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第十九章 筑波 善財 その五

挿絵(By みてみん)


「えへへ、ごちそうさまです中村さん!!」

「……う、うむ。満足してもらえたならよかったぞ。」


 大歳先輩を追ってきた守田美紗と共に俺達は駅近くのカラオケボックスに来ていた。

 高架下での会話からそんなに時間は経ってない。


 別に歌を歌いに来たわけではない。

 ここなら騒音で人に会話を聞かれる可能性が低いからな。


 大歳先輩はしなくてもいいのに善人ぶって守田の食事をおごるとか抜かしやがった。

 その結果、守田はミックスフライ定食、ミートスパゲッティ、この店で一番大きなパフェを注文し、それを十五分の間に平らげた。

 俺は遠慮してコーラだけ頼んだがやつの食いっぷりを見てると幾分か腹が減る。

 ふざけたやつだ。


「では話を本題に移そうか、守田美紗よ。今回の事件についてだ。」


 自前のミルクティーをすすりながら大歳先輩は言う。


「は、はい!」


 守田も食い荒らした皿を端によけて話を始める。

 俺達はそもそもこいつの情報を聞くためにわざわざこの店にきたんだ。こいつの持ってる情報が役に立てばいいんだがな。

 確かにこの女は最初の手紙をだした点は利用価値があった。

 バラバラ死体の第一発見者であるということからも重要な人物であるのは確かなんだ。


 だが俺は正直期待していない。


 こいつは土壇場で動けなくなる普通のやつだ。


 金こそとるが俺の要望には概ね答えてくれる大歳先輩や去年の事件で利用したヒーロー先輩や宇多田みたいな連中はあの程度の恐怖に立ちすくむことはなかった。


 あいつらにはある種の信念があった。


 恐怖を前にしても揺るがない信念がな。


 それは俺の求める物であり、一番利用しやすい感情だ。


 守田もあの死体をみて手紙をだすだけの行動力があったんだからどんなやつかと期待していたんだがな……。


 あの程度でびびるようじゃ風見と同じ役立たずだ。




「……それで最後にあけみちゃんの左手を取り出して夢じゃないんだって気付いたんです。」


 守田はカフェでいっていたことをなぞるようにやつの体験してきたことを話した。


「……ふむ、ではいくつか質問してもいいかな、守田よ。」


 大歳先輩はやつの話の間頭の中で情報を整理でもしていたんだろう、相変わらず探偵気取りだ。


「まず最初に守田よ、お前は手にとった遺体をどうしたのだ?」


 大歳先輩はズバリ言い張った。


「……あー、えぇっと。」


 守田は口ごもる。

 めんどくせぇやつだ。


「……はっきり言えよ、協力してくれるんだろう。」

「……は、はい筑波先輩!」


 守田は俺をみて口ごもった答えを漏らす。




「……食べちゃいました!」




 …………は?


