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第二十八章 船頭 渡 その三

挿絵(By みてみん)


「うふふ。」


 思わず顔のにやつきが押さえられないわ。

 筑波って学生の子にやられそうになった時はヒヤヒヤしたけど私は今とっても面白いことに参加出来ているわ!


「今すぐ笑うのをやめろ、イカレ女。」


「ふふーん、私あなたより年上よ?もう少し敬意を持ってくれてもいいんじゃないの?」

「くそうぜぇババァだ。」


 いい!!

 とってもいいわ!!


 彼の容赦のない口ぶり、鋭い目つき、新しい主人公にピッタリよ!!

 私はスケッチブックを取り出す。

 バン!!


「……え?」


 突然の発砲音が私のスケッチブックを貫く。


「下手な真似すんなっていったろ?」


 拳銃の様な物を構えている彼の姿は私の創作意欲をさらにかきたててくれる!!


 しびれるわ!!


 でもさすがに身の危険を感じるから今日のところは見逃してあげる。

 私はスケッチブックを鞄になおし静かにすることにした。

 帰ったらしばらくおうちに引きこもって新作書かなきゃね!!


「すみません!お待たせしました!」


 部屋の戸をあけて制服になった守田ちゃんがでてくる。

 この子もとってもいいこよ。

 最初は普通の学生のように見えたけど段々と狂い始めて今では私達のような狂気的な眼をしてきている。

 そう初めから、あの箱の会に集まったみんなはどこか狂っていた。

 他の一般人とは違う、特質して尖った何かがその内側にあったのよ。

 私はその事実に筆を進めることでたどり着いた。

 彼らのキャラクターを描くために一筆一筆入れる度に、現実の彼らと私の望む彼らの姿が相違ないことに気付いたの。

 そう思うと私は我慢できなくなったわ。

 早く彼らに触れて抱きしめてその実感を、思想を、質感を感じ取りたいと。

 最初の狙いはそこの探偵さんだったわ。本当は探偵じゃないみたいだけど。

 遺体のこともあったけど箱を回収するって言い出したから、この人も私と同じだと気づけたの。

 でも彼を追った先にいたのは彼ら二人の学生だった。

 とっても嬉しかったわ。

 彼らを探す手間が省けたもの。

 結果として返り討ちにあっちゃったけどそんなことはどうでもいいの!

 もっとこの子達のことが知りたいわ!!

 これから沢山しゃぶりつくしてあげる。


「さて、いよいよ箱と明道明美の遺体が集まった。」


 探偵さんが机の上に箱を、その横に私の持ってきたクーラーボックスよりも大きな段ボール製の保冷庫を並べて語り出す。

 保冷庫はしまってあるがその中には私の持っていたあけみちゃんの頭、右腕、右足、彼らの持っていた左足と内蔵が入っているわ。

 そしてもう一つ、私達が喫茶店内で発見した新しい肉塊と血液もある。

 守田ちゃんがシャワーを浴びている間に取り出したけど、合計六回、それは山本さんが持っていた箱にワープしてきた。

 そして形状、量から察する限りあけみちゃんの胴体をばらしたものである可能性が判明したわ。


「ところで右腕はどこなのかしら?」


「それは守田が食べた。」


 え?


「本当!!!!」


「……はい。」


「どんな味だった?私も食べようと思ってたんだよね!!」


「……二の腕の食感はぷにぷにでした。」


「むふ、とっても参考になるわ!!」


 探偵さんが咳払いをする。


「とにかくまず箱の特性についておさらいだぞ。守田がシャワーを浴びている間にある程度は理解出来たぞ。」




「その①:箱は蓋を閉じると他のいずれかの箱に中身をワープさせる。恐らくワープの対象は蓋が閉じている箱のみだろう。」




 そう言って探偵さんは血を拭き取って綺麗にした全ての箱の蓋を開けて一つだけ蓋を閉じる。

 もう一つの箱を手に持ちそこに用意していた食パンを入れて蓋をする。

 再び箱を開けるとその箱は空になっていた。

 そして一つだけ蓋をしていた箱を開くとそこには先程の食パンがあったわ。やっぱり面白い箱ね!

