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第十三話「メルティナ様とのお茶会」

 次の日、私はまたも馬車に乗せられカポられていた。


 メルティナのいる場所は敷地内に建てられた塔の一つで、彼女は以後ずっとそこへ幽閉されるらしい。

 そう聞くとちょっと可哀そうになってくる。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるっていうか、まあみんな無事だったからこそ、そう思えるんだろうけどさ。


 連れて来られた塔は綺麗な外観で、幽閉塔といったイメージは無かった。

 バルコニーとかもあるし、レンガ造りのタワマンと考えたらすげーリッチな感じだ。

 

 塔の入り口には見張りの人らしき兵士さんが二人並んで警備していた。

 コステロさんが先に彼らに話しかけ、分厚い扉が開けられると私達も続いて中へ。

 入る時に兵士さんにお疲れ様ですと頭をペコリ。びくっとする兵士さん。なんでやねん。


 中も明るく素敵な造りで、兵士さんもいるけどメイドさんも何人もいる。

 幽閉塔っていうより、塔の形の宮殿という感じがした。

 やっぱり奥さんの事だし、色々配慮してるんかしら?


 宮殿と違う所、というか影月宮と違う所は、メイドさんや兵士さんの態度くらいだ。

 すれ違う人達はこちらに気付くと頭を下げてくれるんだけど、ちょっとびくっとするのだ。

 そして目を絶対にあわさない。


 影月宮の人達はもっとてきとーというかフランクな感じだけど、ここの人達は上官がきびちーのかな。

 なんか変な緊張感があってこっちまで緊張してしまう。

 まあ王妃様を幽閉してる所だし緊張感がないのもよくないか。

 そんなちょっとピリッとした空気の中、私達は最上階のメルティナの幽閉されている部屋へと向かった。








■ ■ ■


「あら、相変わらず憎たらしい顔ねぇ」


 塔に入る前に感じた哀れみは一瞬で霧散した。

 死ぬまでニートしてればいいよ!

 ……あれ、なんかちょっと羨ましいぞ?


 メルティナの周りには魔道具によって物理魔法両対応の結界が張られ、魔法があまり得意ではないらしいメルティナが突破する事はまず不可能であるらしい。

 

 一応私や大臣の周りにも兵が置かれ、横には御爺がスタンバイ。

 更に結界内にも警備の兵を置く万全な構えだ。

 ぶっちゃけ不要なんだろうけど、私の事を思ってくれての事なんだろうなあ。


 と思うんだけど。

 なんか中の警備兵がね、恭しくお茶を給仕してるんですよ。

 んでメルティナは優雅にお茶を嗜んでいらっしゃるんですよ。

 

 部屋もなんか妙に豪華ですし。

 椅子がすげーでかいし。

 兵士Aの顔が妙に赤いし。

 オッケーグー〇ル、幽閉の意味を調べて。


「こんにちはおばさん!何か私に言いたい事でもあるって聞いたけどなんなのよ!」

「あら、私はおばさんじゃないわよ?アナタはなんかおばさんくさいけどねぇ?」


 貴様……ゆってはいけない事をいったおおおおお!

 結構主婦臭さはニート甘やかされ生活で抜けた筈なんだけどな……

 寝転がってお尻ポリポリしながらテレビ見る系の匂いが染み出たかな?


「メルティナ、お前さんは相変わらず臭そうな顔しとるのう?まあお前のように色々無理やりごまかしとる奴にはクロエの素朴なかわいさは分からんじゃろうて」

「相変わらずムカつくジジイねぇ……」


 御爺がすかさずカウンター!

 御爺も苦労させられたらしいしなあ。

 でも「素朴な」とかも結構ごまかしを感じて辛いんだよ?


 しかし確かに化粧は厚そう。

 そういや私も顔が臭いですっていったような気がするけど、割とクリティカルヒットだったのか。

 でもだからってナイフで刺すとか頭おかしいと思いますぞ?。


「ねーおばちゃん、あんまし顔を動かしたらヒビ入っちゃうお……気を付けてね?」

「ほんとよく似てるわねぇ……」


 ありがとうございます。

 あんたもミルカと行動力だけはよく似てるよ!


「で、なんなのよ一体」

「……貴女、やっぱり王族に戻るのよねぇ」

「ええ、おかげさまで」


 それだけ言うと、メルティナは目を伏せ黙りこくってしまった。

 え?それだけ?

