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第十一話「いざ王城へ」

第二章開始です。


 認可式を終え、体調も万全となった私は、とうとう王城へと向かう事になった。


 実は教会とお城は距離的には無茶苦茶近いらしいんだけど、私はずっと教会のお世話になっていた。

 体調が戻るまでは教会で保護しておくという話になってたみたい。

 で、体調が戻ったよーと報告を入れた所、じゃあさっさとこっちこいや!という御返事を頂いたらしい。




「お世話になりました!」

「はい。短い間でしたが、寂しくなりますね……」

「ですよね!やっぱ行くのやめよう御爺!」

「無茶いうな……」


 はふん。

 サラバ麗しきヒモ生活よ。

 あれを味わうと社会復帰が大変困難になってしまうが、たまに甘やかしてもらいに来たいです。

 ユキちゃんも寂しそうだ。


「さて、迎えがもう来とるしな。行くぞい」

「はーい」

「いってらっしゃいませ。御師匠様、クロエ様」








 ■ ■ ■


「お初にお目にかかりますクロエ様。私はガーベラス軍に所属しております、シャイターン・ゼルドリックと申します。どうぞゼルとお呼び下さい」

「ほう、お前が来たか。久しぶりじゃのう『解放者』」

「お久しぶりです、フリード卿。その呼び名は今は……」

「なんじゃいかっこつけおって」


 外に出ると、いかにも騎士っぽいお方が待ち構えていた。

 見た目は物語に出て来そうな歴戦の猛者っぽい雰囲気だけど、怖い感じはない。

 ヒゲがよく似合うおっちゃんだった。


「こいつはガーベラス三軍の一つ、外周部隊『銀狼』の隊長じゃ。迎えにわざわざ隊長をよこすとはの。ほっほ」


 猛者っぽいじゃなくて猛者だった。

 なんでそんな人よこすんだよ。なんか不安になっちゃうじゃないのよさ……

 ま、まあ気遣ってくれたんだと思うけどさ。


「よ、よろしくお願いします」


 ペコっと頭を下げると、少し困ったような顔をするゼルドリックさん。


「クロエ様は王族に戻られる身。私のような者に畏まる必要はございません」

「は、はい。あ、別にクロエでいいですよ」

「そういう訳には参りません」


 また少し困ったような顔をして、馬車へどうぞと促された。

 困った顔もかっこいいなこのおっちゃん。なかなかやりおる。


 私と御爺、ユキちゃんも馬車へと乗り込む。

 一瞬不思議そうな顔をされたが、ユキちゃんも私の家族なので、ある意味王族だ。

 

 なんて心の中で言い訳しながら、馬車の中に据えられているソファっぽい椅子へ。

 おお、ふっかふかぁ……流石王族の馬車は違う。

 いやまあ馬車乗るの初めてだけどね。


 ゼルさん含む数名の騎士の方々に囲まれ、いざ出発。

 ガッタンゴットンというイメージだった馬車は予想外に乗り心地が良く、車輪が木材なのに殆ど揺れもなかった。


 ずっと引きこもっていたので、私はまだ全然王都の街並みを見ていない。

 なので王都の雰囲気を見ながらのブラリ馬車と思ってたけど、城内に入るまではカーテンも開けちゃダメって事だった。なんでやねん。

 

 仕方が無いのでユキちゃんの頭を撫でつつ、これからの事をアレコレと考えてみる。


 これから正式に娘と認められれば、私は王族の一員となる。

 それに対し、最初はどうにもメンドクサイ事ばかり思い浮かんでいた。

 よく分からない不安もずっとある。

 でも、そうでない事も色々ある。

 私がこの世に広めようとしているマンガ文化の推進も、王族という身分である事は色々便利な気がするし。


 王国という成り立ちであるこの国で平民というのは、やっぱ色々と制約が出てくると思うのよね。

 御爺が結構ナイスな身分であるのが分かったからあんまり心配ではなかったかもだけど。

 それでも好き勝手にマンガ書いてたら、いつのまにか牢屋に入れられてました!てへっ!なんて事もありえるし、私の前世の記憶にある知識も、好きに放出してたら何があるか分からない。


 でも王族となればその辺はある程度自由に出来そうだし、前世の記憶についても適当に御爺のせいにすればなんとかなりそうじゃない?

