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第八章 筑波 善財 その二

挿絵(By みてみん)




「筑波!!私のうちに来るといいぞ!!お前の話を聞かせてくれ!!」




 なんの気まぐれか知らねーが大歳先輩から連絡があった。

 それで俺は珍しく大歳先輩の家を訪れていた。


 大歳先輩は滅多に人を呼ばない、その上滅多に家を出ない。

 どうやって商売やってんだとは思うがそれを聞くと文明の利器とだけ答えてくる。




 俺ははっきりいって大歳先輩が苦手だ。




 中学からの付き合いだし、確かにあの人は便利な道具を提供してくれる。

 ネットにずっと張り付きっぱなしだから仕事絡みの情報網があり、警察の目をごまかすための情報もくれる。




 ただあの人は性格がネジ曲がりすぎている。




 俺も大概社会のルールとやらを軽視しているが、あの人はルール以前に趣向がおかしい。

 重度のミリタリーマニアで兵器とやらに詳しくてエアガンの違法カスタムをするだけなら一般人だ、だがあの人がおかしいのはそこではない。




 極度の声フェチなのだ、それも猟奇的な。




 好きな声の主が引っ越したからって自分も引っ越す馬鹿を俺は大歳先輩以外知らない。

 寧ろ知りたくない。

 けれどあの人の異常な性癖はそんなものではすまない。




 中学の時のことだ。

 あの人は合唱部の女子に恋をした。

 なんで俺が知ってんのかって学校中で噂になったからだ。

 あの人は当時放送部だったにも関わらず合唱部の練習に参加するようになった。

 発声練習がしたいって口実で近づいたそうだ。


 ただ練習に参加しているうちはよかったんだが段々とおかしくなっていった。


 大きな大会を前にして部員が次第に不調を訴えるようになった。

 原因は食中毒だったらしい。

 集団食中毒と言うことで学校の給食に調査が入ったが原因となるような菌は検出されなかったそうだ。


 結果として数名が体調を崩したまま合唱部は大会に出場し、なんとかそこそこの結果をだしたらしい。




 大歳先輩を知らないやつはここまでしか知らないが俺はやつが何をしたかを知っている。




 合唱部で使っていた大型の水筒、まぁウォーターサーバーみたいなあれだ。

 あの人はあれに部員の目を盗んで日夜カビを仕込んでいた。

 精々水洗いする程度でたいして綺麗に扱われていなかったことを知った上でだ。カビはわざわざ仕込むために自宅で培養したらしい。

 あの人は日々病原菌を撒き続けるために練習に参加していたんだ。


 それが例えば復讐のためとかならまだわかるんだがやつの動機は違う。


 近くで自分の好きなやつが苦しむ声を聞くためだった。


 やつは健気にも、自分で病原菌を撒き散らしながら、大会まで頑張ろうと部員を鼓舞していたらしい。

 ぶっちゃけ胸糞悪い野郎だが俺はそれとは別にあの人に恩がある。

 その話をすると長くなるからまた今度だ。




 とにかく俺は今日大歳先輩の家を訪ねた。




***




「よく来てくれたな筑波!歓迎するぞ!」


「……先輩も元気そうでなによりっす。」


 大歳先輩の家を訪ねるのは引っ越してから二回目だ。

 引っ越す前にも一度、血で汚れた制服の替えを受け取りに行ったがそれとは別に二回目だ。


「まぁまぁくつろぎたまえ!今日はハワイのチョコレートを用意したのだ!イギリス産の紅茶もいれてある!」


 この人は貿易商にでもなったんだろうか?


