第十八章 船頭 渡 その二
「むふー、今日は豊作だわ!!」
私はカフェからの帰り道、独り言をつぶやきながら帰っていた。
今回の事件とってもいいわ!
あの頃の体験以上に刺激的!!
どんどん筆が進んじゃう!
寧ろ書いてないと落ちつかないくらいだわ!!
「ふふん!!」
私はコンビニで買った缶ビールとスナックを片手にスキップを刻みながら歩いていた。
「第一発見者の女子高生!とってもいい!あの鬼気迫る表情!明るく振る舞っていても事件でうけた衝撃にこらえきれず段々と壊れていく様!とってもいいわ!」
私は最高にハイだった。
「そしてあのうさんくさい探偵!あの素人っぽさがまた現実味があってとてもいい!!」
私の中の高ぶりはとどまることを知らない。
「あのおどおどした学生も!目つきの悪い学生も!じっとりと他のメンバーを品定めしていた主婦も!うるさいおじさまもとってもいい!いろいろなカップリングが考えられるわ!」
私は早く帰りたい!帰って早くこの高ぶりを私の作品にしてしまいたい!!
そして何より今我が家には私の帰りを待ってくれるヒロインがいるの!!
私が手に入れた最高の主人公!!
私の作品づくりのためにばらまかれた悲劇のヒロイン!!
「あは、あはははー!!」
今の私は他の誰よりも輝いている!
その自信があるの!
私は私の部屋につき扉を開ける。
お世辞にも綺麗とは言えないが私の根城だ。
お客を呼ぶことはない。
ここは私だけの場所だ。
「た、だいまー!」
私はご機嫌で声をかける。
この前まで私は一人だったけど今は私のヒロインが待っててくれる。
私は家に上がり戸を閉める。
足下には分解されたおもちゃが転がっている。
このおもちゃ達はあの素敵な箱に入っていた。
最初のカブトムシは逃がしちゃったけどそれ以降私はそれらを集めバラバラに分解した。
これはいい練習になったし、面白い発見もあったわ。
このおもちゃの中には盗聴器みたいなのがはいっていたの!
こんな物を用意できる人がいるなんて!
すごいわ!!
あの中の誰なのかしら!!
送り主にばれないように機械だけ抜いてゴミに出しちゃったけど、早くこれをつくった人に取材がしたいわ!どんな気持ちでこれをいれたのかしら!
私は冷蔵庫の前にたつ。
缶ビールをしまうのと彼女に会うためだ!
私は静かにその戸を開ける。
「ふふん!ただいま!あ・け・みちゃん!!」
私の小さな冷蔵庫は今その殆どが彼女で埋め尽くされている。
私が今持っている彼女のパーツは頭、右腕、右足の三部位だ。
私は缶ビールをしまい彼女の頭を取り出す。
それぞれの部位はガラスケースでしまっている。
腐敗を遅れさせるためにケース一杯に氷を詰めている。
お肉と一緒で冷やしとけばとりあえず腐敗の進行は遅らせられる。
だから今はあんまり外に出すことが出来ないわ。
「ふふ、いい寝顔!」
けど問題ないわ、もうすぐ剥製にしちゃうもの。
常温保存していたら1日もしないうちに腐っちゃって剥製に出来なくなっちゃうけど、こうやって適温で保存すればとりあえず一週間はもつわ。
もうすぐネットで購入した薬品も届くし楽しみだわ。
全身を剥製にするのは難しかったからバラバラになってくれて本当に助かるわ。
この素敵な表情を私の物にして、それを元に私は新しい傑作を生み出すの!!
最後にあの網谷って学生の子がいってたようにビデオをみた模倣犯が幼女を襲い、そして殺す!
なんてバイオレンスで狂騒的なのかしら!!
この事件の真相とはきっと別のシナリオになっちゃうけど、それはそれでいい絵が描けるわ!!
問題は残った腕と足、どうして処分しようかしら?
