本物の魔女
ゴロッ ゴロゴロッ…!
雷の音がどんどん大きくなり、鼓膜だけじゃなく体にもその振動が伝わってくる。
「まっ、これ以上あなたがどうしようがわたしには関係ない。もう二度と、わたしに関わってこない方が身の為よ」
「っ! 逃がさない…!」
恐ろしく低い声で呟いた後、彼女の口から呪いの言葉が紡がれる。
言葉は黒いモヤとなり、彼女の体を包み込んでいく。
その様子を、わたしは冷ややかな眼差しで見つめる。
「―警告はしたわよ」
「黙れっ!」
彼女が叫ぶと同時に、黒いモヤは大蛇となり、わたしに襲いかかってきた。
だが……。
ゴロゴロッ ドカーーーンッ!
「…かはっ」
落雷が、彼女の体に落ちた。
それと同時に大蛇は消滅し、黒焦げとなった体は地面に崩れ落ちる。
その上に、ポツポツ…と雨が降り注ぎはじめた。
「傘、持ってきて良かった」
わたしはカバンから折りたたみ傘を取り出し、さした。
雨は勢いを増し、周囲の光景すら見えなくしていく。
「そのロザリオ、逆凪を防いでくれる物じゃなくて、術を使う者の力を強くする物なの。そしてあなたがそういう眼に合ったのは、わたしが本物の『魔女』だからよ」
本物だからこそ、低級なモノは寄って来れない。
ゆえに交霊術も心霊スポットも、わたしは無意味にしてしまうのだ。
わたしの意思に関係なく、身を守る為の術は発動してしまう。
そしてその対価は…不老。
発動する度に、わたしの成長は止まってしまう。
もうすでに百年以上、この姿でわたしは生きていた。
「自分でかけた術じゃないだけに、忌まわしいことこの上ないわね」
そう言いながら、彼女の元へ歩く。
そして砕け散ったロザリオを見た。
「この十字架は……やはり」