「……結構っす。」


「ふむ、では私がいただこう!甘いものと紅茶の組み合わせは格段にいい!!」


 甘いものが好きなわりにこの人は細身だ。

 かといって鍛えてるわけでは無さそうだから殴り合いは苦手だろう。




「今日きてもらったのはだな!いいものを手に入れたからなんだぞ!」




 今日はいつになくテンションが高い。


「……いいものっすか?」




「君が以前手にいれたカードと似たようなものだ!」




 そういって先輩は黒い箱を見せてくる。

 驚いたことに俺がやつからわたされたものと同じ箱だ。





「……なんだと。」




 ……この人からその話が出るとは驚いた。


 以前この家に訪れたとき俺はその時体験した奇妙な事件について尋問された。

 確かに商売の情報と自分の好きなことに関してはこの人は情報通だがそれ以外にはとんと無頓着だ。

 だから当時俺が体験した事件に関してこの人は興味を示さなかった。


 しかし事件が終わり戸畑峰子が事件に深く関わっていると知ると話が変わる。

 俺から知ってる情報を聞けるだけ聞き出しやがった。

 勿論それにみあう対価はもらったが本当に丸一日付き合わされ朝から訪れたのに一度日が沈みまた日が上っても帰れなかったのだ。


 あの時の嫌な思い出のせいでこの人にあの箱の話をするのは気が引けていたがまさかあんたから来るとはな……。



「……それをどこで手にいれた?」



 俺は顔を強ばらせやつに問う。

 あの殺人鬼を追う手がかりなんだ、必死にもなる。


「うちにやって来たのだよ、白いピエロが。」

「なんだと?」


 わざわざ家からでない先輩の家に来たのか?なに考えてやがるんだ?


「…他に情報はないのか?」

「まぁまぁ落ち着きたまえ筑波!これは非常に面白い!」


 大歳先輩はかなり興奮しているようだ。


「この箱は蓋を閉じると中にあるものを恐らく別の箱に移すのだろう。この前は肉じゃがが入っていてとても美味であった!書き手紙が作り主に届くといいのだが!」


 ……そんなもんまで入ってたのかよ。


「訳のわからないフロッピーディスク、更に変なシュレッダーも入っていて発見の連続だ!!」


 ……あんなゴミをもらって喜ぶのはあんたぐらいだろうな。


「解体してみようとも試みたが私の知る限りの方法ではこれは壊せない。」


 ……確かに前もそうだったな。


「正にこの世のものではない!こんなに面白いものが一年前にもあったとは恐れ入ったぞ!」


 面倒なことになった…、この様子だと譲ってくれといってもくれそうにないな。


「……あんたはそれを見せびらかすために俺を呼んだのか?」


 俺は悪態をつきながら聞く。


「いや、勘違いしないでくれ筑波。」


 一息いれてやつは話す。




「私はお前もこの箱を持っていることを知っている。」






「……!?」






 ……ハッタリか?


 いや違う、この人はなんの確証もなくこんなことは言わない。


「その顔を見る限り図星なのだろう!」


 やつは得意気に語る。


「なに簡単なことだ。昨日の夜、箱にカブトムシが入っていなかったかね?」

「……確かに入っていたな、そんなの。」




「それは私が入れたのだ。」




「それでなんで俺が持っているってわかった?」


「あれは私のお手製でGPSタグを内蔵していたのだよ。」


 この人は一人でスパイ活動が出来るほどの妙な技術力がある。


「……相変わらず器用っすね、先輩。」




「……今回お前を呼んだのは調査を依頼したいからだ。」


「……調査?」


「確かにGPSタグを使ったことでこの箱の持ち主の大まかな居場所は把握出来た。とりあえず昨日の段階では俺とお前の他に三人の位置がわかっている。」


 ここでやつは頭を抱える。


「しかしアパートに住んでいるものもいてな、どんなやつか確認してきてほしいのだ。」


「探してどうする気なんですか?」



 大歳先輩はニタニタした笑顔で答えてくる。





「私はこの箱を全て集めたいと思っている。」






 ……くそ、一番面倒なことになった。


 俺もこの箱を探してはいたがよりによって大歳先輩も集めてくるとは。


「集めてどうする気なんすか?」

「……いいか筑波、この箱の真価はその全てを集めたときにある。」


 大歳先輩は嬉々として語り出す。


「私がGPSを使って観測した限りこの箱はランダムに中身をワープさせている。その規則はわからないがワープ先を指定できていないことは確かだ。」


「ワープというのは欲しいものを欲しいところに送ってこそ真価を発揮する。」




「その為に全ての箱を回収してその規則性を解き明かさなければならないのだよ!」






 先輩は本気だ、マジで集める気だ。




 ……なら俺も覚悟を決めないといけないようだ。




 全ての箱を集めるための覚悟をな……。



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