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 授業が終わるころにはもう日が暮れていて、真っ黒な遮光カーテンの間からは淡い紫色の光が漏れていた。

「やー、よく寝た」

「授業中寝るのって、なんでこんなに気持ちいんだろう」

「ね、わかる。ほんとそれ」

 むらさきさんを間に挟んで二人でそう言っていると、馬鹿がいると言わんばかりの冷たい目がこちらへと向けられた。

「じゃ、私帰るから」

 そう言いながら、機能性重視の女子大生らしくないリュックを背負って席を立つ。

「ちょ、待ってよ、ひなこ。三人でごはん行こうよ」

「ごめん、ごはん炊いてきたから。じゃ、また明日」

 篠原・むらさき・ひなこ氏はそう言って出席カードを提出すると、風のように去っていった。なんというフットワークの軽さだろう。

「いやあ、フラれちゃったねえ」

「ですねえ」

「ねえ、水上君は暇? ごはん行かない? ひなこのこと教えてよ」

 あまり迂闊に話すとあとでひどいことになりそうだ。まあ特に何か知っているというわけでもないが。うーん、寝ている間に忘れてくれればよかったのに。

「いいよ。いこいこ」

 僕は何も考えていない笑顔で、そう言う。

 女の子と二人でごはんなど、そういえば何年ぶりだろう。いや、もちろん加奈さん以外の女性と、という意味だが。

 大学生がよく行くのであろう、近くの定食屋さんに入った。

 値段の割に量が多い。奢らせようと思っているわけではないらしい。

 まあ当たり前か。僕らはただの大学生だ。お高いフレンチレストランでワインを飲んだりはしないし、男が奢るのが当然という文化も前時代的なのだ。

 ビールで乾杯した。彼女はぐびぐびとお酒をあおった。その飲みっぷりは、女子大生らしくはなかったが好印象だった。

「いやあ、寝起きの一杯は格別だね」

「ふふふ、だね」

「で、ひなことはどういう知り合い? むらさきってあだ名なんだよね?」

 さっさとお酒がまわってほしいと思ったが、どうやら彼女は強い方らしい。もちろん僕がそんなチャラ男らしい考えを働かせているのは下心からではなく、ややこしい話を避けたいという思いからだ。

「さっき言ってた通り、飲んでたときにちょっと話したってだけだよ。ねえ、じゃあ近藤さんは篠原さんとどんな知り合いなの?」

「私は、クラスが一緒で文化祭の準備とかで何となく仲良くなった感じ」

「へー、なんか二人ってあんまり仲よくしそうなタイプに見えないのに」

「そうかもね。普段も私がわーって話して、あの子が聞いてるだけだし。あと、休んだ授業のノート借りたり、テストででそうなとこ教えてもらったり、代わりに出席カード出してもらったり。まあ授業で会うとき以外は別に連絡とったりしないし、どっか遊びに行くわけでもないし」

 なるほど。大学生はそういう友情もあるのか。

 さばさばした性格の彼女は一緒にいて疲れなかったし、楽しかった。きっとむらさき氏も彼女のこういうところが好きで一緒にいるのだろう。

 刺身定食ととんかつ定食を二人が食べきるまでの時間は、あっという間に感じた。体感時間はどうあれ、フレンチのフルコースを食べる時間よりも短いのは間違いない。

 近藤さんと別れ、帰り道を一人歩いていく。

 女性と二人の食事だったが、加奈さんと一緒にいった高級そうなレストランとは似ても似つかない食事だった。

 上手にフォークとナイフを使う必要もなければ、食べるスピードを気にする必要もない。いろんなことを考えず、ただ目の前の人と会話を楽しむ食事というのも、久しぶりだった。

 この季節の夜風は気持ちいい。

思い出すとつらい思い出も、すっと風が運んでくれるようだった。


 翌日、僕は数年ぶりに喧嘩をした。

 まったく。普通の大学生という奴はめんどくさいことこの上ない。


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