第五章 船頭 渡
「駄目ねー。失敗だわ。」
私はその紙を机の横においた黒いゴミ箱にいれた。
飲み捨てたのビール瓶が散乱する部屋の中、私は黙々と新作の原稿書いていた。
こう見えて私はそこそこ売れた漫画家さ。
港町碇のペンネームでつい先月まで週刊紙でも連載を持っていた。
タイトルは「黒いライオン」、去年には映画化もされている。
私の得意とするジャンルはズバリ、エロとグロ!
この二つが密接に絡み合ったハイセンスな作品が私の売り文句だったさ。
しかし売れっ子としてここ二、三年働いているうちに私の感性が少し鈍化してしまったみたい。
つまるところスランプさ。
私は昔の経験を漫画に込めて書くことで独創的でリアリティのある作品作りを心掛けていた。
けれどこんなにも連載を続けたら私の短い人生経験ではネタ切れ、何か面白いネタはないかしら。
……出来ることならもう一度、……もう一度あの頃の刺激が欲しいの。
……あの背徳感と興奮が入り交じるような、……素敵な経験をしたいのさ。
確かに昼に会った白い手品師は奇妙だったさ。
でも違うの、私が求めているものはもっと欲望をさらけ出した人間味あるリアルなの!
そんなことを考えながら缶ビールを飲む。
酒は百薬の長というけれど私にはたいして効かない。
持っとこう心にグサッと来て……。
滲み出る血の感覚を味わうような……。
そんな狂騒的な熱狂が欲しいのさ!!
例えばこう殺人事件とか!!
こんなことを考える三十代もそういないんだろうなぁ、と私は我に帰る。
同級生は着々と結婚していくし、みんなは仕事が軌道に乗ってきたってきく。
ただでさえ少ない知人達がそうなのだ。
それに比べて私は惨めだ……。
一時は映画化までされもてはやされたのに新作のアイデアは浮かばない。
しばらく生活するお金はあるけど次の仕事に繋がる気がしない……。
ほんと惨め……。
「……チッキショー!!」
「私だってなぁ!!頑張ってるんだぞ!!」
「なんかいいことあってもいいじゃんかよー!!」
思わず飲み干した缶ビールを投げ捨てる。
カコン。
ビールの缶は黒いゴミ箱に当たり箱が倒れる。
パタン。
カサカサ。
その時私は倒れた箱から何かが出てきているに気付いた。
「……んだよチッキショー!!ゴキブリか!!揚げて喰ってやろうか!!」
正体を確かめに近づいてみる。
目にはいったのは茶色い昆虫。
しかし角がある。
箱から出てきたものの正体はカブトムシだと気付いた。
「……あん?何でこんなとこにカブトムシ?」
……あれ?
おかしい。
まだ五月だぞ?
カブトムシが野生ででてくるか?
どっかのガキが飼っているやつが飛んできたのか?
でも今日は私は一日詰めっきりで昼に買い物から帰ってから窓も一切開けてない。
それにあの箱はさっき空っぽなのを確認してゴミ箱にしたはずだ!
私は恐る恐るカブトムシを手に取る。
触って更に気付く。
カブトムシは本物ではなくは、今時めずらしいゼンマイ式のおもちゃであった。
……なんだおもちゃか。
あれ?
なんでこんなおもちゃがここにあるんだ?
おもちゃなら尚更おかしい。
自分で飛んでくるはずもないからさ。
誰だよこんな手の込んだイタズラをするのは!?
この箱をくれた手品師か?
私は箱に仕掛けがないか探ってみた。
すると新しい発見がある。
捨てた筈の私の落書きがない!!
なんなんだこの箱は!?
なんなんだ!?
酔いも覚めてきたがなんなんだ!!
私はカブトムシのおもちゃを箱にしまい蓋をする。
再び開けるとカブトムシのおもちゃはそこから消えていた。
……なんだこりゃ?
この箱は何でも消せるのか
……ならきっとこれは。
「いいトリックになる!!」
私に希望の光が指した!
あの手品師は神からの使いだったのだ!!
私の創作意欲が刺激される!
あとは、あとは!
本当に!
リアルな現場の!
ムーブメントの中で!
「実体験を得るだけよ!!!!」
「……あは、あはは、あはははは!!」
こんな気持ちになったのは若い頃以来さ!




