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第十五話「謁見」

 聖海に浮かぶ大陸の一つ、三神大陸。

 その大陸は三神聖教国という小さな国と、それを囲むような三つの領土に分かれている。

 大陸の中心にある極小国家、三神聖教国。

 その聖教国を囲むようにある、三人領。

 白人種の住む、白人領。

 魔人種の住む、魔人領。

 獣人種の住む、獣人領。


 更に各領内に、様々な国家が存在する。

 その内の白人領にある国のひとつが、クロエ達の住むガーベラス王国である。

 治めるのは二十七代国王、ブリザ・ガーベラス。


 ブリザには、二人の妻がいた。

 第一王妃、シルフィア・ガーベラス。

 第二王妃、メルティナ・ガーベラス。


 ブリザは二人をこよなく愛し、結果五人の子供に恵まれた。

 だが現在は、ジュアス、マーコス、ミルカの三人しかいない。

 長男であったクルセスは幼い頃に病で死去。

 第四王女となるはずだった子は、死産となった筈だった。


 そんな王国に激震が走る。

 死産とされていた第四王女が実は生きており、王国相談役のギベル・フリードに保護されていたという。

 そしてそれが知れる原因となった、第二王女メルティナ、及び父であるゴーズによる数々の不正や陰謀の発覚。


 ブリザはすぐに調査隊を派遣。

 まずは不正や陰謀の調査。

 結果、数々の証拠を押収され、ゴーズは一族全ての貴族の資格を剥奪された上で処刑と決まった。

 メルティナは王妃であった事を考慮され幽閉となったが、一生そこを出る事はないだろう。


 そして第四王女、現在は繰り上がり第三王女となる、クロエという少女の存在。

 調査の結果、それは真実であると伝えられた。



 王国首脳部は彼女の回復を待ちつつ、国王との謁見の場を整えた。

 謁見後、問題が無ければ改めて王女として擁立され、王族として復帰する事となる。









 ■ ■ ■


 謁見の間には既に国王以下、王妃や重臣達がズラリと並び、クロエの入場を待っていた。


「クロエ様、ご入来!」


 騎士の声と共に扉が開かれ、クロエがしずしずと中央へと進んでいく。

 周りの反応は様々だ。

 美しい銀髪と容姿、金色の瞳に魅入られる者。

 隠れ住まなければならなかった境遇に同情する者。

 忌まわしき魔眼に、思わず顔を顰める者。

 眼を細め、じっと見つめる者。


 そんな視線をものともせず、少女は中央で静かに平伏した。


「クロエ、面をあげよ」

「ハッ」


 顔をゆっくりと上げた少女は、物怖じもせずまっすぐとブリザを見つめる。


「色々あったようだな。大儀であった、クロエよ」

「……」

「ふむ……コステロ、余の子であるという事は間違いないのだな?」

「魔紋による照合も済ませております。間違いなくクロエ様は、陛下とシルフィア様の御子でございます」

「そうか……」

「陛下……?」


 国王ブリザは顔を少し顰めたが、それは一瞬であった。

 表情を戻し、周りを睥睨する。


「我が子を余にも隠し死んだ等と偽った罪、これは本来許されざる事だ。

 しかもその子を託した相手は、我が国の功労者ではあるが、教会の関係者でもあるブリザ・フリード。

 その事実に皆も思う所はあるだろう!

 だが、結果此度の事件の解決に繋がった事もまた事実!

 その功を持って相殺とする!皆、よいな!」

「「「ハッ!」」」

「ではクロエ!正式に王族への復帰を認める!今後は王族として励むがよい!」


 鷹揚に国王ブリザが宣言し、クロエは一度顔を伏せる。

 そして美しい所作でゆっくりと立ち上がり、顔をあげた。

 そして聖女のごとき微笑みを浮かべ、答えた。


「だが断る」


 謁見の間の全員があっけに取られている中、クロエは一人、ゆっくりと謁見の間を後にした。















 ---クロエ視点---


「なんだあのおっさん!死ねばいいのに!」


 さんざん待たせといてこれかよ!

 まあ待ってる間ほぼ遊んでただけだけど!


 大体ね、私は別に王族とかどうでもいいのよ!

 そりゃね?ちょっとはね?そういうのに憧れたり妄想したりはしたよ?

 でもまあそういうのは三日で飽きて、五日でいやになるだろうし?

 庶民の生活楽しいし?


 でも、まあその投げっぷりはどうなのって疑問はあるけど、御爺に私を託してくれたママンの行動には感謝してるのはほんとーだよ?

 それを、なんにも分かって無いおっさんが罪だと言い出した挙句、上から目線で「王族と認めてやってもいいけど?」なんていわれて、ありがとうございますぅ!なんていうと思ったら大間違いなんだからネ!