 なんなのよ一体……


「これからは、貴女がミルカを守りなさい」

「へ?」

「ミルカは貴女を慕っているのよねぇ。だからこれからは貴女にミルカを守る役をやらせてあげるわぁ」

「……それで、話はそれだけ?」

「ええ、やってくれればちゃんと話すわよ?」

「そうですか。ではお望み通り、たっぷりと可愛がってあげましょう」


 満面の笑みでいってみた。

 まあそのまんまの意味なんだけど、きっとおばはんは可愛がるという名のイジメを想像するだろう。

 そういうのすげーやってそうだし!せいぜい檻の中でモヤモヤしてればいいさ!


「じゃそういう事で」


 顔が固まった(化粧でって事じゃないよ)メルティナ。

 ついでに兵士Aと、なんかひっそりと立っていた兵士Bも青ざめていた。

 っていうかよくみたら兵士Bはセラさんだった。

 何してんのこの人。


 そんなメルティナと兵士ABに満足しつつ振り向くと、他の人の顔も固まっていた。

 いやその方が結果的にいいんだけど……いいんだけどさ……!


「まって」

「いやです」


 周りの反応がよかったのか、メルティナの声がいつもの間延びした感じも無く、真剣な感じに変わっていた。

 心配しなくても数日したらドッキリ大成功!って書いた板もって「ミルカがイジメられると思ってたら嘘だったわけだけど今どんな気持ち?ねえねえどんな気持ち?」ってやってあげるから。ふっふっふ。


「……ごめんなさい。私には何してもいいわ。ナイフで刺してくれてもいいし、なんなら殺してくれてもいい。だからお願い……私がこうなった以上、ミルカはきっと辛い思いをするの。貴女にまで嫌われたらミルカは……」

「いやまってまって!冗談だから!冗談!」


 煽り過ぎたら相手の心がボキンと折れちゃったでござる!

 なんでおまいに罪悪感を感じなきゃいけないんだよずるいよちきしょー!


「……そう、なの?そう……ふ、ふふふ、あはははははっ!」


 死にそうな顔になったかと思ったら、今度は爆笑しはじめちゃった。

 壊れちゃったのかな……

 と思ったけど、なんかその顔は今までにない、いい笑顔で。

 なんかまあいっかと思って、私も笑ってしまった。


「まあミルカは私のちょーかわいい妹なんだから、あんたに言われなくてもすげー守っちゃうし可愛がるつもりだから安心してよ!愛しまくってやるわ!」

「そう、本当にありがとう……だそうよミルカ。良かったわね」


 んん?


 突然後ろを向いてそんな事をいうメルティナに困惑してたら、影からミルカさんがご登場。

 逆ドッキリされたわけだけど、今どんな気持ち?ねえねえどんな気持ち?

 と、脳内のミニクロエが大はしゃぎです。死にたい気持ちです。


「先生……」

「……むううう!ミルカ!私は先生じゃないわ!」

「え……?」

「おねいちゃんよ!」

「お、お姉様ー!!」


 そう叫んで私の元に走ってきたミルカは結界の透明な壁にぶち当たって反対方向へふっとんでいった。


 やるわねミルカ。めっちゃ面白かったよそのもちネタ。

 と心の中で称賛してみたけど当然ネタじゃなかったっぽくて、顔を抑えながらぐおおってうなってた。

 んん~かわいいです。


「コステロさん、結界を解いてあげて下さい」

「え?ですが……」

「もう大丈夫です」


 流石にもう何かされるかもなんて思わないさ。

 元々あってもなくても大丈夫だったけどね。


 結界を解いてもらい、改めてミルカと対面というかいつもの抱きつきが来たので、しっかりと抱き返した。

 色々話したい事や話さなきゃいけない事はあるけど、まずはゆっくりお茶でも飲もう。


「ミルカ、がんばるのよ」

「はい、お母様……」


 そういってミルカをそっと抱きしめるメルティナは、本当に慈愛に満ちた母そのものだった。

 ……ほんとにこの人ミライース?私があの時見た人と違い過ぎない?


「なんか、雰囲気変わったね」

「あら、そう?……でもそうね。ずっとあった焦燥とか欲望とか、そういうのもスッと消えちゃったわね。今はここでのんびりと過ごす人生も悪くないと思ってるわ」

「最初っからそう思っててよ……」


 なんとも人騒がせなおばちゃんだ。

 そこでふと、ずっと疑問だった事を思い出した。

 ちょっとミルカに聞かれたくないなと思い、耳打ちする。


(ねえ、結局あんた、なんで私の事が分かったの?)

(私がミルカの護衛に、セラ一人だけしか付けない筈ないでしょ?)


