第二十一章 山本 玄導斉 その二
くそったれ、あの小僧わしの好意を無下にしおって!
日曜日の朝、わしは例の箱を抱え散歩をしとった。
朝が早いと年寄り臭いとねえちゃん達に笑われるが起きてしまうものわしょうがないのじゃ。
本当なら昨日の夜も店のねえちゃん達ともっと遊びたかったんじゃがいよいよ金がないわ。早く年金がおりんのかのう。
わしはギャンブルの次に若い女が好きじゃ。
男ならみんなそうじゃろう。
でも正直なところ若いといっても未成熟な娘、幼女が一番好きなのじゃ。
このことは誰にも言えんかったがわしは確かにそうじゃった。
……わしは恋しいのじゃ、……家を飛び出していった妻と娘が。
……今でもわしは、別れ際に手を振ってくれたあのこの姿が忘れられんのじゃ。
わしがおかしくなったのは、あの日からじゃ。
確かにその前から酒の勢いで妻をぶったことも……、何度かあったわい。
でもわしじゃて仕事の疲れがたまっとったんじゃ、酒を飲むのは仕方あるまい。
妻はわしと別れた後の一切の連絡手段をたちおった。
じゃから娘が今何をしておるのか、わしゃなにもしらん……。
今、娘はきっと三十代くらいなのじゃろう。
じゃがわしの中の娘はあの時のままなのじゃ……。
おかしいんじゃ……、こんなの、世の中がおかしいんじゃ……。
公園を散歩しながらベンチに腰掛ける。
この箱を手に持っておるからか疲れるわい。
わしはこの箱は面白い遊びじゃと思っておった。
確かにあの肉塊をみたときは心臓が止まるかと思ったわい。
じゃが箱を閉じればなくなる、ただのドッキリじゃと思っておったわ。
しかし被害者が可愛い幼稚園児と聞いて黙ってわおれん。
わしは幼女が好きじゃが殺すなんていかんことなんじゃ!!
わしが生まれたときには戦争は終わっておった。
わし自身が人の命をたったことはないがわしの親父は戦争で死んだらしいのじゃ。
じゃからわしは家のために必死で働いたわ。
生きるために必死にじゃ。
わしらは必死に生きとるんじゃ!
誰にも他の命を奪う権利なぞないし、働きにみあった賃金が払われるべきじゃ!!
おかしいのじゃ、世の中狂っとるわい!!
じゃからわしは殺人鬼とやらがおるのならばさっさと捕まるべきと思うのじゃ。
わしのこの年老いた体で何が出来るかわからんが、早く犯人を捕まえるのじゃ!
そしてこの箱も誰かに売って、それをもとでに一発当てて、ねえちゃん達に癒やしてもらうのじゃ!!
わしが決意を改めたところでわしの背後から何かの気配がしたのじゃ。
それに気づき振り向こうとするよりも先に何か物をふるおとがしたのじゃ。
ゴン!
「っが!」
な、なんなのじゃ!?
強い衝撃がわしの背中に響く。
思わず箱を手放しベンチから転げ落ちる。
ぜ、全身がい、痛いのじゃ。
何もかもが突然すぎて訳がわからんわい。
わしはとにかく何が起きたのか確認しようと背後を振り向く。
すると姿はよくみえんかったがフードを被った誰かがこの場から逃げ去って行くのが見えたのじゃ。
「ま、待つのじゃ!」
わしは大声を出した。
じゃがこの公園におるのはわしと逃げ去ってゆく誰かのみでほかには誰もおらんかったわい。
結局フードの誰かは止まることなくわしの視界から消えおった、くそったれ!!
わしは立ち上がり服についた土を払う。
まだ背中は痛むがこの程度でくたばるわしではないのじゃ。
「……腰にきたがのぉ。」
じゃがこの程度で病院にかかるわけにはいかん。
そんな金はないからじゃ。
さて、今襲われたことを警察に言うべきか。
わしは正直警察とは関わりたくないのじゃ。
妻と裁判所でもめていらい聞き分けのない公僕共はどうにも好きになれん。
わし自身平気じゃし今回は黙っておくとしよう。
今日の集まりに支障を来すわけにもいかんからな。
わしは先程手落とした箱を拾う。
勢いよく落としたのに傷一つついておらん、本当に不思議な箱じゃ。
じゃがなんじゃか蓋がちゃんと閉じなくなっておるのぉ。
ぱっと見た感じではなんの問題もなさそうじゃが、まぁいいのじゃ。
訳のわからん通り魔じゃったがもしかするとあの箱の持ち主の一人なのかのぉ。
もしかすると幼女を殺した犯人が口封じのためにわしを殺しにきおったのか?
じゃがならなんでやつはわしを殴りつけた後すぐに逃げ出したのじゃ?
まぁいいわい、わしはこんなことではめげんのじゃ。
がはは、次に来たときは返り討ちにしてくれるわ!!




