第三章 守田 美咲
私は昨日変なものを貰ってしまったの。
白い格好の人から手渡された黒い箱。
一体これはなんなのだろう?
真っ黒な正方形で、上の一辺が繋がった開閉式の蓋があって薄い素材で出来ている。
一見してさわった感じでは鉄のような肌触りだけど、押し潰そうとするとゴムのように弾力があって壊そうと思っても壊れそうにないの。
折角貰ったものだし何かいれてみるか!
私はおやつに買っていたチェリーパイを入れて蓋をしたの。
これで埃も被らない!
安心だ!
白い人はリンゴを入れてたしきっと問題ないよね!
それより今日は土曜日!
高校生にとって最高の曜日だ!
私の名前は守田美咲!
ちょっと食いしん坊な高校一年生!
夢は保育士になることで食べることの次に子供達が大好きなの!
今日は近くの保育園のボランティアで一日公園で園児達と遊ぶんだ!
だから私はウキウキなの!
***
公園につくと沢山可愛い子達が並んでて送迎の保育士さん達もいる!
私も早くあんな風に働きたいな!
私以外にも学生のボランティアが何人か来ていだけどどうにも一年生は私だけみたい、なんかちょっと残念。
だけどね!素敵な先輩達とも出会ったんだ!
まずね、三年生の静海先輩!
可愛い眼鏡の先輩で子供達とも仲良くしてたんだ!
動物が好きで昔よく世話してたみたいでとっても優しい人だったな!
もう一人三年生の神谷先輩!
男の先輩で最初はちょっと怖かったけど話してたらそうでもなかったよ。
静海先輩の付き添いで来たみたい!
それと二年生の小岩井先輩!
いつもはバスケット部で鍛えてるらしくて中々たくましい先輩だったよ。
最後に宇多田先輩!
この人も静海先輩の付き添いだったみたいで子供達と仲良くやってたけど本当は年上の人が好きらしいの!
私はお兄ちゃんと仲悪いからあんまりわかんないや!
とっても素敵な先輩達と園児と一緒に公園で遊んでたんだけど一人変わった子がいたの。
みんなが仲良く鬼ごっこをして遊んでるのに一人だけ離れたところで見てるみたい。
私は気になって声をかけてみたの!
「ねぇねぇあなた、何て言うの?」
「……あけみ。」
俯きながら答える少女は少し茶髪がかった髪をしていてとても可愛かった。食べちゃいたいくらい!
「あけみちゃんはみんなと遊ばないの?」
「……うん。」
「どうして?」
「……お母さんがね、知らない人と遊んじゃ駄目って言ってた。」
なるほど!私達に警戒していたのね!
私は屈んで彼女と目線を合わせる。
「大丈夫よあけみちゃん!お姉さん達は怖くないからねー!」
「……本当?」
「本当に本当よ!!」
そういって彼女の顔の前で笑ってみせる。
「……なら遊ぶ!」
「うん!ならみんなのところにいこうね!」
私はあけみちゃんの手をとってみんなの輪の中に連れていく。
そろそろ日が暮れる。送迎の保育士さん達が園児達を迎えに来た。
「守田さんよくあの娘と話せたわね。私が声をかけても話してくれなかったのに……」
「えへへ……」
宇多田先輩から誉められた!
嬉しいな!
「宇多田はちょっとがっつき過ぎなんだよ」
「確かにね」
「先輩達手厳しいですよー」
先輩達と楽しくおしゃべりしてるとさっきのあけみちゃんがてとてととこちらにやって来る。
「……お姉ちゃんまたね」
力一杯腕を降る姿は夕日に照らされてまるで天使のようだ。
「またね!あけみちゃん!」
私達は園児達に手を降ってそれぞれの帰路に着いたの。
***
私は家に帰ると楽しみにしていたチェリーパイをとりに自分の部屋に行く。
真っ黒な箱は出ていくときと変わらぬ位置に置いてある。
さーて!
仕事したあとですし、美味しくいただくとしますか!
しかし箱を開けると何も残っていなかった。
……おかしいな?
誰か勝手に持っていったのかな?
試しにお兄ちゃんの部屋の戸を叩く。
「なんだ美咲?」
「お兄ちゃん私のチェリーパイ食べたでしょ!」
「あん? チェリーパイ? キッチンにあったゼリーなら食べたけど?」
「あーそれも私の買ったやつ!! おにーちゃーん!!」
「知らねぇよ、自分のなら名前かいとけ!」
そのあと30分ほど口論してお父さんとお母さんにも聞いたけどみんな口を揃えてチェリーパイは知らないといってきた。
私のチェリーパイはどこにいってしまったんだろう?
部屋に戻って再び箱を開けるとさっきまでなかったはずの紙が入っている。
……おかしい。
さっき家族と会ったばかりなのにこの部屋に誰か入いれる訳がない。
私は怖くなって部屋の戸を強く閉める。
お兄ちゃんにうるさいと怒鳴られたけど今はそれどころではない。
恐る恐るその紙をめくる。
するとそこにはこう書かれている。
「ごちそうさま」
私は怖くなってすぐにその箱を閉じた。
動機が激しくなる。
誰がこんなイタズラをしたのだろう?
少し落ち着いてもう一度箱を開く。
すると中にあった筈の紙は消えてなくなっていたの。
私はその場に呆然としてあの白い人の言葉を思い出す。
「 う ま く 使ってください。」
この奇妙な箱はなんのために配られたのだろう?