 そういう事か。

 ずっと気になってたんだ、ミルカもセラさんも黙ってたなら、なんでバレたんだろうって。

 御爺には後で教えてあげよう。

 ミルカとかセラさんを疑ってそうだし。


 最後に引っかかっていた物がスッキリし、私は先に塔を出た。

 ミルカもひとしきり別れを惜しんだのち、私を追いかけて来た。


 後の人はこれから大人の時間という事で、残って色々とお話をするらしい。

 私を呼び出した話がフェイクの可能性もあったけど、本当に何か話す事があるそうだ。

 なんか御爺も残って話を聞くようだ。お疲れ様です御爺。

 あと、ずっとこの場にいたのにはんぱなく空気だったコステロさんもお疲れ様でした。
















■ ■ ■


 塔から降りて馬車へと向かう途中、私達一行にいつの間にかセラさんが加わっていた。

 三歩後ろでひっそりと。


「セラさん!お久しぶりです!」

「ク、クロエ様、この度は……」

「取りあえずセラさんも馬車へ!」


 キョドるセラさんを強引に馬車へと誘い、影月宮へと戻る。

 ミルカはずっと私の手を握ったまま俯いていた。

 

 私は帰りの間、喋りかける事はせず、そっと寄り添っていた。

 そして反対側に横並びで座ってたセラさんに、ずっと耳元で囁いていた。


(ありがとうございました。セラさんがミルカを連れてきてくれたおかげで殺されかけましたけど死なずに済みました!)

(あ、あの……)

(セラさんにずっとお礼を言いたかったんですけど、私が死地に追い込まれてももをザックリ刺されたり、それでミルカがこんな状態になったりしてたのに、それを放置しなければいけない程にセラさんはお忙しかったんですね!メルティナの護衛とか!お疲れさまでした!)

(ごめんなさい)

(何を謝っているのですか?王女を守るだけでなく王女を抹殺するなんて真逆の仕事の手伝いまでこなす素晴らしい護衛ですのに!)

(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)


 しっかりとお礼を言ったら、表情を削ぎ落してごめんなさいと地面に謝り続ける装置になってしまった。

 いい仕事をしたぜといい気分になってミルカの頭をなでた。

 しばらくなでていたら、ふいにミルカが喋りだした。


「お姉様……。お母様がお姉様に酷い事した話、聞きました。でも……」


 すごく楽しい友達が出来て嬉しくて。

 母が人を襲って捕まったという話を聞いて愕然として。

 襲われた相手がその友達だった事に混乱して。

 その友達が自分の姉であった事を教えられて嬉しいのか悲しいのか訳が分からなくなって。

 事件の原因が自分である事に気付いて死にたくなって。

 どうしていいか分からなくなって、でも母の事はやっぱり好きで……


 そんな話をぽつぽつと。


 今だから分かる。

 私も御爺が私の為に誰かを襲ったなんて聞いたら、しかも自分の親しい人だったとしたら。

 怒るし悲しいし呆れると思うだろうけど、やっぱり嫌いにはなれないだろう。

 そしてちょっと嬉しいと思ってしまう自分に呆れるだろう。


 だから私もそんなもんだよなんて言って笑った。

 すぐに立ち直れるとは思えないけど、きっとミルカは大丈夫だよ。

 セラさんも御爺に何されるか分からないけど、きっと大丈夫だよ。



 影月宮に着き、ミトさんにお茶を頼み、ミルカとお茶を飲む。

 もうここがわが家な感覚になりつつあるなあと思いながら。

 そしてミルカを慰めたりイイ感じのおねいちゃんをやってた所へ、御爺が戻ってきた。

 そして「あの喋り方はなんじゃい!」と割としっかりめに怒られた。


 これが妹の前で親に怒られる姉の気持ち……割と最悪です……!

 まあミルカがちょっと笑ってくれたからいっか。

 自動ごめんなさい再生機「セラさん」は、御爺に耳をひっぱられながらどっかへ消えた。


 ……しかし、私もほんとそろそろちゃんとしなきゃね。

 これからは私も(まだ仮だけど)王族なのだ。

 かっこよくいうとセレブ。

 御爺に教わった作法で、「常に優雅に」を心がけなきゃ。


 でも作法の時間に「ちょっとお花を摘みに行ってまいりますワ」って言ってトイレに行ったら御爺に不思議な顔されたんだよね。

 今世ではセレブ語じゃないんだろうか。

 セレブ語むずかしい。


 あ、今更だけど「おねいちゃんよ!」って言ったのに「お姉様!」って返されたけど、セレブ界ではおねいちゃん呼びはNGなんだろうか。

 おねいちゃんって呼ばれたかったんだけどなあ。


 まあこっそり教育して、二人の時は「おねいちゃん!」って呼んでもらう事にしよう。

 あらあらまあまあとか返しちゃったりしたいもんです。

 楽しみだ。


明日も19時頃に講師に予定ですぬ

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