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プロローグ「魔眼を宿した少女」

8/10 大幅改稿しました



 聖海に浮かぶ大陸の一つ、三神大陸。

 その大陸にある国の一つ、ガーベラス王国。

 その王国の第二都市、副都とも呼ばれる街、ガルナ。


 その街の外れに、ガルナの森と呼ばれる、広大な森があった。

 危険な獣が多数跋扈しており、別名『帰らずの森』と呼ばれる危険な森。


 そんな危険な森の奥に居を構える、クレイジーな一家がいた。


「……よし、完璧!」


 得意げな声を上げたのは、そんな一家の一員、クロエ。

 世界的にも珍しい、『魔眼』を持った少女。


 その瞳は黄金に輝く美しい物であったが、同時に恐れられる存在でもあった。

 少女の見た目は華奢で可愛らしく、恐ろしさとは無縁であったが。


「わふっ?」

「おっとユキちゃん、これはまだアツアツだから待ってね。御爺ー!ご飯出来たよー!」


 わふっと声を上げたのは、この森にも棲息する狼、ブロンコハイドウルフのユキ。

 森の頂点に近い戦闘能力を持ちながらも気性は穏やかで、今はこのフリード家のペットをしている。

 主な仕事は食って寝て遊ぶ事。

 いわゆるニートである。


 ユキは狼のくせに猫舌なので、別皿にユキ用に盛った肉と骨がたっぷり入ったご飯を、クロエはうちわであおいで冷ます。

 ユキは床ドンしながらそれを待っていた。


「おお、待ちわびたぞい……ぬっ!」


 ぬっ!とどこかに行きそうな声を上げた、一家の最後の一人。

 御爺と呼ばれるこの老人の名は、ギベル・フリード。


 クロエと同じくその眼に魔眼を宿し、更に世界的に有名な『七鍵の守護者』の一人、『闇鍵の守護者』である。

 七鍵とは世界の中心、三神聖教国の奥に眠る魔王を封印した七つの鍵であり、代々世界でその属性を扱う魔術師の頂点に立つ人物に受け継がれている。


 だがクロエは信じておらず、骨とう品をネックレスにし、そういう設定にして偉そうにしたいだけだろうと思っている。

 老人というのはそういうものだと考える、失礼な孫であった。


 そんな事よりも、老人の反応が気になったクロエ。


「ぬっ?って何よ」

「……クロエ、実は儂は持病があっての。その名も『スープを飲むとハゲる病』という恐ろしい」

「今度のは大丈夫だから!あともうハゲてるから!」

「ハゲとらん!おでこがたまたま広いだけじゃ!!」


 実はクロエが作っていたのは、去年さんざん作っては失敗したといういわく付きの謎スープ。

 その香りで、老人の過去の忌まわしき記憶が蘇ったらしい。


 だが少女は、男性が最も言われたくない言葉を混ぜつつも大丈夫と連呼する。 


「大丈夫!今年の私とこのスープは、一味違うのです!」

「魔眼の制御は去年から一向に出来とらんがの」

「そうだね。じゃあ御爺のお昼はパンとお水にしよう」

「いや、大分出来てきとるがの!」


 流石にパンと水のみはいやだったのか、お世辞を述べつつ、いそいそとテーブルにつくギベル。

 クロエは料理の邪魔だと束ね上げていた銀髪を下ろし、鍋をテーブルへと運ぶ。

 真ん中にドスンと鍋を置き、手際よくパンとスープをテーブルに並べ、ユキのご飯もテーブル近くへ置いた。

 そして全員席につくと、神に雑なお祈りをしつつ食事が始まった。


「どーお?」

「……うむ、うまいの。じいちゃん反省」

「でしょ!」


 よしっ!と軽くガッツポーズするクロエ。

 メインの味付けにギリム草の粉を使ったのが大正解だったらしい。これは新たなフリード家の定番になる予感ですぞー。と顔をニヤけさせる。


 食事中もクロエはお喋りが好きで、色々な事を喋る。

 そして話題は、午後の習い事に及んだ。


 習い事の先生はギベルが務めている。

 こんな危険すぎる森に勉強を教えに来てくれる人など、いる筈も無い。

 だが長年積み重ねた知識と、闇鍵の守護者に相応しい魔術の実力を持つギベル。

 彼以上の教師は、たとえ王都から呼べたとしても、見つける事は困難であっただろう。


「今日の午後は魔眼の練習と……なんだっけ?」

「午前中にやった土魔術がいまいちだったでな。ちょっと予定変更でおさらいじゃ」

「えー土は苦手だよぉ」

「諦めて精進せぃ」


 流石に一日中家にいて生活出来る訳もなく、ギベルはちょこちょことご飯を稼ぎに外へ出る。

 なので大体は半日か、ギベルが忙しければ一日お休みである。

 だが今日は一日家にいれるらしく、習い事も一日みっちり予定を立てられた。


「今日は御爺がずっと家にいるから、嬉しいよほんと」