 うんうん、やっぱ王族とかそういうのは妄想の中だけでいいわ。

 さてさて。


「おおクロエ、謁見はどうじゃった?」

「御爺!引っ越そう!出来れば国外の海辺の街に!」

「ええぇ……」


 御爺が困ってるけど、しょうがないのだよ。

 でもごめんね御爺、急な引っ越しになっちゃって。


 出来れば海辺の街がいいな。

 はんぼけの御爺とのんびり釣りをしたりしながら過ごしたい。

 んでその街には、実は知らなかった腹違いの姉が三人いて……


「クロエ」

「そんでちゃぶ台を囲んで貧しくも楽しい……なに?」


 妄想に浸ってたら、御爺の厳しい目線と声で現実の世界に戻された。

 そんなに怒っちゃやーよ?


「いやね?なんか御爺とママンに私は助けられたじゃない?それをあのおっさん、ふざけた事した二人は気にくわねえなあ!でもまあ一応王女と認めてやってもいいけど?とか上から目線でいいやがってね!だから、そんなの必要ございませんわ、私はもう死んだ身。謹んで辞退させて頂きますかしこ。って丁重にお断りしたよ!」


 ちょっと違った気もするけど、大体あってるよね。

 めんどくさい事になるかもだけど、国外に逃げれば流石にほっといてくれるでしょ。

 元々そんな予定だったし。


「ふぅ……」

「どしたの御爺。あ、私とまた暮らせるって分かって安心した?これで老後も安心ね!御爺一人くらい養ってみせるよ!まあもう老後だけど!」

「ありがとうクロエ。でもそうじゃない、そうじゃないんじゃぁ……」


 む、老人扱いはダメだったかな。

 電車の譲り合いも結構難しいしね、うんうん。クロエ反省。


「そこでもないわい!」

「うお、以心伝心だね御爺」

「まあお前の気持ちは嬉しいし、いざとなったらそれでもいいんじゃがの。もうちょいまってくれんか?」

「あ、そうだね……職場の引継ぎとかもあるし、引っ越し先も吟味しなきゃね!」

「うん、そうじゃの」


 御爺の雑い返事は気になるけど、まあいいか!

 まずはアルスメリスとルドベニスどっちがいいか考えないとなぁ。

 本と御爺の話からの情報しかないけど……


「お姉様!」

「うぉっ」


 引っ越し先に悩んでいる所に大声で叫びながらやってきたのはミルカだった。

 淑女がそんな声をあげてはいけませんのよ?


「い、一体どういう事ですか!だが断るってなんなんですか!」

「あれはとある偉人が放った名言の一つでね」

「訳が分かりません!!」


 ミルカさんの怒りが有頂天である。

 この怒りはしばらくとどまる事を知らなそうだ。

 そんな激おこ状態でもミルカは非常にかわいい。ぺろぺろしたいお。


 取りあえず宥めようとミトさんにお茶とお菓子を頼み、三人で飲んだ。

 お菓子は焼き立てのクッキーだった。

 帰ってくる時間を予測してたんだろうか。流石ミトさんだぜ!


「……お姉様は誤解してるんです。御父様は本当はとっても優しいんですよ」

「そっか、よかったねぇ。だが私の御爺に優しさで勝てると思うなよ?」

「なんでバトル前みたいな雰囲気だしてるんですか!」

「儂って召喚獣みたいな扱いじゃのう」


 ミルカがいうには、あのおっさんは公式の場ではあんな感じだけど、家族といる時にはとても優しいんだとか。

 まあそういう事もあるか。

 前世の親も対外的にはいい人だったらしいし。

 ……まあそれなら、いきなり殺しに来るとか物騒な事もないよね?

 少し冷静になって考えると、あの対応はやっぱやべかった気がするのはナイショだ。


「よかったね御爺。穏便に引っ越し出来そうだよ」

「そういう事ではありませんお姉様!」

「ええぇ」


 ミルカを追いかけて遅れてやってきたセラさんもお茶会に参加してもらった。

 わいわいと引っ越し先を選定する私と、それを阻止しようとするミルカ。

 なんか笑ってる御爺と、困り顔のセラさん。

 楽しい時間だった。











 ■ ■ ■


 ムナクソ悪い謁見と、ミルカ達との楽しいお茶会から数日。

 何故か私はまだ、王宮にいた。


「御爺~もー帰ろうよ~」

「いや、流石に気に入らんからじゃあばいばい。とはいかんでの……」

「えーもういいじゃん……」


 今更出て来たよく分かんない娘なんか、ほっときゃいいのにな……

 ああでも政治アイテムとしての使い道とかあるか。あるか?

 激おこかますような娘だよ?危ないよ?

