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第二十三章 大歳 利樹 その五

挿絵(By みてみん)


「ではみなさん再び集まりましたね。」


 昨日から一日経ち、私達は再び喫茶「チクタクマン」に集まっている。

 カラオケボックスでの商談を終えて、我々は第一目標である犯人の発見を急ぐことになった。

 しかし昨日は久々に歌ったな。

 守田が折角だし歌いましょうなどというものだから私はドイツ軍歌「旧友」を歌ったぞ。筑波も守田も知らない曲だと言っていたが見識の狭い後輩達だぞ。


 さて、話を進めるとしよう。


「ではみなさん、箱を出していただけますか?」


 私の要望にここに集まった全員が箱を取り出し机に並べる。

 パコパコと軽い音をたてながら七人の持つ全ての箱がで揃った。

 中身を一つづつ確認したがからのようだ。


 ふふ、やはりこの箱が七つ全て集まると壮観だぞ!


 このままこれら全てを手に入れたいところだが筑波と守田の希望に応えてやらねばな、商人としてのプライドがすたると言うものだぞ。


 七つそろった箱は一見して違った点がある様子ではなかった。


 一つ気になる点があるとすれば老人の山本が出した箱だけ蓋が閉まりきらず少し開いた状態であったことだぞ。

 他すべての箱を閉じて彼に訊ねる。


「山本さん、あなたの箱は閉まらないのですか?」


「実はじゃな探偵さんよ、今朝わしが散歩しとったら不覚にも誰かに後ろから殴られてな。その時に箱を落としたらこうなったのじゃ。」


「……おじいさん大丈夫だったんですか!?」


「がはは!心配ないわい!!ピンピンしとるわ!!」


「……それは災難でしたね。」


 守田は心配を示すが私の中には疑念が残る。

 前日の大学生の網谷の発言に一番動揺を示していたのは老人の山本だったぞ。


 恐らくビデオを入れたのは彼だろう。


 しかし彼が犯人ならば自分にとって不都合な情報を箱に流すだろうか?

 仕事のデータの入ったフロッピーディスクを箱に入れるような男だ、何も考えずにゴミにでも出す感覚だったのかもしれないぞ。


 明道明美の殺害が突発的なものであった場合はありえるのだが彼が襲われた事実が本当であるとすると彼を襲ったのは誰だ?


 我々以外の勢力がこの箱に関わっているという可能性も捨てがたいがこの中に犯人がいて彼を襲ったとも考えられる……。




 私が考えていると守田は閉まらない箱を調べだす。


「あれ、山本さん?なんか中にテープがはってますよ?これのせいで閉まらなかったんですよ!」


 守田はそういって山本に箱の中身を見せる。

 一見した限り気付きにくいが確かに箱の内側から縁にかけてに箱と同じ色の黒色のビニールテープがはられており箱が完全に閉まるのを防いでいるようだった。


「……おかしいのぅ。そんなものはった覚えはないのじゃが?」


 老人の山本は箱を受け取りテープをはがす。


「これで閉まるはずじゃ。」


 彼は箱に蓋をして再び机に戻す。






 コン。






 彼の戻した箱は今まで我々が机においたそれと異なり鈍い音を立てた。


 まるでなにかが中にあるかの様に……。





 ……おかしいぞ、今机に並んでいた箱はすべてからだった。




 今ワープが起きるはずがないぞ!




「な、なんじゃ?またなにか入ってきたのかのぉ?」


 彼は箱の蓋に手をかける。




 その瞬間、我々全員はおそらく四日前を思い出しただろう。




 少し蓋をあけたはずなのに鉄臭い肉の匂いがする。


「その箱をあけるなジジィ!!何かわからねぇがまずい!!」


 筑波が声を荒げるも老人の山本は既に箱を開けていた。




「……な、なんじゃと!?」


「……え、これって。」


「わーお、まだおわってなかったんだねー。」




 彼の箱にはバラバラにされた肉と骨とおぼしき物体と大量の血が入っていた。

 我々はこれを既に見てきたが今回のそれは今までみたどの部位よりもぐちゃぐちゃで肉塊と呼ぶに相応しいものだったぞ。


「な、なんなんじゃ!!」


 山本は再び箱を閉じようとする。

 まずい、他の箱はすべてしまっているぞ。このままではここにある他の箱に移動するだけだぞ!!


