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第十六話「涙の理由は」

 茫然と王妃様らしき人の土下座を見ていたが、一向に動かない。

 仕方なく、私は恐る恐る目の前の土下座に声を掛けた。

 もしかしたら土下座じゃなくて王族独特の何かかもしれないし。


「あ、あの、何をしていらっしゃるのでしょうか……」

「ええっとね、これは土下座と言ってね?これをやられた相手は土下座した人を許さないと色々まずい事になるという事から許しを強制的に得られるという素晴らしい技でね」

「絶対御爺だ!」


 何教えてんの御爺!

 そしてそれを娘に躊躇なく実行する王妃様!


 あまりにあんまりな展開に緊張を通り越して色々グッタリした私は、別に怒ってませんからとママンを立たせ、椅子に座ってもらった。

 誰もいない理由は、これを他の人には見せれなかった為なのかも。


 その為か、よく見れば端の方にお茶セットが備えられていた。私はちょっと戸惑いながらも勝手にお茶を淹れさせてもらう。こういうのって全部、いわゆる王室御用達というものになるのかな?


 少し蒸らし、いい香りが立ってきたポットとカップをテーブルに運ぶ。そしてちょっとびびりつつも、私はテーブルの向かい側へ座った。

 改めてみると、雰囲気とかやっぱり私に似てる……?


「あの、本当にごめんねクロエちゃん。ブリザもあんな言い方しなくても……」

「いえ、いってることは間違ってない……と、思います」

「そう……」


 悲しそうな顔をされても、泣きたいのはこっちだよもう。

 まあ私の謁見での対応も、我ながらどうかとは思うけどさ!


「……ふふ、でもほんとにギベルの事が好きなのね。それで頭にきちゃったんでしょう?」

「いや、なんかあのおっさんの鼻毛にイラっときただけです」

「え、鼻毛出てたの?」

「王妃様が鼻毛とかいったらダメだと思います」

「……もう!ずるいわクロエちゃん!」


 淑女の嗜みを教えてあげたのに、怒られてしまった。

 ほんとだよ?鼻毛とかいってたら御爺のゲンコツがくるんだよ?

 私はおせっきょーに詳しいんだ。


「あのね?クロエちゃんの事はちょっとは聞いてたけど、なかなか口に出せない事だったからそこまでギベルからは聞けなかったの。よかったら今までの生活の事とか、聞かせて欲しいわ」

「今まで……ですか」


 まあ楽しい生活を送っていると分かれば、じゃあ帰っていいよとかいうかもしれない。

 頑張って伝えようじゃないか!


 それから私は、今までの生活がいかに楽しかったかをせいいっぱい語った。

 もう一人の家族であるユキちゃんの事。

 家はぼろいけど気に入ってる事。

 ユキちゃんと川に釣りにいった事。

 御爺が森でクマさんを狩ってびびった事。

 御爺に色々教えて貰った事。

 御爺と魔眼勝負をした事。

 二人で街に遊びに行った事。

 ユキちゃんの事を忘れていたのはナイショだ。


「ふふ、ほんとうに仲がいいのね。お願いした事とはいえ、ちょっと妬けちゃうわ」

「……まあ、よくしてもらってるとは思ってます。ゲンコツはすごい痛いけど」

「ギベルは怒ると怖いわよね」

「でも、すごく優しい……です」

「そう……私は、アナタに優しくない母親ね」

「……いえ」


 確かに御爺に丸投げして今まで音沙汰無しというのは、それだけ見れば酷い話だ。

 でも私は御爺と過ごしてきた事、過ごして来れた事にはすごく感謝してるのだ。

 ぶっちゃけ今更ほんとーの親ですよって出て来られても、「そっすか」くらいしか思わないし!前世でも実の親なんてどうでも良かったし!