 道具の開発だって、かなり楽に進めれそうな気もする。


 そう、マンガを描くに当たり、私は道具関連に大いに不満があるのですよ。

 紙も安くはないし、真っ白ツルツルという物でもない。

 ペンなんて羽根ペンだ。

 見た目はかわいくて気に入ってるが、やはり色々書きにくい。

 

 せめてGペンが欲しい。

 定規もないしスクリントーンもないし、ないない尽くしだ。


 ペンタブなんて私が生きてる間に出来るとは思えない。

 なので、結局そこら辺を充実させていく方が現実的だ。

 印刷機なんかも欲しいなあ。

 ううむ、何から手をつけようかぴら……


「クロエ様、よろしいでしょうか」


 色々と妄想にふけっていた時、不意に声をかけられた。

 いつの間にか馬車が止まっている。

 御爺とユキちゃんはいつの間にか寝ていたみたいだけど、声に反応して起きたようだ。


「は、はい!」

「少し外に出て頂いてよろしいでしょうか」


 何事かと慌てて外に出ようとして、天井に頭をぶつけた。結構痛かった。

 御爺が「クロエ!頭は大丈夫か!?」と心配してくれたが、そのいい方はよくないと思います。

 イテテと呟きながら外へ出る私。

 

その私の眼に飛び込んできたのは、湖の中に建つ巨大なお城だった。


「これが今日からワタクシの物……」

「クロエ、頭大丈夫か?」


 頻りに頭を心配してくれる御爺だが、大丈夫なのでそのいい方はやめてくだしぃ。


「あの城がこのガーベリアスの主城、炎王城です」


 いつのまにか市街を抜けお城の敷地内に入っていたみたいで、城を見せようと気を効かせて止まってくれたようだ。

 そんな気配り上手のゼルさんが、誇らしげにお城を紹介。


 そのゼルさん曰く、ガーベリアス城は一つの城と六つの宮殿で構成されているらしい。

 あの湖に浮かんでるモンサンみたいな城が、主城である炎王城。


 なぜ炎王という名なのか。

 この国のシンボルマークは炎で出来たお花で、国旗のデザインももちろん炎花。

 そのイメージから、この国の王は炎王とも呼ばれている。

 それに合わせ、主城も炎王城と名付けられた。らしい。

 

 普通にガーベラス城とも呼ばれるらしいけどね。

 ちなみに日本でいう日曜日は、この国では火曜日になる。


 そんな炎王城を囲むように、更に六つの宮殿が並んでいるそうだ。

 炎王城以外が全て宮殿なのは、単純に三国同盟以後に建てられた為、城造りにする必要が無かったかららしい。


 なんとなくそれでいいのかって思ってたら、そもそも敷地を囲む城壁が防壁のメインで、そこが破られるような事態になればどっちにしろ終わりじゃしな、と御爺が付け加えてくれた。

 なるほど納得だ。よし、後で城壁にウォールマ〇アと落書きしておこう。


 ゼルさん曰く、本日はその六宮殿のひとつ、影月宮に逗留して頂く事になっていますとの事。

 炎王城にお別れを告げ、私達は目的の宮殿へと向かった。











 ■ ■ ■


「見えて来たな。あそこが影月宮じゃ」


 しばらくかっぽかっぽと進むと、炎王城程ではないけどでっかい宮殿?が見えて来た。

 これが主城っていっても信じるレベルででかい。


 そしてその入口には執事っぽい人とメイドっぽい人達がズラリ。

 降りる前から既にOZIGI待機なんですけど。

 そういうの、どうしていいか分かんないんですけど。

 おそるおそる馬車から降りる。


「「「お帰りなさいませ。クロエ様」」」


 その迫力にビビり、思わず御爺の後ろに隠れる。

 まずは三人くらいからで慣らしていきたい所存であります……!


「ふぉっふぉ、まだクロエはそういうのに慣れておらんでな。あまり仰々しくせんでやってくれんか?」

「あの、出来れば夏休みに遊びに来た孫くらいの扱いでお願いします……」


 私のビビリを悟った御爺がフナイスフォローを入れてくれた。

 便乗して希望を出すと、真ん中のボスっぽいじっちゃんがぶほっと噴き出してプルプルしはじめた。

 なんか持病でもあるんだろうか。


 全員頭を上げてもらい、よろしくお願いしますとご挨拶。

 なんか真ん中のじっちゃんが、いかにもセバスって感じだ。

 きっと名前もセバスに違いない。

 ううん、知らないけど絶対そう!


