第三十三章 赤い狩人 筑波 善財
「……やっぱりてめえが殺人鬼だったか」
俺と守田はやつの開いていた吐き出し窓から部屋に入る。
俺たちを目撃し驚いた光本はその場にしゃがみ込む。
「……な、なんなのよあなたたちは!!」
奴はまだ現状が呑み込めてない。手早く終わらせるか。
「あなたのことは網谷さんを利用して調べさせてもらいました」
ちっ、守田余計な話を始めるんじゃない。
「中村さんの用意した盗聴器を彼に持ち込んでもらったおかげで今日この箱を使うことがわかりました」
探偵じゃねぇんだ。
無駄話はやめろ。
「炎を箱に詰めることも喚起のために窓を開けることもすべて中村さんの指示です」
「……な、なによそれ」
「正直どんな風にあけみちゃんを殺したかは証拠を集めきれてませんがこれだけ明確に殺意を持って箱に細工をしたんです。あなたが犯人でまず間違いありません」
「最後に確認させてください。光本さん、どうしてあけみちゃんを殺したんですか?」
守田は涙目でやつに質問をする。
「……ふ、ふふ。守田ちゃん、なんてお粗末な推理なのかしら」
やつは守田の顔を見るなり笑い出す。
「ふふ、でもいいわ。なんにしたって私の負けね。あなたたちを不法侵入で通報しても、殺してもまだ後ろにあのペテン師みたいな探偵さんがいるならおてあげよ」
やつは落ち着きを取り戻し話始める。
「あの子を殺した理由ね、それは簡単よ。嫉妬したの」
「……どうゆうことですか?」
「あの小娘は私の幸太に手を出したの、だから殺したのよ」
「……え?」
「私はね、守田ちゃん。いってもわからないでしょうけど幸太を愛していたの。」
「そ、それは普通じゃないですか!お母さんが子供のことを思うなんて!!」
「……いや、違うのよ守田ちゃん。私は幸太を男として愛していたわ。」
「……え?」
「あの子を私の理想の男にする。それが私の夢だったの」
「確かにあの子はやんちゃだけど運動が出来て、女の子からも人気もあってどんどん昔の主人の様にいい子に育っていったわ」
「でもそこにあの目障りな娘が現れたの」
「あの子からバレンタインにチョコをもらってうれしそうにしてた幸太をみて私は久々に胸が熱くなったわ。何をしてでも奪い返さなきゃって」
「そんな時あのピエロさんが来てくれたの。あなたたちのところには一度しかきてなかったんでしょうけど私にだけ特別にピエロさんは二度来てくれたわ」
「ピエロさんは教えてくれたのよ。箱に詰めちゃえばそれは私のもとに帰ってこないって」
「私はあの子を幸太と遊ばないって言っておびき出したわ。思い出してもむかつくわあの小娘のうれしそうな顔は」
「だから、じっくりゆっくりと首を絞めて殺したの」
「そのあとは箱に入れるためにあの子を切り刻んだわ。主人にも幸太にも内緒だけどうちのまな板と肉切り包丁でやったの。小さな子供だったし意外と簡単だったわ」
「体以外をばらしてたら、幸太の塾も終わって迎えに行かなきゃいけなくなったわ。それでひとまずあなたのもとに全ての遺体を送ったの守田ちゃん。あの時は誰に送ったかなんてわからなかったけどね」
「でもそれが失敗だったのかしら。幸太を迎えに行って夕飯の支度を済ませたらあなたの手紙が入っていたの。あの時は本当に困ったわ」
「ピエロさんはワープが止まるなんて教えてくれなかったからみんないたずらだと思って見なかったことにしてすぐに蓋を閉じると思ってたもの」
「手紙をもらったあとで死体を送ったらなおのこと手紙の信ぴょう性が出てしまう。だから私はダメもとで私のもともと持っていた箱に遺体を送り付けたわ」
「それが上手くいった。最初からこの方法を試していればよかったのに、ピエロさんは教えてくれなかったわ。ほんとに意地悪な人」
「でもとにかくあなたたちのせいで私の殺人はばれてしまったわ」
さんざん自分語りをした光本はゆっくりとソファーに座る。
「それで私をどうする気?警察に突き出すのかしら?」
「もう遺体は探偵さんが持っている。私が彼のことを取り調べで言えば少なからず調査がはいるわ。死体を保管していた痕跡が見つかるはずよ」
「死体を勝手に保管するのも犯罪だし見つけてすぐに警察に伝えないのも疑念の種になるわよ」
「そうなったらあなた達も道連れ、これから先の長い人生無駄にしたくわないでしょ?」
追い詰められたはずなのに奴はすまし顔だ。
くそが。
こいつはあいつと一緒だ。
人を殺して何の後悔もねぇ。
それは許しちゃいけない悪だ!