「じゃあ期待に応えていっぱい教えてやらんとの」

「分かってていってるでしょ!」


 そうはいいつつも、ギベルが一日いるのが嬉しいクロエ。

 一日やるといっても休憩は多いし、疲れたら授業といいながらも本を読み聞かせたりと、クロエには甘いおじいちゃんなのだ。


「よし、準備が終わったら早速やるぞい」

「はーい」


 準備とはいっても、魔眼の練習は家で座ってても出来るし、特に道具なども必要ない。

 準備する物は、二人のお茶とお菓子である。

 習った事の復習がてらに魔術でお湯を沸かし、お茶とお菓子をテーブルに運んだら早速練習の開始だ。


「ふぬぬ……ハゲて!」

「よーしゲンコツじゃの」

「孫の冗談を本気にとる御爺ってー。いやほんとただの冗談……ほぎゃ!」


 ぱたりと机に倒れるクロエと、それを冷ややかに見つめるギベル。

 授業に関しては厳しいのと、ハゲを連発するクロエにいささかイラついたゆえの結果であった。


 因みに彼のゲンコツは魔術を応用した特殊なゲンコツで、痛みはそこまででもない代わりに痛みの持続時間が長い。更に普通の治癒魔術では治せないという、恐ろしいゲンコツであった。


「御爺……ただのゲンコツにがんばりすぎぃ……」


 仕方ないのう、と専用魔術で痛みを飛ばすギベル。

 そのままでは授業が進まないので、仕方なくである。


「んじゃ今度は真面目にの。おふざけはここまでじゃ」

「はあい。ふぬぬ……」


 魔眼の発動感覚は、使った者にしか分からないという。

 なのでギベルも、これに関しては上手く教える事が出来ないでいた。

 教えた事は、眼に己の魔力を集め、対象の眼を見ながら念ずるという事だけ。


 クロエはそれを去年から、毎日やっている。

 それでも未だ、発動させた事はない。


 クロエは考える。

 たまたま目の色が魔眼に見えるだけで、本当は使えないのでは、と。

 それでも祖父の期待に応えたい、私も祖父と同じ魔眼持ちでありたいという願いで、愚直に練習した。


「『右手を上げて』!」


 眼に魔力を送り込むイメージをしながら、声を発し、念じる。

 眼のはしに映る、ギベルの右手は動かない。


 だが、動かないという事にクロエは疑問を持った。

 いつもはこちらの努力を笑うように、煎餅を取ったり口に運んだりと忙しいギベルの右手。


 その手はしばらく動かず、少し震え、そしてゆっくりと上へ上げられた。


「……クロエ、やったの!」

「ほ、ほんと!?嘘じゃない!?」

「儂は魔術については嘘はつかん!」


 がばっと立ち上がり、両手を広げるギベル。

 ユキに抱きつくクロエ。


「ここは儂に抱きつくとこじゃろ……」

「分かってるよ!」


 クロエなりの照れ隠しだ。

 ユキを離し、今度はちゃんとギベルに抱きついた。

 よしよしと頭をなでるギベル。

 彼もとても嬉しそうにしていた。

 事案は発生していない。


「今日はお祝いだね!午後の授業中止!」


 練習を始めてもう一年、とうとう魔眼の発動に成功したのだ。

 どさくさに授業の中止を迫るクロエに、ギベルは笑って頷いた。


「ふむ、まあええわい。じゃあちとお祝いになんか狩ってきちゃろうか」

「買ってきてくれればいいからっ!」


 たまにギベルは外からの帰りに、ご飯の材料といいながら動物を狩ってくる。

 そのおおまかな処理は彼がやるが、細かい加工は魔術の練習もかね、クロエにやらせている。

 クロエはそれが結構苦手であった。


「今日はまだ材料いっぱいあるし、適当におつまみ作るよ」

「すまんの。すっかり任せっきりになってしもうたのう」

「いいのいいの。座ってて~」


 クロエが幼い頃は当然ギベルがご飯を作っていたが、今ではすっかりクロエが担当するようになった。

 クロエも自分で作る方が楽しいしおいしいのと思っているで、問題はない。


 一年がかりの成功にうかれ、足取り軽く台所へと向かったクロエ。

 その途中、何かの違和感を感じ、立ち止まった。


「あれ?」


 熱かな?そんな風に考え、頭を振る。

 その直後、少女の頭の中に何かが広がった。


「クロエ?」


 突然の出来事に反応出来ないクロエ。

 突然飛び込んできた、()()()()()()()()に戸惑い、怯えるだけで精一杯だった。


「クロエ!?どうしたんじゃ!!」


 異変に気付き、駆け寄るギベル。

 そんなギベルにも反応出来ず、クロエは床にぱたりと倒れ、気を失った。



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