第二十九章 守田 美紗 その六
「被害者の明道明美ちゃんは未だ行方不明です。目撃証言がありましたらお近くの警察署までお願いします。」
テレビから流れてくるニュースはいつもは遠い世界の出来事なのに最近の報道は私も関わっていることだ。
「ふーん、美紗も気をつけろよ。」
「……うん、お兄ちゃん。」
勿論このことは家族にも誰にも内緒なの。
この秘密を共有しているのは筑波先輩と中村さん、それと港町さんだけなの。
中村さんの家での出来事から明日で一週間、私達の作戦は明日実行に移されるの。
「犯人は既に特定出来たぞ。」
「後は殺るだけだ。」
筑波先輩は当然の様に言った。
明日私達は犯人を殺す。
朝ご飯のパンをかじりながらそれについて考える。
胸焼けのような変な感覚を覚える。
……私、やっぱり怖いんだな。
「……お兄ちゃん。」
「どうしたんだ美紗?」
「……人を殺すのって悪いことなのかな?」
「なんだよ急に、そんなの当たり前だろ?」
「じゃあ人を殺した人を殺すのって悪いことなのかな?」
「どうしたんだよ美紗?」
「……うんん、ニュースを見て思っただけ。」
「なんだよ、行方不明な子がもう殺されてるって言うのか?」
「……だったら嫌だなって。私前あけみちゃんとボランティアで一緒に遊んだから。」
「殺人鬼を殺す殺人者ね……、なんか必殺仕事人みたいだな。」
「……お兄ちゃん?」
「いや、俺はそんなことしないけどよ。なんかヒーローみたいだよな。」
「……そうね。」
……ヒーローか、やっぱりお兄ちゃんと私は考え方が似てるんだな。
筑波先輩は犯人を必ず殺すって言ってた。
世間的には悪いことだけど、なんだかかっこいいなって思ってしまう。
それはきっと私達に出来ないことだから。
でも筑波先輩はそう思っていないことを私は彼と出会って三日目に知ったの。
それは今週の頭、月曜日の話なの。
学校の放課後、セーラー服を返しに中村さんの家を訪ねたの。
中村さんも忙しいみたいで時間は細かく指示されちゃった。
それと商品だからクリーニングに出すとかで絶対洗濯しないようにって念を押されちゃったな。
私はシャワーを浴びる前の一言を思い出してなにも言わずにうなずいたの。
「中村さん。」
「どうした守田よ。」
「中村さんは人を殺したことあるんですか?」
私は昨日たてた作戦について中村さんに訊ねた。
「ないぞ。」
「なら……怖くないんですか?」
「……筑波の殺しを手伝うのは二度目だ、手慣れたものだぞ。」
「……筑波先輩のご両親ですか?」
「……ほう、筑波から聞いたのか?」
「……いえ、何があったかは教えてくれなかったんですけど。」
「……ふふ、あいつらしいな。」
中村さんは紅茶を飲みながら遠い目をして話していたの。
「……どうして筑波先輩はあんなに殺したがるんですか?」
「……そうだな、今回守田にも協力して貰う以上知っていてもよいだろう。」
「……何をですか?」
「やつがああなった理由だぞ。」
「……え、でも筑波先輩から直接聞いたほうが。」
「……きっとこのことはやつは誰にも話さんよ。これを知っているのは私だけだ。」
「なら、なおさら……。」
「……知ってやってほしいのだよ。やつの後輩であるお前にはな。」
「……え?」
「守田、人を食べたお前ももう引き下がれないし引き下がる気はないのだろう?」
「……はい。私はやっぱり食べたいです。なんだったら筑波先輩のことも。」
「ふ、まさに肉食系女子か。」
なんだかそういわれると恥ずかしいな。
「ち、違います!」
「まぁいいではないか。お前ぐらいしか奴についてきてくれるやつもいないのだよ。」
中村さんは静かに笑った。
「私は基本的に取引はフェアでなければならないと思っている。筑波と私がお前のことを知るようにお前も筑波のことを知っておくべきだぞ。」
「中村さんのことは?」
「私の本名は大歳利樹だ。」
「……え!?どういうことですか?」
「まぁその話はあとにして話そうではないか。」
「筑波が殺しに拘る理由だぞ。」