「……ぶふ。」


 大歳先輩はミルクティーを思わず吹き出す。




「…………えへへ。」




 守田は頭をかきながら答える。


 その仕草を見る限り彼女は普通の女子高生だった。


「……マジなのか。」

「……マジですよ!」




 守田の目は本気だった。




 こいつは冗談でなくマジで人の死体を食ったとこの場でいったのだ。


 確かに話し声が聞こえないようにわざわざカラオケボックスを選んだ。


 聞き耳されることには注意を払って話していた。




 だがこいつはマジで、今ここで、人としてあり得ない発言をした。




「そのまま食べたと言うことなのか?」


「……うーんと、ちゃんと捌いて塩焼きにしました。」


「……なんと器用な、普通出来るのか。」


「昔からおじいちゃんに鶏やウサギの裁き方を教わってたので簡単でしたよ。お父さんも魚を捌くのが上手で材料を食べやすく加工する方法はなんとなくわかるんです。」


「……そうゆう問題ではないぞ。」


「小学校の時も鳩をつかまえて食べてます!あれも美味しかったな!」


 大歳先輩の言葉を無視してこいつはしゃべり始める。

 まるで栓を開けた炭酸の様に勢いよく口を割った。


「何故人の死体を食べようと思った。そもそも被害者とは知人なのだろう?」




「初めて会った時から美味しそうだったんですよ、あけみちゃん!」




 俺達は思わず絶句した。




「でも人を殺すのは悪いことだし、私にはそんな度胸ないし美味しそうだな……って想像するだけだったんですよ。」


「……。」


「そしたら箱を持ってる誰かがあけみちゃんを殺しちゃって、それが送られてきて、とっても怖かったの。」


「……でも私は思ったんです!やっぱり美味しそうだって!いつも入ってる料理じゃなくて今日は食材が届いたんだって!!」


「だから私はあけみちゃんを食べたんです!実際ちょっと独特の臭みがあったけど思ってたとおりあけみちゃんはぷにぷにでおいしかったの!!」


「それで、もう三日たっちゃったけど、出来たら残りも食べたいなぁって。」


「それと、あけみちゃんを殺した悪い人と仲良くなってまだまだ食べたいなぁって思ったんです!」




「……でも私は筑波先輩達に会えたんです!人を殺せる筑波先輩に!!」


「先輩が犯人を殺すのなら私協力します!!その人を残さずいただきます!!」


 守田はにっこりと俺に笑みを向けてくる。




 ……なんなんだこの女、完全にいかれてやがる。




 このなりで食人鬼かよ、気味がわりぃぜ。


 だがこいつは自分自身で誰かを殺すことはねぇ。あくまで人肉を食べたいだけのキチガイだ。


 そういう意味ではあいつと違うタイプの狂人だ。


 俺の命を脅かす敵ではない。




 ……やっぱりこの女、利用価値がある。




「その言葉本当だな?」


「筑波お前……。」


「……はい!本気です!」


 この女は笑顔で答えてきた。

 とても正気の沙汰とは思えないような、おかしな笑みだ。見てるこっちがおかしくなる。


 だが俺は使える駒は何であれ使う。

 役に立たなければ捨てればいいだけだ。


「……お前ら本気で言っているのか?」


 大歳先輩は最後の忠告とばかりに話す。


「勿論。」

「本気ですよ。」


「……ふむ、ならば私もはっきりと言わせてもらおう。」


 やつの言うことは聞かなくったってわかる。



「お前らの計画、高くつくぞ。」



「中村さんそれって……。」



「五十万。」



 俺はやつに答える。

 去年貯めた金と大歳先輩からの給料を合わせてギリギリ出せるかどうかの額だ。


「足りんな筑波、今回は武器だけではないのだぞ。」


「……じゃあなにがつくんだよ。」


「私も現場にでるのだ。安くはつかんよ。」


「……っち、自分で出てきた癖に。」


「それとこれとは別だ、筑波よ。今回はサービスしてやるといっているのだ。」


「……何を出せばいい?」


「今回は金はいらん。箱をよこせ筑波よ。」


 ……っち、やっぱりそう来たか。


「……何の話をしているんですか?」

「取引だぞ守田美紗。私がのるかそるかのな。」


「箱は俺も欲しい。勘弁してくれ。」


「駄目だ、筑波。これは譲れない。」


「……あのう筑波先輩。」


「何だ守田?」


「箱って私達の持ってる黒いやつですよね。」


「そうだが?」


「先輩のためなら私の箱譲りますよ!」


「ふふ。」


 守田の言葉に大歳先輩は吹き出す。


「え、私おかしなこと言いました?」


「いやいや失礼、筑波に後輩が出来たと思うとおかしくてな。こいつは人相も悪いし人付き合いもよくないから後輩に慕われることなどまずなかったからな!」


「そ、そうなんですか。」


 ……っち、余計なこと言いやがって。


「それに守田よ、我々の話す箱とは七つセット単位での話だ。当然お前の持ってるそれも含まれる。」


「え、それって。」


「私と筑波は最初から箱が目当てだったのだ。最終的には全て回収する予定なのだぞ。」


「……中村さんと筑波先輩は全部集めてどうするつもりなんですか?」


「私は箱の秘密を解き明かすぞ!その真価を引き出すためにな!!」


「筑波先輩は?」




「俺はあいつを殺すために必要なんだ。」




「あいつって誰ですか?」


「……俺が殺し損ねたやつだ。」


「その人美味しそうでしたか?」


「知らねえよそんなもん。」


「箱は殺すのに使うんですか?」


「……いや、ただてがかりになるんだよ。」


「でもそれだったら二人で一緒に箱を使えばいいじゃないですか?」




 この女……、大歳先輩のことを知らないからって好き勝手いいやがって。

 この人から物を借りるくらいなら買った方がましだ、それだけ商魂たくましいやつなんだ。

 それにやつは俺にこの箱を全て集めろとかぬかしてやがった、貸し借りでその条件が満たせるかもわからねぇ。


「ふむ、守田の言うことも一理ある。代替え案として箱のシェアも許可しよう。」

「勿論ただでは渡さんがな。」


 くそ、面倒だ。

 大歳先輩はやはり箱を渡さねぇと動いてくれないらしい。


「……あのう筑波先輩?」

「……なんだ守田、今考えてるんだ。」

「そもそも中村さんと先輩はどうゆう関係なんですか?」

「……ただの取引相手だ、この人は条件さえ満たせばなんでもしてくれる。」


 俺の言葉を聞いて守田はにこやかに笑った。


 そして俺に近づき大歳先輩に聞こえないように耳打ちをしてくる。


「……ここは箱を中村さんにあげて皆で犯人を見つけましょう!私に作戦があります!」


「……なんだと?」


「それはですね!ごにょごにょ……。」




 …………は?




 こいつ正気か?






 最初からそうだったのかこの事件を経てそうなったのかはわからねぇ。

 だが間違いなくこの女は普通じゃない。

 守田の提案に今度は俺が口ごもる。


 こいつの話を鵜呑みには出来ねぇ、現実性やら今後のことも考えるとそれは頭のいいやり方ではない。

 だが実際まず全ての箱を集めるためには大歳先輩の協力が最短ルートだ。


 俺は今後の算段を頭で考えようとするが守田の言葉が強く頭を埋めていた。






「中村さんが全部集めたところを殺して奪い取ればいいんですよ!中村さんも私が食べちゃいますよ!」






 繰り返しになるがそれは頭のいい方法じゃあねぇ。

 けれどこの女は、自分じゃあ何も出来ないくせに、目の前に本人がいるにも関わらず、食べると間違いなく言った。


「決まったかねお二人さん、私は待つのは嫌いなのだぞ。」

「……あぁ先輩、とりあえず箱はあんたにやる。」


「みんなで協力しましょう!」


 何にしたって食人女もそこの武器屋の先輩も俺の駒だ。

 俺の敵を消すために使える物は全て利用する。



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