「お、おまちください山本さん!!」


 私の制止もむなしく山本は蓋をする。

 彼は中に何もないことを確認するために再度箱の蓋を開ける。

 彼が再び箱を開けるとさらに血の匂いが強くなる。

 そう、彼があけた箱には再び同じような肉塊が詰め込まれていた。

 正確には先程と違い大きな骨が入っており別の部位であることが窺える。


「ひっ……!!」


 山本は腰を抜かし悲鳴をあげながら箱を手放す。

 このままではこの店内に肉塊をぶちまけることになるぞ。

 こんなもの店員に見られたら間違いなく警察に突き出されてしまうぞ!

 そうなればこの場にいる我々は全員言い逃れは出来ない。

 遺体のDNA鑑定でもされて全員が明道明美殺害の容疑者になってしまうぞ!!

 やむを得ん。


「筑波!!」


 私は山本の隣に座る筑波に声をかける。


「わかってる!!」


 筑波は中身がこぼれないようそれをキャッチする。


「守田、箱をすべて蓋をした状態で机の奥によけろ!!」


「は、はい中村さん!!」


 守田は他の箱を集め机の端によける。

 それを確認し私は鞄から身だしなみ様に用意していたシトラスの香りのコロンを取り出す。


「少々失礼するぞ!!」


 部屋中にそれを散布し血の匂いを誤魔化す。

 匂いと匂いが混ざり合ってあまりいい香りではないがいくぶんかましになったろう。

 散布を終えて私はコロンのキャップを取り外し中の液を少量机に垂らす。

 そのままコロンのキャップを軽めに閉じ、こぼした液体の上にかぶせる様におく。

 ふう、ここまでしておけば多少はなんとかなるぞ。


「お客様、どうかなされましたか?」


 山本の悲鳴を聞きつけ個室の戸を開けて昨日と同じ少しいい声の店員が現れたぞ。

 どうにか悟られんように黙らせんとな。


「あぁ、すいません。ここにいる皆さんに私の会社の新商品の紹介をしてまして、それで回して見ていただいている間にこちらの山本さんが手落としてしまいましてですね。こぼしちゃったんですよ。」


 私は私が机にこぼしておいたコロンを指さす。


「あ、あぁそうだったのですか、それは災難でしたね。タオルを用意いたしますのでお待ちください。」


 店員はそう言って店の奥へと駆け出しタオルを持ってきて私達の机の清掃を始める。

 念入りにもこぼれた液体だけでなく机の奥まで拭いてこようとしている。


「お客様そちらの黒い箱をよけていただいてもよろしいですか?」


「あぁこちらは結構ですよ、商品が入っていてあまり動かしたくないので。」


「……そうでございますか、それでは失礼いたします。」


 そういって店員は我々の部屋を後にする。




 ……ふぅ、ヒヤヒヤしたぞ。



 ここがちゃんとした仕切りのある部屋で助かったぞ。

 でなければ箱を開けた時点で誰かに見つかって即通報もありえたぞ。

 私が一息入れていると昨日はおどおどして静かであった大学生の網谷が声をあげる。


「……やっぱりこの箱に死体を入れたのは僕達に箱を渡してきたピエロですよ!じゃなきゃ今死体が届くはずがない!!」


 彼の言い分も確かに頷けるぞ。

 我々は全員が今この場にいて箱に何も入れていなかった。

 この事件がすべて元々の元凶であるあの白いピエロの仕業だとする説は理にかなっているぞ。


「き、きっとこれは警告なんですよ!これ以上詮索するなっていう!こんなもの持っていたら何時僕達が襲われるかわかったものじゃない!!」


 昨日と違いはきはきとしゃべる大学生の網谷、余程警戒しているのか、それとも……。


「……私ももうこの箱には関わらない方がいいんだと思います。蓋が閉まらない様にして海にでも沈めるべきです。」


 彼に便乗するのは主婦の光本、彼女もまた箱を手放したいようだ。


「な、何を腰抜け共め!犯人を野放しにするとゆうのか!!こんな真似をする悪党を野放しになぞできんわい!!」


 先程悲鳴を上げていた老人の山本は捜査続行の意を示す。


「箱をー、処分するならさー!私に譲ってくれない?作品の資料として欲しかったんだよね!」


 漫画家の船頭にいたっては箱を欲しがり始めた。これは今すぐ手をうたねばな。




「みなさん、不安にもなるでしょうが落ち着いてください。」




 私はこの場を一喝するように告げる。


「恐らく先程送られてきた遺体が残りの箱にもワープした可能性があり、まだまだワープしてくる可能性があります。これ以上この未知の道具を民間人が所有しているのは危険です。」


