第十話「認可の授与と、クロエの気持ち」
第一章の完結となります
認可式の日がやってきた。
式を行う場所は、教会の大聖堂らしい。
認可式というのは基本教会でやるらしく、私もこれ幸いと仮のおうちで認可式だ。
普通はその年に認可を受けた人と、その家族や家族の親類友人等、大勢で行われるらしい。
教会関係者もズラっと並ぶんだとか。
卒業式って感じだね、まさに。
私は特殊な事情もあり、尚且つ急な式となったので、参加者は私と御爺とリティカさんとユキちゃんだけ。
ほんとは教会の他の人も数人は出れるらしかったが、どうせなら知ってる者だけで気楽にやろうって話になったらしい。
私もその方が気楽だ。
流石御爺はよく分かっていらっしゃる。
「では、行くぞい」
「うん!」
御爺に手を引かれ、大聖堂へ。
本日はクロエご一行の貸し切りだ。
素晴らしいレリーフが刻まれたドアをくぐると、まず目に入るのは三体の神像。
三つの教会に分かれていても、神像は三体共並べて祀るらしい。
違いは、中央に来るのがそれぞれの教会の主神という所。
この教会は勿論白神様だ。
美しく慈愛に満ちた女神、白神様。
獅子のような風貌の雄々しき男神、獣神様。
額から立派な角が生えた、悪魔か鬼かという恐ろしい風貌の男神、魔人様。
色々妄想が捗りそうな神様達である。
そういえばこの世界の神話ってどんな感じなんだろうか。
まあ神話ってめちゃくちゃなのが多いからアレだけど。
そんな三神像の下には、一人の美しき司祭様。
まあリティカさんなんだけど。
凛とした表情で祭壇の前に立っており、非常にかっこいい。
室内は荘厳で、私は今まで経験した事のない、不思議な興奮を覚えた。
中央まで進み、一礼。
「魔眼を授けられし神の子、クロエ。本日めでたく認可の日を迎えられた事、大変嬉しく思います」
「ありがとうござまいす」
変な噛み方をしたけど、リティカさんの顔はぴくりとも動揺しなかった。
私の顔がまっかになっただけだ。さすが司祭様。
「魔眼は正義と平和の為にあり。人々の為にその力を行使し、決してその力を悪用なさらぬよう。白神様はいつも見ていらっしゃいます」
「神より授けられしこの力。世の為に役立てる事、ここに誓います」
「確かに聞き届けました。では魔眼士の証を授けます。前へ」
渡されたのは、魔眼の認可状と、精巧なレリーフが刻まれたペンダント。
これは魔眼士の証であると共に、魔眼に関する魔力制御を補助、増幅してくれる物らしい。
売れば数年は遊んで暮らせるレベルの品らしい。
売ったら数日で人生を強制終了させられてしまうらしいけど。
教会ってやっぱ怖い。
「さてクロエ様。この後は本来司教様や色んな方の演説や訓辞等がありますが、今日はありません。なので終ってもよいのですが……代わりにひとつ、講義をさせて頂きます」
「講義?ですか?」
あれか、免許取った後にやらされる眠い感じの。
あれはほんときつかったなぁ……
「既に魔眼の事について色々学ばれておられると思いますが、伝えていない事もまだまだあるようなのです。御師匠様は今は不要と断じたようですが、私は今知っておくべき事のように思いました。それは御師匠様にも許可を得ております」
「伝えられてない事、ですか?」
御爺の方を見ると、なんともいえない渋い顔で頷かれた。
言いにくい事なんだろうか。
使い過ぎると暴走して常時発動しちゃって、愛する人に「日〇人を殺せ」とか言っちゃう……
まあここに〇本人はいないけど。
「取りあえず、場所を変えましょうか。後五分で延長料金取られちゃいますし」
「カラオケかよ!」
■ ■ ■
「さてクロエ様。魔眼という物の種類について、ご存知ですか?」
「種類?」
「はい。一般的に、魔眼と言えばクロエ様や御師匠様の持つ『命令の魔眼』を指しますが、他にも少数ではありますが、色々な種類の魔眼を持つ方がいらっしゃいます」
「あ、そういえば他にもあるって聞いたような……」
「今日はその、他の魔眼についてのお話です」
「おお、はい!」
これは楽しい講義になりそう。
そういえば御爺にまた今度なと言われたまま、聞いてなかったお話だ。
お預けにするなら、ついでにおでこをツンとして欲しかった。
「そも、魔眼というのは『眼になんらかの能力を宿した者』の総称になります。一般的ではありませんが、クロエ様の魔眼は命令の魔眼と識別されています。現在おそらく最も多い魔眼ですね」
「おそらく?」
「未だ魔眼を持っているという事を隠して生きている者も多いのです。まあ魔眼をお持ちの方は、それが発現していなくとも何からの証が目に現れるので、そう隠せる物ではありませんけどね」
私と御爺が持ってる金ぴかのおめめも、命令の魔眼を持つ人にしかない色って言ってたしね。
色以外にもあるんだろうか。
写〇眼みたいなのがあるのかもしれない。
オラワクワクしてきたぞ!
