第十二話「大臣様とのお茶会」
「と、取りあえずお座り下さい。ミトさん、コステロ様にもお茶をお願いします」
「かしこまりました」
大きな椅子にドカリと座り、椅子を軋ませながら要れたてのお茶を一服。
落ち着いた所でコステロさんが話を切り出した。
「突然申し訳ない。改めまして、ガーベリア王国の法務大臣を拝命しております、コステロ・マイヤーと申します」
「はい、クロエです。よろしくお願いします……」
にこやかに丸いおっちゃんだけど、眼ぢからはやっぱりすごい。
急用の件がトイレを貸してくださいとかだったらいいのになあ。
「本来は明日お会いし、事件についてのお話を聞かせて頂く予定でしたが、ちと急な案件が出てきてしまいましてな。突然の訪問、申し訳ございませぬ」
「は、はい」
やっぱトイレじゃないよねー。
法務大臣様が急用でとか、平民の私には重すぎますです。
「あ、先に申しておきますと、明日は簡単な聴取と、一応の魔紋確認をさせて頂く予定でございました。まあ事前の調査結果でほぼ間違いないという結論は出ておりますので本当に一応なのですが……気を悪くなさらないで下され」
「い、いえ、それが一番確実だと私も思います」
「そう言って頂けると助かります……」
魔紋というのは、地球でいう所の指紋みたいなものだ。
人がそれぞれ持っている魔力は、一人一人その波形が違うらしい。
それを図にした物が魔紋と呼ばれていて、そしてその魔紋を見比べると親子なんかの血の繋がりも分かるんだとか。
指紋ってかDNAとかに近いんだろうか?
DNAって何?って聞かれても野球チームって答えてしまうレベルでよく分かんないけどね!
「事件の調査もほぼ終えまして、事件の全貌はほぼ解明されました。なのですが……メルティナ様はひとつだけ、まだ言ってない事があると」
「いってない事?ですか?」
「はい。事件の背景にある、とても重要な事であるらしいのですが……」
「が……?」
「それを話す条件に、クロエ様との会見を望まれておりまして……」
にょっ!?
「おいコステロ。もしかしてお前、死にたいんかの?」
「お、落ち着いて下されフリード卿!」
びっくりして固まってたら、御爺がコステロさんにメンチ切って脅しに掛かっていた。
最近気付いたんだけど、うちの御爺はどうも脅しと暴力で物事を解決しようとする癖があるっぽい。
孫としてとっても悲しいです。
「ちぇりやー!」
御爺が予期してなかった角度からのマジクロエぱんち。
良い感じに鳩尾に決まり、崩れ去る御爺。
分ったかい御爺、暴力では何も解決しないんだよ。
「うちの祖父がすいませんでした。それで、一体なんで私に会いたいと」
「え、ええ……理由はおっしゃられず、ただ一度会わせて欲しいとだけ。無視して聞き出そうにも、王族の方はたとえ罪を犯しても無理な尋問や拷問、魔眼などの使用等も禁止されておるのです。王の許可がある場合のみそれらも可能となるのですが、ブリザ王はまずクロエ様に聞いてみよとおっしゃられましてな……」
「なるほど……」
つまり、元王妃様は事件についてあらかた吐いたけど、まだ隠している事がある。
それをいう条件として私に会わせて欲しい。
無視して聞き出す事も出来るけど、王が許可を出さない。
こういう事か。
死ねばいいのに。
……以前なら絶対会わなかったと思う、けど。
でも今なら、なんとなく私に会いたい理由も分かるし、別に会ってもいいかなと思える。
まあぶっちゃけ強引に会わせる事も出来たんだろうけど、お願いという形にしてくれたんだろうし。
「分かりました。会います」
「……いいんか?クロエ」
いつの間にか御爺が復活していた。
流石御爺だぜ。
「うん。流石に危害を加えてくるなんて事はもうないだろうし……無いですよね?」
「はい。警備は万全を期しますので、そこはご安心を」
「なら大丈夫です。御爺についててもらっても?」
「それは……」
「やっぱりやめます」
「分かりました!調整致します!」
「じゃあお願いします」
「ありがとうございますクロエ様!では早速予定を組んでまいりますので、これにて!」
そういうなり、コステロさんは体格に見合わない俊敏さで出て行った。
ガンバだぜコステロさん。
「クロエがいいなら儂もかまわんがのう……」
御爺は私を尊重してくれたが、やはり心配なんだろう。
それはすごく嬉しい。
でも、会ってもいいって気持ちもあるからだけど、このイベントはやはり外せない。
私の今の状況は、結構危うい気がするんだよね。
マンガなんかの知識でしかこういう状況は知らないけど、権力のある一族にぽっと同じ権利を持つ血縁者が現れたら一体その一族はどう反応するか。
歓迎してくれる人もいると思うんだけど、やっぱり疎ましいと思う人もいると思うのよねえ。
なるべく最初はいう事を素直に聞いておきたい。
十歳でこんな処世術を考えなきゃならない事に悲しめばいいのか、前世の知識に助けられたと喜べばいいのか。
まあ御爺が横にいれば万が一も無いだろうし、お願いされてあげようじゃないか!