「私は職務上警察とコネがありますので責任を持ってこちらの箱と遺体を届け出させていただきます。」


 勿論私に警察とのコネなどはない。だが彼らに伝えた私の肩書きを信じるなら不自然ではあるまい。


「……わかりました。お願いします。」

「お願いします中村さん!」

「お、お願いします。」

「……別にいいぜ。」


 学生三人と主婦の光本は私の提案に納得したぞ。

 まぁ二人の学生については最初から話を合わせている訳だがな。


「ただでやるのは景気が悪いのぅ。事件協力の補償金などはでんのか?」


 老人の山本はがめつく金をせびってくる。


「……このまま遺体の入った箱を持ち帰られるというのは遺体の保全的にもあなたの衛生的にもよろしくないかと。まぁ検討させていただきます。」


「……ふん、仕方ないわい。それなら譲ってやるわい。ちゃんと用意するじゃぞ!」


 金の話は面倒だが話はうまく進んでる。

 ある意味で今回の遺体のワープは私への助け船になっているぞ。誰がこれをやったかは知らんがとても好都合だ。


「……うーん。」


 最後まで私の提案に乗らずにいるのは漫画家の船頭。やはりこの女も箱を狙っているだけあって素直に首を縦に振ってくれない様だぞ。


「いいよー!箱はあげちゃう、よく考えれば危なそうだしね!」


 そんなことはなかったぞ。

 全く何を考えているのかわからない女だぞ。


「あ、でも最後に私の箱にー遺体が届いているかだけ確認させてー。」


 彼女はそう言って守田から机の端にある箱を要求する。


「……中村さん?(どうしたらいいですか?)」


 顔に言いたいことが書いてあるぞ守田。


「……いいでしょう。確認してください。」


 私は守田に合図する。


「ありがとう探偵さん!私のはこれかなー?」


 そういって守田に重ねられた箱の一つを指さし要求して受け取る。


「ふーむ、重さの感じからはずれかなー。一応開けておこーう。」


 彼女は箱の蓋を開けて確認をとる。


「なんだ、残念。やっぱり外れだー。最後に写真だけとらせてよー。」

「……いいですよ、好きにしてください。」


 新しい遺体が送られてきたというのに彼女は物怖じする様子を一切見せず写真を撮り始める。

 蓋を開けたまま中身も外側の側面も丁寧に写真をとりだしたぞ。

 そして箱の蓋を片手で押さえながら内部を撮影する途中、彼女はカメラを箱の中におき机においていたスケッチブックに手をかけようとする。

 その瞬間箱から手が離れ再び箱は閉じる。


「あっ。うっかりしてたー。カメラがワープしちゃったー。」


 白々しいしゃべり方で彼女はしゃべる。


「今他の箱を開けて探すのは大変だろうしー後で私のとこまで届けてよ探偵さん。」


 彼女はにこやかにいう。

 この女、わざとカメラを箱にいれたな?

 なんの目的があるかは知らんがまぁいいだろう。

 優先事項は箱を回収し箱の謎を解き、明道明美殺害の犯人を見つけることだ。


「わかりました。後ほどお送りいたします。」


 私は渋々了承しすべての箱を回収する。

 箱の蓋にはガムテープをして中身がでることと新たなワープの発生を防ぐ。

 それぞれをタオルでくるみそのまま鞄から用意していたリュックサックを取り出しそれらを詰める。

 それからカメラ返却のために船頭と連絡先を交換した。

 勿論私の連絡先は偽の情報だ。こんなところで貴重な個人情報を漏らすわけにはいかないぞ。


「では箱の会はこれで解散としましょう。皆さんご協力ありがとうございました。」




 十四時に集まったのに十五時には私達はそれぞれ店を離れ、すぐに別のポイントで筑波と守田に落ち合った。


「二人ともいいフォローだったぞ。これで無事箱を回収することが出来た。」


 今回の集まりで予定より早く箱を回収することが出来た。後は犯人捜しだぞ。


「中村さんこそとっさの演技すごかったですよ!!」

「……そんなことよりまずは箱の解析だろ?」


 楽しそうに話す守田をよそに筑波はつっけんどんな態度だ。


「ふむ、では箱の解析は我が部屋でやるのが一番安全だろう。筑波、守田を連れてうちまでこい。」

「え、中村さんのおうちでするんですか!?お邪魔して大丈夫ですか?」


 守田も最早私の顧客だ、家に上げる程度のリスク仕方ない。


「……わかりました先輩。」

「それから筑波、頼みがある。」

「なんっすか?」

「なに、我々の安全のために必要なことだぞ。」




 それから私は二人と別れ、わざと遠周りをしながら我が家を目指した。



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