 そんな人達より、友達の方が何倍も大事だったなあそういえば。

 ♰キリト♰さんや、まみちゃんさん、白姫さんは元気にしてるだろうか。白姫さんはネカマがバレてから大炎上してたけど、面白いおっちゃんだったなあ。「ううん、知らないけど絶対そう!」とか、変な日本語でよくみんなを笑わせてた。

 まあみんな照れ屋さんで、ネットの中でしか会えなかったけど。


 そんな悲しい前世の記憶で倒れそうになった私を、ママンは優しく抱きしめてくれた。


「ごめんなさい……私はあなたを守る事も出来なかった」


 そんな事はないですぞ。

 御爺に預けてくれなかったら一体どうなっていたのか。


「こんなダメな母だけど、アナタを想わない日はなかったわ。元気にやってるのかな、ご飯はちゃんと食べてるかな、寂しい思いはしてないかな……元気でやってるというのはギベルから聞いてたけど、やっぱり会えないと辛くて、一度だけアナタをこっそり見に行ったり……ギベルにすっごい怒られちゃったけど……」


 この一族はなんでこう行動力がすごいの!

 そういうのはマンガの便利なヒロインちゃんだけでいいから!

 ほんと、やめてよ……


「不甲斐ない母だけど、でも……本当に会えて嬉しい。そしてこれからは、一緒に暮らしてくれたら、とても嬉しいわ」

「……」

「許してとは言わないわ。でも、できればこれから私達に償わせて欲しいの。何もできなかったこんな母だけど、愛してるわ。クロエ」


 私を抱きしめながら、震える声でそんな事を喋りながら、母は泣いていた。

 それを聞きながら、私もなぜか泣いていた。











 ふと思った。なんで私が泣かなきゃいけないんだ、と。

 あっちが泣くのは分かる。そりゃ罪悪感もあるだろうし、せっかく帰ってきたのに国王の塩対応で娘は出て行こうとしてるのだ。


 ……そういえば私がもっと幼い頃、「おじーのおでこはなんでこんなにひろいのー?」なんて事を無邪気に聞いてしまい、御爺に物凄く悲しそうな顔をされた事があった。

 それでなんだか私まで悲しくなり、思わず御爺のおでこを撫でながら「だいじょーぶだよ~すべすべだよ~」とワケの分からない事を言いながら泣いた経験がある。


 因みにその後のお勉強が数日程物凄く厳しくなったりと地味ないやがらせはされたけど、いつか御爺に毛生え薬をプレゼントしたいなあと思ってはいる。


 そんな事を考え、ただのもらい泣きだという事にしたかった。

 でも、そうじゃない。

 すぐに気付いたけど、それがなんだか恥ずかしくて、いやだっただけだ。


 結局私は、親に拒否されるという事に怯えてただけなんだ。


 父のちょっとした態度に過激に反応して、とにかくここから逃げようとばかりしていた。

 正直今まで、単純に王族なんてメンドイし~親とか御爺で十分だし!と本気で思っていた。

 でも多分、そうじゃない。


 いや、御爺がいてくれれば十分っていうのもほんと。

 でも、私の中に巣くう前世の記憶が、もう一つの本当の気持ちに蓋をしてたんだ。


 前世の黒奈は、親に愛されなかった。

 だから黒奈も、親を愛さなかった。

 どうでもいいと思い込んだ。

 でも本当は、愛されたかった。


 その記憶のおかげで、私は御爺の大切さに気付けた。

 でも同時に、親にさえ愛されない悲しみも知ってしまった。

 だから、拒否される、愛されないという恐怖に、蓋をした。


 私は今、受け入れてもらえたという事だけで、すごく安心してしまっている。愛してるなんて一言いわれただけで簡単に落ちる、チョロインなクロエちゃんだったらしい。


「ありがとう、シルフィア様」

「クロエちゃん……?」

「私ね、ほんとは怖かったみたい。いらない子なんじゃないかって、もうどうでもいい存在なんじゃないかって。でもそうじゃないっていってくれて嬉しかった。だから、ありがとう」

「クロエちゃん……!いらない子なんかじゃない!私が馬鹿で弱かっただけ!これからはもう絶対手を離したりしないわ!」


 正直、ほっとした気持ちが大きくて、母をどう思うかとかはまだ正直分からない。

 でも、好きになれそうな気はしてる。

 なんか面白い人だし、ね!