「よろしくお願い致しますクロエ様。ではひとまず一人、専属の者をお付け致します。なんなりとご用命下さい。申し遅れましたが、私は執事長を拝命しております、セバルと申します」

「よろしくお願いします。セバスさん」

「セバルです」


 ものすごい惜しかった。

 強引にセバスにしてしまおうとしたが失敗。

 心の中で密かにセバスと呼ぶ事にしよう。


 待機していたゼルさん達にお礼を言ってお別れ。

 他の人も仕事に戻ってもらい、執事長のセバスさんに宮殿の中を案内してもらった。

 宮殿内の簡単な説明を挟みながら、用意されていた二階の部屋へ。

 かなり大きいバルコニーが付いた、豪奢だけど落ち着いた感じのお部屋だ。

 でもいちいち色んな物が高そうで、ちょっと怖い。


 前世でも利用した事のない、超高級ホテルって感じ。

 これもし王女って認められなかったら、宿泊料とか取られるんだろか……


「では、専属の者にお茶を運ばせます。ごゆるりとお過ごし下さい」

「は、はい!」


 ごゆるりと言われても、全然落ち着ける気がしない。

 もっとカッペ娘に優しい部屋にして欲しい。

 ぶっちゃけ既にホームシックだ。

 森に帰りたいよう……


 ……いや、そんな事ではいけないわクロエ!

 ここはホテル!私は今、町内会の抽選会で当たった高級ホテルにご招待なのよ!

 ほら!アメニティも素晴らしいワ!

 あの小鳥の置物とかマジいいな。


「御爺、これパクって帰っていいかな?」

「やめんか。欲しけりゃまた買っちゃるわい」


 む、御爺は分かって無いな。

 こういうアメニティはパクって帰るのがいいんじゃないか。

 アメニティというのかどうかは考えてはいけない。


「どうぞ、お持ちください」


 高級ホテルと思い込み、じゃあアメニティパクって帰ろうって結論に達した私。

 そこにかかった不意の声。

 振り返ったら、いつの間にかメイドさんがお茶を持ってきてくれていた。

 そのメイドさんの眼からほとばしる冷気がヤバイ。

 私の本能が囁いている、逆らってはいけないと……!


「あ、だいじょぶっす」


 ポケットに入れようとした置物を元に戻し、大人しく腰掛ける。

 あんな冷たい眼をするメイドさんはどうかと思うの。

 一応王女(仮)なんだぞこっちは!


 しかし業界ではああいうのはご褒美っていうけど、私にはわからん世界だ。

 なんであんなメイドさんがいるんだろ……

 あ、監視役なのか……?

 まあまだ王女(仮)だしね!


 そんな中、御爺は我関せずで煎餅みたいなお菓子をポリってた。

 おいおいジャイさん、スネがピンチですよ?


「あの、ごめんなさい……」

「……すいません、何の事か分かりかねるのですが」

「おいミト、クロエはお前さんの目つきにビビっとるだけじゃ」


 御爺!直球過ぎるでしょう!?

 ってかこの人とも知り合いなの?顔広すぎない?


「申し訳ございません。この目つきは生まれつきでございまして」

「クロエはクマ程度でビビリ倒すくらいじゃからなあ。まあすぐに慣れるじゃろ」


 クマにびびるのは普通だと思いますー!

 なんなの、クマにびびらないの?普通の人って。

 普通怖いよね?

 取りあえず無言で御爺の隣に座り、お茶を飲む。

 あ、ちゃんとあったかい。


「改めまして、本日よりクロエ様のお世話をさせて頂く事になりました、ミトと申します。どうぞなんなりと御申し付けを」


 お茶を淹れ終わった後、彼女はそう自分を紹介し、丁寧にお辞儀をしてくれた。

 うーん完璧なOZIGIだ。

 

 ……しかし考えてみれば、彼女も私達と同じ悩みを抱えてる訳ですよ。

 つまり、私達は同士なのだ。それを怖がるとか、失礼な話だよね!

 まあ怖がられる理由がちょっと分かったけど。

 

 ん?っていうか、もしかしてミトさんのも魔眼なの?


「もしかしてミトさんて『冷気の魔眼』とかそういう感じですか?」

「いえ、目つきが悪いだけです」

「ごめんなさい……」


 違ったぜ……!

 怒ってはなさそうだけどちょっと気まずい。

 そして後ろで大笑いしている御爺がうざい。

 うぐぐ、なんか話題は……


「あ、この後の予定とかはどうなってるんでしょうか?」

「はい。クロエ様は明日、コステロ・マイヤー法務大臣と事件について会見して頂く予定となっております。その後、謁見の準備が整い次第……」

「失礼致す!」


 ミトさんの言葉を遮って、なんか丸い感じのハゲたおっちゃんが飛び込んできた。

 なんかお偉いさんの雰囲気ですね……?


「なんじゃ?話は明日じゃろ?」

「すまぬフリード卿。ちと急な案件が出来てしまいましてな」


 御爺に疑問の眼を向けると、御爺が「ああ」と呟き、教えてくれた。


「こやつが今言っとった法務大臣、コステロじゃ」

「マジで」


 大臣が急な案件で飛び込んできた。

 イヤな予感しかしないんですけど。

 森に帰りたいよう……





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