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「勝手なこと、言わないで! じゃあテストに出る問題を当てたって言うのは? あたしが問題用紙を盗み見たとでも言うの?」
「テスト範囲なんて前もって先生達から教えられるし。過去問や担当の先生の出題傾向を考えれば、外れることの方が珍しいわよ」
そこまで言って、わたしは肩を鳴らした。
あんまり長く話すの、得意じゃないしな。
しかし目の前の彼女は歯を食いしばり、わたしを鬼のような形相で睨み付けている。
握り締めている拳も白く震えているし、激昂しているな。
「怒りを買うのを承知でもう一つ。呪いをどこで学んだか知らないけど、逆凪という言葉を知っている?」
「さか…なぎ?」
ふと彼女の表情が緩んだ。
はじめて聞く言葉なんだろうな。
「呪術者が呪いや術を使った後、必ず使用者に返ってくる災いのことを言うの。それは本に載っていなかった?」
「しっ知らないわよ! そんなこと!」
「あっ、そう。それでも人を不幸にする術や、また探し物を当てる術…これはまあ盗みとの半分ずつだったんでしょうけど、使用していたのよね? そろそろそのツケ、払う時なんじゃない?」
術というものは一日にそんなに多く使えるものじゃない。
特に人間にかけるものであれば、一日一度が限度。
ゆえに学校内での紛失の件や、テスト問題の予想は自力でしていたんだろう。
そこまで彼女の力は強くないから―。
「そんなこと言って脅かしているつもり? あたしにはコレがあるから大丈夫なのよ!」
そう言って彼女は自分の胸元を開いて見せる。
細く白い首にはロザリオがあった。
黒い数珠でつながれたその先の十字架は黒く、赤い蛇が絡み付いている。
…とてもじゃないが、教徒が身に付ける物ではない。
わたしは顔を歪め、低い声で問いかける。
「…それ、術が書かれていた本と共に付いてきたの?」
「ええ、そうよ。ネットショップで購入したの。はじめは本物だとはあたしも思わなかった。けれど本の通りにしたら、術が使えるようになったの!」
彼女は眼を輝かせ、不気味なぐらい明るい調子で語る。
自分が『魔女』になったと思い、すっかり陶酔気分のようだ。
「それまであたしのことを『影が薄い』だの『空気』だの言っていたヤツらも、あたしの機嫌を窺うようになった! あたしは『特別』になれたのよ!」
「―くっだらない」
わたしは眉をしかめ、言い捨てた。
「一時は栄光に満ちた日々を送れるでしょう。でも今は? 落ち始めていることに気付いたから、そんなに慌てているのよね?」
彼女の口元が、ひくっと動く。
それに続き、目元や頬までも痙攣を起こす。
―高く積み上げたプライドが砕かれているのを感じているのだ。
「価値観の違いってヤツかしらね。わたしは『特別』が偉いことだなんて、一度たりとも思ったことはない。逆に『普通』であることこそが、誇れることだと思っているから」
「『普通』の方がくだらないじゃない!」
「『特別』であればその分、失うモノも『普通』とは違うってこと、分かっていないでしょう?」
「何をっ…!」