 そういや激おこぷんぷんまるのぷんぷんまるってどっから出て来たのかな。


「クロエ」


 おこって響きはいいんだけど、ぷんぷんまるはちょっとないよね。

 かわいくしようとして間違えた感があるし、そういう事なんかな。

 誤用って奴か。ちがうか。そいえば大団円を大円団だと思ってたけどこれは一体何になるのか……


「クロエ!」

「にゃっ!?」


 おっと、暇な日々でどうにも考え事に走りやすくなってるね。

 いやまあ元からか。

 ぼっちのデフォルトスキルですよねこれきっと。


「どしたの御爺」

「ん、ちと行くぞい」

「どこへ?ご飯はさっき食べたんだよ……?」

「覚えとるわい!」


 安心した。

 とうとうかと思っちゃったじゃないのよさ。


「で、どこいくの?」

「お前の母親のとこじゃ」

「えっ!?」


 とうとう来たか……

 いや気にはなっていたんだけど、このタイミングで?

 まあパパ王と違って感謝の気持ちはあるけど、ママンにまで塩対応されたら……


「まあお前が何考えとるかは分かるが、まずは会ってみぃ」

「えー……」


 ぶつぶつ言いながらも私は大人しくついていった。

 会ってみたいような会いたくないような。

 気持ちの整理は、つかないままだった。










 しばらく歩いた先。

 如何にも偉い人が居そうな、豪華な扉のついたお部屋の前に私はいた。

 その扉の脇には、護衛の為なのか屈強そうなゴリラがいる。

 いや、ゴリラっぽい人?がいる。


「獣人族……!?」


 私の住むガーベラス王国を含め、白人領は基本的には白人種しか住んでいないらしい。


 例外として、領界ぎりぎりの地域には主に貿易の為に若干名の他人種が滞在してるのと、彫金師のキリさんみたいな変わり者がこれも若干名いるとは聞いてたけど……


 そう言われていたので、獣人というワードにトキメキつつも諦めてたのに、まさかいきなり獣人種の人に会えるなんて!

 でも出来れば最初は犬とか猫とかウサギとかこう、かわいい感じの獣人さんにお会いしたかったなあ。

 いやまあそこのゴリさんもかわいいっちゃかわいいと言えなくもないけど。


「……クロエ様。申し訳ございません、私は獣人種ではありません」

「えっ!?じゃあ本物!え!?あれ!?」

「白人でございます……」


 よーく見れば、確かに鍛え方が尋常じゃないけど白人種の女の人だ……

 なんて失礼な事をいってしまったんだ私は!

 しかもそんな私に対し、ゴリラと間違われた事を悲しみつつもそれを隠し、聖女のごとき微笑みを向けてくれているじゃないか……!

 女性でゴリラに間違われるなんてきっとすごく辛いだろうに!


 屈強な肉体と聖女の心を併せ持つ護衛のメスゴリラ。

 流石国の最高峰に位置する騎士さんは格が違うよ!

 いや違うゴリラじゃないんだってばもうやだ頭の中で何回ゴリラって言ったんだ私ものすげーいやな子じゃん今すぐ死にたいですよし死ぬか。


「クロエ様、私共は護衛です。寧ろゴリラ種の獣人と間違われるというのは光栄な事ですので、どうかお気になさらないで下さい!さあシルフィア様がお待ちですので中へ!」


 もうこの人がこの国の王様でいいんじゃないかな……


「大変失礼しました……またよければ淑女の心得を教えてください……」


 虚ろな精神をなんとか立て直し、中へ。

 おうおう、豪華なお部屋じゃねーかてやんでい。

 なんて考えてたら、御爺がなんか信じられない事をいった。


「まずは二人で話してみぃ。儂は外でまっとるでな」

「え?御爺?」


 パタン。

 そんなセリフと共に、扉を閉められてしまう。

 ちょちょちょ!いきなり二人きりとか!

 私のびびりグセ知ってるじゃん!ひどいよ御爺!


  っていうかよく考えたら私って、一国の王様に大勢の前でイキッたあほの子じゃん!?

 その奥さんと面会って「あら、片方だけじゃ寂しいし、両方に穴を開けてあげるザマス」とかいって刺されてもおかしくなくない!?

 やだやだー!助けてオジえも~ん!


 そんな必死な心の叫びには誰も答えてくれず、ドアはがっちり閉まったままだった。

 己のあほさと御爺を呪いつつ、恐る恐る正面へと向き直す。


 部屋は広すぎず狭すぎず、全体的に柔らかく落ち着いた感じだった。

 だけどいちいち、どこもかしこも高級感が半端ないッス。

 心境的には「豪華な拷問部屋ですぅ」って感じだけどね……!

 あれ?でも肝心の王妃様が……いた。


 部屋がまるでその人の為の額縁であるかのように、その人は輝いて見えた。

 見た事のない輝きを放つドレス、私の髪の数十倍は美しい銀髪。

 そんな輝きを纏った王妃様が、部屋の中央で土下座していた。

 なおかつ器用に「クロエちゃん、ごめんなさい」と書かれたプラカードみたいな物を、頭上に掲げていた。



「こんなの絶対おかしいよ」


 二人きりの部屋で、私の呟きだけが寂しくこだました。




明日も19時頃に更新予定です。

感想お待ちしてます。

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