「例えば、数年前に『石化の魔眼』を得た子がいたそうです」
「おお!」
「報告があり、その子の住む村に駆け付けた時には、既に殺されていました」
「おぉ……」
「件数が少なく、なるべく迅速に対処している事もあってあまり一般には知られていませんが、魔眼を持った為にこういった目に遭われたという方は少なくありません。そして、そういった事はやはり少ないですが、噂になります」
まあ人の口に戸は立てられぬっていうしね。
娯楽の少ない所ほど、噂話というのは楽しい娯楽なのだ。
「勿論保護された方も多くいらっしゃいます。そういった方々はきちんと訓練され、手厚い加護の元で色んな方面で活躍されているのですよ。例えば……」
漆黒の魔眼。
魅了の魔眼。
猫の魔眼。
衝撃の魔眼。
他にも色んな魔眼があるらしい。
それぞれの数が少なすぎる為に能力の概要や対策、有効利用法等はまだまだ研究中である物も多いらしいけど、保護された人たちは皆元気に過ごしているそうだ、教会の中で。
彼ら彼女らは、その殆どを教会の敷地の中で一生を終えるそうだ。
強制しているのではない。
彼ら彼女らが望み、そうなるのだ。
「クロエ様、これから先、魔眼を持っているという事でいやな目に合う事もあるでしょう。これは魔眼を持つ全ての人に起こりうる試練です。ですので、魔眼を持っている者はお互いにその事を心に留め、助け合っていくのです」
「はい」
「更にクロエ様は王族という立場となられるでしょう。それにより、苦労は他の者よりも多くなるかもしれません。そうではないかもしれません。ですが、一つ確かな事があります」
「それは、なんでしょうか」
「それは、他の魔眼を持つ人々にとって希望の一つになる、という事です」
「希望……ですか」
「今日はその事をお伝えしたく、講義という形で話をさせて頂きました。過保護な御師匠ではなかなか言えない事も含まれていましたし」
「お前は色々大袈裟に言いすぎじゃわい!」
「……色々聞かせて頂き、ありがとうございました」
「こちらこそ、差し出がましい話で申し訳ございませんでした」
■ ■ ■
お話も終わり、私は御爺と二人でお茶を飲んでいた。
私はお茶を楽しみながらも、先ほどの事をずっと考えていた。
他の種類の魔眼の話。
確かにチラっとだけは聞いていた。
楽しそうに「また教えちゃるわい」と言われ、楽しみにしていた話だった。
聞かせてもらった他の魔眼の話は、心躍る物があった。
でも、聞きたくなかった。
一体リティカさんは私の何を心配したのか。
一体リティカさんは私に何を期待したのか。
やっぱり身分というのは、メンドクサイ物ばっかりだ。
「クロエ」
「何?御爺」
「気にするなよ?あんな事」
「え?」
「確かにの、まだまだ魔眼に関しては色々あるわい。それはいずれ知らにゃならん事ではあったし、王族になるこのタイミングで知るのも良いかもしれんとは思ったがのぉ……じゃが、そりゃ知っとくだけでいいんじゃ。王族だからどうのなんぞ、そんなのは他人の勝手な押し付けよ」
「うん……」
「そんな事はまあ心の隅に置いといての。楽しくやりゃあええ。いやになりゃ逃げりゃええ」
「うん」
「所詮は他人よ。大切な人だけ大切にすりゃあええ。それが出来りゃ、それだけで花マルじゃわい」
「うん。ありがとう御爺」
……きっと人は自分と、そして大切な人を気にするだけで精いっぱいだ。
私だって、御爺とユキちゃんの事……後一応ミルカの事を気にするだけで精いっぱいだ。
ならば、まずはこの三人をしっかりと気にしよう。
私は多分王族になるのだろう。
王族だからこそやれる事も、あるだろう。
だから、いやな気分にもなったけど、めんどくさいとも思ったけど、悪い事ばかりじゃない。
私の心に少しの変化と決意が宿った数日後、私は王城へ入った。
御爺と、ユキちゃんと、小さな決意と共に。
19時に昔話「ギベルの悩み」を投稿予定
明日から二章開始です