殺さなきゃいけないやつだ!!
「……守田、話は済んだか」
「はい、先輩。最後に一つだけいいですか?」
「……好きにしろ」
「……なら、光本さん」
「……なによ」
「いつもおいしいごはんを作ってくれてありがとうございました」
「ご飯だけじゃなくって食材まで送ってくれて、私はとってもおいしい思いが出来ました」
守田の言葉にやつは顔をしかめる。
「……食材?」
「はい!」
守田はカバンからクーラーボックスを取り出し光本の前に置く。
「……な、なによこれ?」
「あなたからもらった食材です!」
守田はクーラーボックスを開ける。
開けた瞬間に吐き気を催す腐敗臭がこの部屋に広がる。
箱の中にあるのは今回の被害者、明道明美だ。
彼女の顔を包むように肉塊が敷き詰められている。
顔以外の部位は箱で送られてきた時よりも細かくばらしてある。
醜くくすんだ赤色とところどころに見える骨の白さが彼女の頭部を包み込むように飾り立てる。
少し湿り気のある髪とその肉塊は絡みつき、まるでこの姿になっても生きているかのように光本を見ている。
その腐敗を始めた眼球は赤と白とが入り混じり彼女の憎悪を映すかのようであった。
「……ひっ!!」
光本はソファーから転げ落ちた。
確かに冷蔵してたとはいえ二週間だ、人を狂わせるのに十分な瘴気をそれは放っていた。
「どうですか光本さん、きれいでしょ!活き造りっていうには鮮度が足りませんけどきれいにしたんですよ!!」
これを作ったのは守田だ。こいつの感性は一周回って使えた。
そもそもこれを作ったのは守田の食べた右手を偽装するためだったがそれ以上の効果を光本に与えることが出来た。
「でもこれはお返しします光本さん。私は十分いただいたので」
「……な、なにを言っているの守田ちゃん?」
「あなたにはあけみちゃんと一緒においしく焼かれてもらいます」
「……え?」
「……じゃあ先輩お願いします」
「……くそが」
カバンからそれを取り出す。
バズーカーのような見た目のそれは例のごとく大歳先輩のお手製だ。
俺はそれを担ぐ。
それの構造はまさにバズーカーのそれと一緒だ。
引き金があって、発射口があって長い胴体がそれらをつなげている。
ただ一つ普通じゃないのは発射口があの野郎がよこした「箱」になっていることだ。
七つ集められた箱が先端部に取り付けられ発射口の代わりに取り付けてあった。
仕組みはいまいちわからねぇが引き金を引くと全ての箱の蓋が開き箱の底をピストンかなんかで押し出すことで中身を打ち出すことが出来る。
この箱自体は柔らかいくせに頑丈だからどれだけ圧迫しても壊れない。
大歳先輩はこの箱を兵器に改造しやがった。
相変わらず頭がおかしいぜ。
「……な、なんなのよそれは?」
「これは今あんたが箱に詰めたものを打ち出す機械だ」
「……そ、それって」
光本は今更俺たちの目的に気づく。
「俺は狩人だ。俺の存在を脅かす全ては必ず殺す」
俺はトリガーを引く。
「ま、まって!」
やつの詰めたマッチ棒が勢いよくやつに命中する。
「い、いた。ねぇまってよ!私には!私には幸太がいるの!!」
俺はもう一度トリガーを引く。
「私が死んだら幸太はどうするの!あの子はまだ子供なの!!」
やつの詰めたガスが勢いよくやつに吹き付けられる。
「ごほっ、ごほっ、ねぇ聞いてよ!!あの子には私が必要なの!!」
俺は最後のトリガーを引く。
「知らねぇよ、てめぇが箱に入れたんじゃねぇかよ。」
火柱が奴を包む。
「い、いやぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「さようなら光本さん。今回は食べてあげれないですけどあなたの料理はとってもおいしかったです」
守田は泣きながらそう言った。
「ごちそうさまでした」




