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見覚えがあった。
かつてわたしに術をかけた者が、コレと同じ物を身に付けていたのだ。
思い出そうとしている時、わたしの携帯電話が震えた。
着信は見知らぬ番号から。
でもこれは―偶然じゃないだろう。
「…もしもし?」
『久し振りだね。無事だったかい?』
柔らかな男性の声に、胸の中に熱く黒い感情が渦巻く。
「やっぱりあなたの仕業でしたか、師匠」
かつてわたしはこの声の主に、魔術を教えてもらった。
―だが結局、わたしは彼にとって実験動物の一つでしかなかったことに気付き、彼とは決別したのだ。
『偶然、と言ったら信じてくれるかい?』
「いえ。絶対にわたしの同級生だと知って、半端な術本を与えたのでしょう? 小遣い稼ぎにしては悪趣味ですね」
術の恐ろしさを知らない人間に売りつけるなんて、普通の魔女や魔術師なら有り得ない。
けれどわたしをこんな体にした張本人ならありえてしまうのだから、タチが悪過ぎる。
『アハハ。やっぱりお前には見抜かれてしまうね。…久しぶりに会いたいよ』
「激しく遠慮させていただきます」
『つれないねぇ。お前は数百年前と変わらず、美しい少女の姿なんだろうね』
「……そういうふうにしたのは、あなたでしょう?」
嫌悪もあらわに言うが、電話の向こうの相手は相変わらずの軽い調子のまま。
『だって私はお前の姿を愛しているから。だからこそ時を止め、守る術をかけたと言うのに…。私の愛を理解してくれないなんて、師匠として悲しいよ』
中身ではなく、外見のみとハッキリと言うのだから、男としても最低なヤツだ。
「…ああ、そうですか。とにかくわたしはもう二度と、師匠と会うつもりはありませんので。お元気で」
そして通話を切った。
これ以上話していると、こっちが精神的にダメージを食らうだけで損だ。
「さて、と…」
どうやら師匠に居場所がバレているようだし、もうここにはいられないな。
「やれやれ。いつまでこの逃亡劇は続くんだか…」
けれどどこに逃げてもきっと、師匠はわたしを見つけるのだろう。
そして彼女のような『魔女』か『魔術師』を作り出すのかもしれない。
それが分かっていて、わたしは人間の中に逃げ込むのだから……。
「性格の悪さは、師匠譲り、か…」
強い雨が降り続く中、わたしは苦笑した。
【終わり】




