第三十二章 網谷 八雲 その三
僕は悪くない。
僕はなんにも悪いことはしてない。
ただちょっとだけ箱にゴミを詰めただけだ。
あの日目撃したひき逃げ事件だって僕はなにもしていない。
確かに犯人を見たけど通報はしなかった。
僕は何もしてないんだ。
犯人の人がその後で一家心中したのだって僕には関係のないことだったんだ。
そんなの僕には関係ない、関係ないんだ。
「協力してくれてありがとうね!網谷君!」
この人は船頭渡さん、少しだけ売れた漫画家さんだ。
「今回の取材はとーってもいいものになったわ!!」
この人は今僕と一緒に僕の布団の中にいる。
「……これでよかったんですか?」
「うんうん!!とってもよかったわ!!」
僕はこの人と昨日寝た。
あの箱を手に入れてからこんなことばっかりだ。
「あなたもなかなか面白いキャラクターしてるのね!いいネタになったわ。」
「……それはどうも。」
「あなたは臆病者だったけどそれを光本さんに目をつけられて二人で犯人捜しを妨害しようとしていたと。」
「……はい。」
「君はなんの抵抗も出来ない、いやしないまま一番無害そうな山本さんの住所を調べ尾行するように命じられた。」
「……はい。間違いないです。」
「……そして朝から彼の家の近くで張り込みをして、彼が家を出たのを確認すると光本さんに連絡した。」
「……はい。」
「君はそれがなんのためかなんて聞きもしなかったし、確認もしなかった。」
「……はい、僕はただあの人の言うことを聞いていただけです。」
「それで喫茶店で死体が出てきたのをみて本当の犯人は光本さんだと気付いたのね!」
「……はい。」
「でも君はそれを誰かに言うこともなく、ただただ光本さんの指示に従ったと。なっさけないねー。」
「……はい。」
「でも私、そんなあなたのことも好きよ!」
船頭さんは終始ニコニコしていた。
「あなたみたいなこがいてくれないと私のストーリーに深みが出ないもの。」
「あなたみたいに敵の中から裏切り者がでてくれないと主人公達がハッピーエンドに迎えないもの!」
船頭さん、この人はよくわからない。
光本さんのようにただただ優しくはない。
褒めてくれているのかけなしているのかもわからない。
でもこの人は、それでもこの人は僕を認めてくれた。
この事件が僕のせいじゃないって認めてくれた。
僕があんな箱の使い方をしたばっかりに、みんなと同じように食べ物とかもらってうれしいものを入れればよかったのに、僕がごみ箱にしたばっかりに。
そんな罪悪感を抱いていた僕を認めて面白いって言ってくれた。
僕をただ利用しようとしていた光本さんと違って、僕を認めてくれた。
なんだかそれはいいことなんだと思う。
ピンコーン。
船頭さんのスマホに通知がなる。
船頭さんは起き上がりそれを確認する。
それを確認して笑顔で僕にいう。
「君の誘導のおかげで作戦はうまくいったみたいね。ありがとう網谷君!!」
「それは……どうも。」
この一週間、光本さんは悩んでいた。
僕らの作戦が上手くいかなかったからだ。
僕は彼女が犯人だと気づいてからもなにも出来ずにいた。
そこに船頭さんが表れて僕の話を聞いてくれた。
光本さんと違って僕の話をたくさん聞いてくれた。
この事件のことだけじゃなくて、僕の作りたいロボットの話も、この人は楽しそうに聞いてくれた。
そしたら船頭さんは正義のヒーローが僕らの代わりに悪をさばいてくれるって教えてくれた。
どうせ利用されるなら僕もそっちのほうがいいやって思った。
いつだって僕は悪くない。悪いのは不都合な世間のほうだ。
「ふふ、今回の事件は本当に刺激的だったわ!」
船頭さんは服を着始める。
刺激的だったのは僕も一緒だ。
「本当は私が遺体も箱も手に入れたかったけど、それ以上のネタを見つけることが出来たわ!!」
僕はこの人に大事なものを奪われてしまった。
「ならまたね!網谷君!!ぜひ君の夢の続き、私に聞かせてね!!」
「……は、はい!!」
これは僕のせいじゃない、彼女のせいなんだ。