「先程何度か箱を入れ替えてやってみたが同じ結果だったぞ。」




「そしてその②:一度ワープを行った物はワープしてきた箱に二度とワープすることはない。つまり中身を元の箱に送り返すことは出来ない。」




 他の箱は蓋を開けたまま最初に使った箱に蓋をして食パンの入った箱の蓋を閉じる。

 そして開けても食パンは変わらずに同じ箱に入っていた。

「恐らくこの作用により私と筑波の箱から遺体は移動しなくなった。船頭が遺体を回収していなければ他のやつも同じように遺体の移動が起きずにパニックになっただろう。」

「えへー、それほどでもー。」

「黙ってろイカレ女。」




「……そしてこの特性は恐らく、その③:箱に入っていた物の形状が変わっても同様だ。」




 探偵さんは食パンを半分にちぎって半分だけを箱にもどす。

 そうして先程と同じように他の箱は蓋を開けたまま最初に使った箱に蓋をして食パンの入った箱の蓋を閉じる。

 半分になった食パンは移動しなかった。

 さらに探偵さんは今移動しなかった食パンに新たにジャムを塗り同じ箱に戻す。

 そうしてまた他の箱は蓋を開けたまま最初に使った箱に蓋をして食パンの入った箱の蓋を閉じる。

 半分になってジャムを塗った食パンは移動しなかった。


「これらの点は既に予測出来ていたが今回の遺体のお陰で箱の新しい特性が判明した。」

「……何ですか?中村さん?」

「今回新たに送られてきた遺体の血液は腐敗も凝固もしていなかった。」

「……つまりどうゆうことだ?」

「恐らくこの箱はワープが完了するまで転送する物の時間は凍結する。」

「余計にわかんないです、中村さん!」

「まぁまて。この特性について考える前にもう一つの可能性を検証する必要性がある。」

「もうひとつってなーにー?」

「ふん、説明するより実際にやってみよう。」

 探偵さんは全ての箱を空にして並べて、そのうちの六個の蓋を閉じ大量のビー玉を用意した。

 そして一つの箱に一つ、ビー玉をいれては蓋を閉じワープを起こす。

 三十回程度それを繰り返すと探偵さんは再度話し始める。

「……これでとりあえずここの六個全ての箱にビー玉がワープした。」

 そして探偵さんはその箱の蓋を開ける。


「まずは冷静にこれを見て欲しい。」


 ビー玉が三十個入ったはずの六つの箱にはそれぞれ一個づつビー玉が入っていた。

「……あれ、中村さん?さっき三十個入れましたよね?私ちゃんと数えましたよ!!」


「これが今回の喫茶店でのトリックだぞ守田よ、この箱は一度に一度しかワープが発生しない。」


「……つまりどういうことだ?」




「その④:一度ワープが発生した状態で未開封の箱に二度目のワープが発生するとその中身はワープされず累積する。そしてその⑤:累積状態にある物体は時間も経過せずどこにあるのかわからない。」




「守田と私が箱に入れた手紙も必ず一通づつしか入ってなかったことからも確信が持てる。」

「あんたお得意のGPSとかで追えないのかよ?」

「一応さっき試したが突然信号が消えたぞ。以前も箱にGPSタグをつけた物品をばらまいたが累積効果は発生しなかった。このことから仮定ではあるがその⑥:物のワープの際、可能な限り累積状態にならない箱が抽選される。」


 じゃあ箱の中に色々な機械を入れていたのは探偵さんだったのね!