焼くのも目立つし、薬品で溶かすのも剥製用の薬剤で出費がかさんじゃったから難しいわ。どこかに捨てるのも見つかったら困るし……。
とりあえず事件がまだ少女の失踪事件であるうちは警察の調査だって進まないはずだし私の生活圏内で遺体が見つかることは絶対に避けなきゃいけないの。
そういう意味ではこの箱はとってもいい道具だったわ。私の理想通りの道具よ。
不特定の多数に遺体を配ることでその人達にも罪を被せ疑いの目を分散させられる。
これほどに面白い話の種はないわ!
とにかく残りの二つの遺体、これのスケッチと写真は十分に撮り終えたからどうにかしないといけないわ。
また箱に詰めるのもいいけど探偵さんの言うとおり何かのきっかけでワープが止まるって言うならまずはその仕組みを理解しなくちゃ危ないわ。
本当にこの手足はどうしようかしら……。
そう言えば連続殺人鬼は死体を食べて処分するってお話もきいたことがあるわ。
私はそれを思い出し、あけみちゃんの頭を冷蔵庫にしまいネットで検索する。
実際食べてしまえば遺体が見つかることもない。
骨は砕いて生ゴミににでも混ぜればよっぽどのことがない限りばれないわ。
人の肉なんて食べたことはないけど美味しいのかしら?
肉食動物の肉はあんまり美味しくないらしいけどこんなに可愛らしい女の子ならぷにぷにで美味しいのかもね!
私はディスプレイに映る情報を読み上げる。
「……なになに、カニバリズムの語源はスペイン語っと、お!以外に一杯いるじゃん人食べてる人!えぇっと、食人を美味しく行うコツは性的な趣向を持って行うこと、ね。勉強になるわー。」
私はネットの記事を見ながら考える。
私が手に入れたあけみちゃんの体は頭、右腕、右足の三部位。
箱で最初に見た内臓と左足に関してはびっくりしてすぐに箱を閉じちゃってゲットできなかったけど私が知る限り箱に入っていた彼女の一部は頭、両腕、両足、そして内臓。
内臓に関しては真っ赤のドロドロぐちゃぐちゃですぐに箱を閉じちゃったから詳細がわかってない。
明日探偵さんに頼んで見せてもらわないとね!
でもとりあえず確かなのは私も探偵さんも箱の中に彼女の胴体を見ていないということよ。
探偵さんの話にも出てこなかったしきっと胴体だけ箱に入れられず誰かが持ってるってことになるわ。
華奢な腕や足、可愛らしい髪の毛に包まれた頭とは違って肉がたっぷり詰まっててそして他のパーツよりも大きな胴体……、内臓が取り出されていることからも解体されていると考えられるわ。
それでも彼女の頭の大きさから察する限りこの箱に胴体を入れるのは大変そうではある。
もしあけみちゃんを解体した犯人が胴体を持っているのだとすれば、その人はそれをどうしたのかしら?
「……ふふ、すごくいいわ!」
私の想像力が沸き立つ。
この事件は本当に私の求めていたもの!!
あの頃の体験に勝る背徳感と高揚感!!
あまりに刺激的過ぎて興奮が抑えられない!!
私はマウスを放り投げ、今日書いていたスケッチブックを取り出す。
かける!
かけるわ!!
この絵に描かれた人達が次第に壊れおかしくなっていく様が!!
壊れていった彼らが、行き場を求め互いに求め合う姿が!!
「今の私はきっと、前よりもいい傑作がかける!!あの無能な編集部も黙らせられる傑作が!!」
「あはははははははははははははははははははははははははっはっははあっはあは!!!!」
きっと私も壊れていく彼らの一人なのだろう。
でもいいの、私は元から他の人とは違うわ!!
私は求めているの!!
この欲情を!!
この快感を!!!!
この気持ちを描くこの瞬間を!!!!




