

「あ、前に言ってたよね。なんか御爺と違って英雄っぽい呼ばれ方だね?」


 御爺は一瞬ぽかんとし、それから何か納得したように頷いてから教えてくれた。


「当時のう、あいつは「あなた方をこの地獄から解放してあげましょう!」とか叫びながら笑顔で敵陣に突っ込んでいって首を刎ねまくっておっての。じゃから敵軍に首狩りの解放者なんて言われて恐れられとったという訳じゃよ。あいつがどう考えても当時一番頭がおかしかったんじゃぞ……」


 ヤバスギィ!でも全然そんなヤバそうな人には見えなかったけどなあ……

 御爺も今はそんな感じじゃないし、落ち着いたって事なのかな。

 でもまあ、気をつけよ……ゼルさん怒らせたらダメゼッタイ。


 そしてそんな死神やら解放者やら、どう考えても悪者集団といった感じのガーベラス軍はその後も怒涛の快進撃を続け、とうとうガルナ陥落から十年、ついに全盛期のアルスメリドを凌ぐ程の領土を獲得したそうだ。


 まさに日の出の勢いといった感じのガーベラス王国。

 王国中の人々が、そして他国の人々でさえも、このままガーベリアスが白人領を統一すると思った。


 だがそのタイミングでカークじいちゃんは、なんとアルスメリドとルドベニルの二国に同盟を提案。

 しかも従属同盟では無く、不可侵や国交を交えた対等な立場での、平和同盟の提案であったそうだ。

 更にその見返りとして、奪った領土の一部を返還し、三国の国力を均一にするというお土産までつけた。


 家臣がまた激怒しそうなむちゃくちゃなお土産だけど、既にカークおじいちゃん自身とその思想に心服してた家臣団は、さして反対する事もなく従った。


 アルスメリド、ルドベニルの両王は最初疑心暗鬼であった。

 けど、軍の撤退を確認し、誓約書が送られてきたのを確認すると、同盟を承諾。

 その同盟を二国の王がどう感じたかは分からない。

 でもその後行われた国王首脳会議にて、二国はなんとそれぞれの国名をガーベラスに合わせ、アルスメリス、ルドベニスと改名する事を宣言。

 これは国としての最大の敬意であり、ガーベラス王国を最上位、盟主と認める物であった。


 カークは平和の象徴として改名は歓迎したが、盟主は三国で交代制の持ち回りにしようと提案。

 他に、二年に一度の首脳会議の開催。

 更に十年に一度、大規模な首脳会議と平和式典の開催。

 他にも王族の他国留学による交流等を二国に提案した。


 何度かの話し合いの末それらは全て受け入れられ、それから今日まで三国は友好的な関係を続けているらしい。


 そんな偉業を成し、偉大なる王となったカークおじいちゃんは、なんと三国同盟締結後わずか一年でポックリ世を去ってしまう。

 きっとチートをくれた女神に、元の世界に送り返されたんだろう。

 どうか元の世界でも頑張ってください御爺様。


「カーク様は結局戦争と同盟の功績で讃えられてるんだけど、本当はそれはカーク様のやりたかった事の前座でしかなかったの」

「前座?」

「ええ、カーク様はよくおっしゃられてたわ。儂が本当にやりたい事はこの先だ。結局法の上に王や貴族がいて、そいつらが好きにするから争いばかりが起こるのだ、ってね。王が法ではない、法が王にならねばいかんのじゃ、と」

「……」

「そのために、まずは同盟を、そして法や学問の施設を整備して、法の前には皆平等である世界を作るんじゃ!って嬉しそうに、よくブリザや私に話してくれてたの。まあ大っぴらには言えない事だからこっそりとだけどね」

「すごい……」


 すごすぎて信じられないくらいだ。

 この世界の王族がそういうのは、前世の感じでいえば酷い例えだけど牛や馬に人権を与えよう!っていってるようなものだよきっと。


 まだ平民からのし上がった王様なら分かる。

 でもカークじいちゃんは生まれた時から王族だ。

 あっちの感じからすれば普通かもしれないけど、この世界じゃはっきりいって異常だと思う。

 私でも王族の暮らしに慣れて、それで権力や財が減りかねない法律や整備をしますよーっていわれたらどうするか、正直分からない。


「本当に色々とすごいお方だったわ。そしてそんなカーク様を間近で見てたブリザは、カーク様の事をすっごく尊敬……崇拝に近いレベルで慕ってたわ。だからカーク様の訃報を聞いた時はものすごく落ち込んでたけど、王位を継いでからは、御父様の意思を継ぐ!って張り切ってね。それからブリザはすごく頑張って、今も頑張ってる」


 そこまで楽しそうに話してたお母様は、そこで一旦話をきり、お茶を一服。

 そして軽くため息をつき、話を続けた。


「でもやっぱり、さっきも言ったけど反発する人が多くってね……しかも大貴族になるほど反発する人が多いから色々大変なの」

「うむ、儂の目から見てもちと無理しすぎじゃのう。あやつは本当にカークを崇拝しとるが、その分自分よりもカークの意志を大事にしとる節もある。やるにしても、もっとゆっくりでいいと思うがの」

「私もそれは言ってるの。でも彼は自分の代で形を作りたがってて、なかなかね……だから出来ればクロエちゃんも、一緒に彼を支えてあげてくれたら嬉しいんだけど……」


 私に何か出来る事があるのかどうかは分からない。

 けど、まあお茶を淹れてあげるくらいの事は出来る!

 そんなんでいいのかは分かんないけど!


「うん、私に何ができるか分からないけど、何か手伝える事があったらがんばるよ」

「ありがとう……!」


 これからどうなるか分かんないけど、出来れば私も仲良くしたいし、出来る事があれば手伝いたいのは本当の気持ちだ。

 取りあえずマンガで心を癒してもらおう。

 よーし、がんばっちゃうぞー!

 そんな決意を心の中で叫び、取りあえずはパパンに突撃だ!と気合を入れる私であった。


「しかし、やっぱクロエのお茶はうまいのう」


 御爺が平常運転すぎてつらいです。


「まあなんとかなるじゃろ。取りあえず行ってみぃ」

「うん……!」

「クロエちゃん、頑張ってね!」













■ ■ ■


「クロエか」

「あ、あのあのあの……」

「今度の夜会で、改めて皆にお前を紹介する予定だ。次にあのような態度を取ったら許さぬぞ」

「え、ご……」

「もうよい。下がれ」

「ふぁい……」


 気合をいれて乗り込んだら、一方的にいわれて追い出されちゃいました。

 うん。やっぱこのおっさん、嫌い!



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