第四章 光本 歌蓮
「ママ!見てみて!」
「あらよくかけたわね!おサルさんかな?」
「ママだよー!」
午後8時、自宅のリビングで楽しそうにお絵かきをする幸太眺めながら私はため息をつく。
私の息子、幸太はやんちゃ坊主だ。
よく園のことトラブルを起こす。
でもその分運動神経がよくて去年の運動会の時はかけっこで一位だった。
きっと主人によく似たのだろう。
主人は昔はとても気の利くスポーツマンだった。
今では帰って寝るだけのATMだ。
勿論私の時間も出来てそれが必ず悪いことではないの。
……だけどもっと幸太とも遊んであげてほしいなって思うの。
私は確かに専業主婦で毎日家にいるけれどなんにもしてない訳じゃないわ。
家事に洗濯、料理に掃除と毎日大忙しよ。
なのに幸太の相手も私の仕事なんて不平等じゃないの?
幸太と過ごす時間が嫌って訳じゃないわ、寧ろ私の大事な、愛しい息子よ。
でも私は昔の主人が好きだったわ。
折角大学時代に他の女から奪った夫だけど私達の関係は冷え始めてる、……そう痛感するわ。
ため息をつきながら私は手元の黒い箱に目をむける。
昨日の昼頃、私はあの不思議な白いピエロさんに出会ったの。
ピエロさんは不思議な手品を見せめくれて現実を忘れられるようだったわ。
そして私にこの不思議な黒い箱を渡すと突然消えていったの。
この箱はどうにもおかしいの。
ゴミ箱に使用と思って紙屑を入れて蓋をすると中にあった筈の紙が消えていたわ。
おかしいわと思って置いていてしばらくしてから開けると今度はチェリーパイが入っていたの!!
私は怖くなってもう一度蓋をすると再び箱は空になっていたわ。
もうどういうことなの!?
それで私はピエロさんが同じ様なマジックをしていたこと、七人に箱を配ると言っていたことを思い出したわ。
どういう仕組みかわからないけどきっとこの箱は他の箱にものを移すことが出来るんだわ!
それに気づいた私は試しに作りおきしていた肉じゃがを紙皿に乗せラップをしてまた箱に入れてみたわ。
蓋がしまると同時に箱の中身は空になって肉じゃがは消えていたの!
そして暫くしてから箱を開けると紙が入っていて、そこには「ごちそうさま」って書かれていたの!
なんだかわからないけどこれは面白いわ!
主人との関係も冷めきっていてなにか面白いことはないかしらと思っていたところにこれよ!
きっとこれは七人に配られた箱を使って伝言ゲームのようにものを渡す遊びなんだわ!
私にはわかるわ。
料理を入れたら反応があるし、なんの感想も言わない主人よりもとってもドキドキするの!
だって相手は誰かわからないんですもの!
私はもう一度箱を覗いた。
今度はくしゃくしゃにされた手書きの絵が入っていた。
とても可愛らしい美少女が綺麗に描かれている。
けどそれは裸のイラストで……、かなりエッチなタッチで書かれていたわ。
どんな人がこれを使っているんだろう?
私はこの箱を貰って久々に情熱を感じたわ!
だけど幸太には刺激が強いし、主人にも見せたくないから私だけの秘密の箱として隠すことにしようかしら。
今度は一体どんなものが入っているのかしら?
楽しみだわ!