「……私ね、シルフィア様にはすごく感謝してるの。私を御爺に預けてくれて本当にありがとう。おかげで私はとっても幸せに過ごしてこれたよ。御爺の事は本当に大好きだから……これからも御爺と、一緒にいたい」

「クロエちゃん……」

「だから、なるべく御爺と、シルフィア様と、二人と一緒に暮らせるようにしてくれたら嬉しいです。これから、よろしくお願いします。……お母様」

「クロエちゃん……!」


 再び抱き合う私達。

 そんな私達は、ホッとしたのか安心したのかなんなのか、二人同時におなかがなった。


「……ええっと、食事にしましょっか!」

「う、うん!」


 少し照れたようにお母様は襟を正し、脇に置いてあったおしゃれなベルをちりんと鳴らす。


「お呼びでしょうか、シルフィア様」

「食事の用意をお願い。後、ギベルを呼んでちょうだい」 


 さっきの聖女様の声がドア越しに聞こえた。そうか、あの聖女様はカアラさんというのか。いや違う、カアラ様だ。

 カアラ様に呼ばれた御爺は、近くにいたのか、すぐにやってきた。


「ほう、上手くいったようじゃの?」


 入ってきた御爺が、私達の様子を見てそういいながらニヤニヤしてた。ちょっとイラッとしてたら、ママンが私を抱きしめてニヤニヤし返した。御爺がなぜかちょっと口惜しそうで、笑ってしまった。


 その後、食事はすぐに運ばれてきた。

 色んな料理がいっぱいちょっとづつ並べられた、なんともセレブ感満載のご飯だ。見た目も楽しく、年頃の娘さんなら「インスタ映えするぅ!」と思わずベッドの上でダンスを始めてしまう事まちがいなしな出来映えに、思わずほほがゆるんでしまう。


「まあ仲良くなれたようで安心したわい。お前さんらは結構似たとこがあるからのう……仲良くなれると思ったが、喧嘩する可能性もあったからの」

「あら、そうなの?」

「見た目の話じゃないの?御爺」


 いやまあママンの方が数倍綺麗だけどさ。

 なんかパーツパーツ見ると結構似てて、親子なんだなって感じがするのよね。

 いや私もかわいいけどね?ね?


「性格も結構似とるぞい。ビビリなくせに口が悪いとことかのう」

「まあ!私は確かにビビリだけど、口は悪くないわ。老眼で誰かと間違えてない?大丈夫?」

「私も悪く無いよ!何いってんのほんとボケちゃったの御爺!大丈夫?」

「自覚がない所もよー似とるわい……」


 失礼な御爺はおいといて、とりあえずご飯だ!見た目を楽しみつつも、一つ一つが小っちゃいのでガンガンお口の中に投げ込んでもっしゃもっしゃと食べる私。

 そんな私を微笑みながら見ていたお母様が、思い出したように私に聞いた。


「ところでクロエちゃん」

「ふぁい」

「ブリザの事なんだけど……」

「ふぁい……」


 忘れてた。

 ママンとは仲良くなれたけど、そういえばパパンもいたよね。もう母子家庭でいいんじゃないかな……あの人はやっぱり歓迎してなさそうだし、正直怖いよ。


「クロエちゃんの気持ちは分かったわ。あの人の態度を見たらやっぱり不安よね……でもね?ブリザも本当は喜んでるのよ?」

「ダウト!」

「クロエ、そりゃシルフィアには分からんぞ」

「む、何よ、二人で通じ合っちゃって……」


 そういやダウトはあっちの言葉だった。

 御爺には結構教えたので割と通じてしまうのだけど。


「まあまた教えて頂戴ね。それでブリザなんだけど……ちょっと言いにくいんだけど、多分もしかしたらなんだけど……クロエちゃんが、私とギベルの子なんじゃって思ってる気がするの」

「それは素敵ですね」

「酷い話じゃと思うぞ……」


 確かにひどい話だね、ほんとにそうなら。

 でも普通そんなの疑う?

 こんなおじいちゃんとママンが!とかありえないでしょ?