 やっぱり私の勘はさえていたわ。


 そのあと箱からビー玉を取り出しては蓋をして、開けて累積してワープしてきたビー玉を取り出してを繰り返したら最終的に入れた数と同じ三十個のビー玉を取り出すことができたわ。


「そして大事なのはここからだぞ。」


「今回、老人の山本の箱にはテープが貼っており、あえてワープが起きないような細工がしてあった。」


「そして山本の証言が正しいならば彼は午前中に何者かの襲撃にあっている。」


「襲撃した何者かが山本を襲うだけ襲って野放しにしたのはこの箱のトリックを使うためだと推測出来る。恐らく彼の箱と自身の箱とすり替えたのだろう。」


「それもこれもこの箱の特性を活かし犯人を我々の出会ったピエロだと思わせるためだぞ。」


「このことから犯人は少なくとも箱のワープは閉じている箱のみに起こること、累積ルールの二つを理解していたことがわかるぞ。」


「しかし私がすべての箱を回収することになり箱の特性に気づかれると危惧した犯人は私を通報し遺体の入った箱を持ち歩く不審者としてこの事件の犯人に仕立て上げようとした。」


「私はその可能性も事前に予測しダミーを使って難を逃れたが箱について詳細な通報があったということは逆にあの中に犯人がいた証拠なのだぞ。」


「最初あのピエロが犯人ではないという予測は筑波の勘という不確かな情報だった。だが今日の情報戦の結果、あの場にいた七人の中に確実に犯人がいることが推測できるぞ。」




「そしてその人物は我々と箱を利用された山本を除く二人!光本か網谷だぞ!!」




「そしてもう一つ最も大事な点、箱のワープは閉じている箱のみに起こること、累積ルールの二つを犯人が理解していたこと。」


「そして守田。」

「は、はい。」


「お前の箱にだけ連続で遺体が贈られてきたという点、これら二つを証明づける一つの仮説があるぞ。」


「うーん、何かな?」




「これは最初のピエロの行動、そして言動がヒントになっている!!」




「……っち。」

「……え、でも中村さんそんなの覚えてないですよ!!」

「大丈夫だ、言動に関しては私が録音している。」


 そういって探偵さんはボイスレコーダーを取り出し再生する。




「今からマジックを披露します!お代はいりませんよ!」

「それでは僕の箱にご注目!見ての通り中身は空でございます!」

「それではこの箱にこちらのリンゴを投入します!」

「あなたの他に七人にお配りしております!褒美は結構なので私はこれで失礼いたします!」

「それでは う ま く 使ってくださいね!」




 やっぱりこの探偵さんはすごいわ、ダークヒーローの筑波君を支援する一流の詐欺師ってところね!


 これだけで一作書けちゃうじゃない!!


「私は考えた。七人に配っているなら何故あのピエロは私の箱に確実にリンゴを送ることが出来たのか?」


「そして犯人が何故一人であの箱の秘密の断片を理解できたのか?」




「答えは簡単だぞ!この箱は最初から七つではなかった!!」




「少なくとももう一つ、ピエロが持っていた送り先を任意に指定できる親玉とも言える箱が存在するはずだぞ!!」


「そして犯人は恐らく未だにその箱を持っているぞ!!処分するなら私が犯人として捕まったというニュースを見てからだろうしな。」


「我々の実験が上手くいったことを考慮するなら恐らく蓋が開いた状態でだ。その箱に他の箱のルールが通じない可能性もあるが少なくとも今ある箱からその箱に何かを送ることは出来ない。」


「だが少なくともこの時点で犯人はもう一つの未知の箱、いうならばブラックボックスを所有しているはずなのだぞ!!」


 すごいわ!私は今私利私欲が渦巻くドロドロぐちゃぐちゃのこの事件が彼らの手で紐解いていく現場に立ち会っている!!

 もうダメ、興奮が抑えられない!!


「ひゅー!!すっごーい!!探偵さん!!」


 私は探偵さんに飛びついた!


「な、なにをするこの女!」

「とまれイカレ女!今すぐ潰す!!」


「こっわーい筑波君!折角補足してあげようと思ったのに。」


「……何ですか港町さん、補足って?」




「あけみちゃんの死因よ!」




 そういって私は探偵さんの頬にキスをする。


「……っな!」


 あらあら探偵さん、顔を赤くしちゃって!意外とうぶなのね!

 このこもこのこでかわいいわ!!




「じゃあ私の番!!」




 うんうんいいわ、とっても気分がいい!!


「彼女の頭をじっくり観察した私だけにはわかるわ!!」




「明美ちゃんの死因は絞殺よ!!」




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