■ ■ ■
話が終わり、気が付けば結構いい時間になっていた。
気疲れした私は、気分転換に少し宮殿内を見物する事に。
御爺は用事で少し出てくるというので、ミトさんに案内をお願いしてふーらふら。
影月宮の中は思っていたよりも広く、さっきの部屋に案内される時に見せてもらった所以外にも色々あり、廊下に飾られている絵画や壺なんかを「ふむ……!」と分かったふりをしながら見物したり、他のお部屋とかも見せてもらった。
ほんとになんか観光にきた気分だ。
途中で気付いたんだけど、宮殿のいたる所でメイドさんもいそいそとお掃除とかしている。
さっき出迎えてくれた人達はエキストラとかではなく、元々この宮殿でお仕事をしてる人達だったみたい。
私に気付くと手を止め、わざわざ頭を下げてくれる。中には手を振ってくれるおちゃめな人もいたけど。
なんか邪魔してるみたいで悪い気がしてきたので、お部屋に戻り御爺にくっついてごろごろ。
これからどうなっちゃうのかなあともんもんとしてたら、お待ちかねの夕食タイムとなった。
おいしいご飯を食べて気分転換だ!
リティカさんのご飯は大変においしかったけど、そこは教会。
どうしても質素で素朴な物になりがちだった。
でもここは王宮、きっと塩と脂と甘味に溢れたご飯が出るに違いない!
「楽しみだね~ユキちゃん」
「わふ!」
飯はまだかとテーブルをバンバン叩いて御爺に頭をスパンと叩かれた。
仕方が無いので大人しく待っていたら、相変わらず気配薄めのミトさんが料理の乗ったワゴンを押しながらやってきた。
高そうなお店で出てくるような銀のでかい蓋を取ると、美味しそうな料理の数々が姿を現す。
「おお……!インスタ映えするぅ!」
「なんじゃいそれは」
前世の記憶に従いいってみたものの、インスタなんてやった記憶はどこにもなかった。
いけない、また悲しい気分になって来そうなので記憶を封印よ!
コース料理という訳では無く、テーブルいっぱいに料理が並ぶ。
どれも塩と脂がマシマシで実においしそうだ。ぶひひ。
ユキちゃんのお皿にも美味しそうなお肉が置かれ、いざいただきます。
「ん~おいしー!」
「儂はクロエの作ったご飯の方がええのう……」
嬉しいけどそれは身内補正というやつだよ御爺!
まあ嬉しいけど!
流石というかこってり脂と塩とクリームにまみれつつもしつこい感じは余り感じず、お腹がイカメシみたいになるまでがっつり食べ、更にデザートもしっかりいただいてしまった。
将来の体型に一抹の不安を覚えたけど、まあ子供の内はいっぱい食べる方がいいよね。
「クロエ様、食後のお茶はバルコニーでいかがですか」
「ん?お外?」
ゆっくりとご飯を堪能していたら、いつの間にかお外は真っ暗。
でも燭台もいつの間にかいっぱい置かれてて、バルコニーは優しい光で素敵に彩られていた。
いつのまにやったんだろうか。ミトさん恐るべし。
じゃあせっかくですしとバルコニーに出た私は、今日一番の衝撃に出会う。
「わぁ……」
かがり火で幻想的に輝く、昼間とは違った顔を見せる炎王城。
その上に優しく輝く、対照的なお月様。
その二つの輝きで煌めく湖面。
それらを彩る、後ろの山々。
そんな絶景が広がっていた。
「影月宮は正に、この景色を見る為の宮殿よの」
「うん、すごいね……」
いつものドヤ顔の御爺も気にならない、今まで見た事のない絶景。
いやあ来てよかったっす……
そんな絶景を眺めながら、静かにお茶を嗜む。
多分影月宮って名前は、この景色から来てるんだね。
他の宮殿もそれぞれの曜日にちなんだ名前をつけられているらしいけど、こういう特色があるのかな。
全部見せてもらえるか分からないけど、見るのが楽しみだ。
「しかりクロエよ。明日は本当にいいんか?」
しばらくぼーっと景色を眺めていたら、ふいに御爺が切り出した。
まあいやなのはいやだけどさ。
「うん。まあ点数稼ぎっていう気持ちもあるけど、あの人が私に会いたい気持ちもなんとなく予想がつくの」
「ほ?どういう理由なんじゃ?」
「んー、違ったら恥ずかしいから内緒」
納得行かなそうな顔をしてたけど、話題を変えてごまかした。
これからの事や、まだまだ全然なマンガ道の話など話題は尽きない。
すっかり遅くなってしまい、豪華なお風呂に入ってこれまた豪華なベッドに潜り込む。
家や教会では御爺と別々で寝てたけど、今日は一緒。
いつもは妄想にふけりながら寝るけど、今日は久々に御爺の昔話という名の子守歌を聞きながら眠る。
最近はなかったけど、やっぱり一緒に寝るのはうれしい。
またおねだりしようかなーなんて考えてたら、いつのまにか眠っていた。