「まあ本気では思ってないんだろうけど、彼もほら、すごく信頼してたメルティナに裏切られてね?他にも色々学園とか法律とかの問題ですっごく疲れてる時だったから、色々不安で疑心暗鬼になってるみたいなのよ」

「学園とか法律?」

「ええ、カーク様の意志を継ごうとしてね。色々今まで頑張って来たんだけど、それを邪魔する人達がいっぱいいてね!あの方達ほんと洗面台で溺れて死んでくれないかしら」

「うわぁ」


 確かに口悪いなぁ……私はそんな事ないはずだけど、御爺は何を見てそう思ったのやら。


「そういう人達と色々揉めてるとこだし、学園は一度休園に追い込まれちゃったし、それで今結構大変でね?それでその……クロエちゃんてギベルと同じ魔眼をもってるから……」

「でも魔眼は遺伝しないっていうし、魔紋検査でも親子って鑑定されたんだよね」

「ええ、だからもしそんな考えがあったとしても本気じゃないの。ほんとは分かってるし、嬉しいのよ。クロエちゃんの描いたマンガ?も一人でこっそり見てたし。私も勿論読んだわよ!すごいわねクロエちゃん!」

「あ、ありがと……!」


 あれを見られてたとは!

 ミルカ経由かな?まあ嬉しいけど!


「でも今度はあんな事件があったでしょ?それでブリザは不安になってるの。また裏切られるんじゃないか。騙されてるんじゃないかって……」

「それは、そうなるのも不思議じゃないか……」


 今になって冷静に考えれば、私はあの人にそんなひどい事をいわれた訳じゃないのだ。むしろ周りの人を説得するようにいってくれてたし。

 もっといえば、そんな疑いや不安がありながらも、お迎えにお偉い人を寄こしてくれて、宮殿も用意してくれて、あんな態度を取ったのに追い出さずにいてくれて……


 影月宮の人達。

 あそこにいる人だけは、私や御爺の魔眼に眼を背ける事もビクビクする事もなく、普通に接してくれている。

 他のとこに行った時に感じてた違和感は、それだった。わざわざあそこに、魔眼に忌避感のない人を集めてくれてたんだろう。

 めちゃめちゃ気を使ってくれてたんだ。


 自分の事ばっかりで、与えられた物に気付けてなかった。

 私は結構大人のレディよ!って思ってたけど、全然そんな事なかったみたい。


「私、もう一度お父様に会うよ」

「えっ?そうしてくれると嬉しいけど……大丈夫?クロエちゃん」

「……うん。お母様がしてくれたみたいに、私も御父様に伝えてみる」

「そう……ありがとう、クロエちゃん」


 しかし、会うといってもどんな顔して会いにいけばいいのやら。

 なんか色々忙しいらしいし、邪魔にならないかぴら。

 やっぱりまだ色々不安だし……


「あ、そういえばさっきいってた、法律とか学園って何?」


 ふと思い出して聞いてみた。

 さっき聞いてて気になってたんだよね。


「え?ああ、それはカーク様の……カーク様は知ってるわよね?アナタの……もう一人のおじいちゃん」

「んん?ん~、あ、三国同盟を提案した先代の王様?だったっけ」

「そうだけど……それだけ?」

「うん」


 御爺の授業で聞いたと思うけど、同盟戦争の話はさらーっとしか聞いてないんだよね確か。

 どういう戦争だったとかカーク様がどうだったとか、そういえばなんも聞いてない。


「そう……ギベル?」

「いや、戦争の話は儂も関わっとるからの……あんまり詳しく話すとのう……」

「ふーん、ヤンチャしてた頃の話をしたくなかっただけなんじゃないの?」

「それはそれ……まあ……」

「私、気になります!」


 なるほど、戦争に関わってたんならそりゃいいたくないか。

 大丈夫だよ御爺、何やったって私は嫌いになんてならないよ!

 でもバイオでハザード的なお話はおさえめでお願いします。


「いい?ギベル」

「……まあええか。補足はするで、話すがええ」

「ありがとうギベル。カーク様や同盟戦争の話は今のブリザの状況にもすごく関係してるから、クロエちゃんにも知っておいて欲しいしね。少し長くなるけど、いいかしら」

「うん、あ、お茶入れるね!」


 ママンがメイドさんに頼もうとしたけど、私のお茶くみもなかなかのもんなんだぜい。

 それに、たまにやってないと忘れちゃいそうだし。


 食器とかを下げてもらっている間に三人分のお茶を淹れ、一息ついてからママンは語り始めた。

 その話で語られたカークおじいちゃんの話は、本当にすごい物だった。

 もしかしておじいちゃんも私と同じ、前世の記憶をもっていたのではと疑ってしまう程に。





明日は12時頃更新予定です

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