第十六章 守田 美紗 その三
喫茶店での最初の集まりは終わって、ここに集まった人達はそれぞれ家に帰っていった。
最後の網谷さんの発言の後も中村さんが話をまとめてくれて何事もなく終わったの。
とにかく明日、もう一度集まって私達の箱の秘密についてみんなで調べることになったの!
それはそれとしてここに集まったみんなはお店を足早にでていったの。
今日会った誰かの中に殺人鬼がいるかもしれない……、そう思うと当然なのかもしれない。
でも私もうかうかしていられない……。
もうあの日から三日も経っている、早くしないと手遅れになっちゃう!
私は早くあけみちゃんを傷つけた人を見つけて、捕まえて、それから……。
私はいてもたってもいられなかった。
でもおかしな話だけど気持ちは落ち着いていたの。
小さな子供が死んでしまったはずなのに、それも私の知っているこだったのに、私は動揺してなかった。
その事実に恐怖するよりも先に、悲しむよりも前に、私はこの現状に対して冷静だったの。
そうなの、冷静なの。
本当はとっても怖いことをしているはずなのに、私は、私は……。
とても落ち着いているの。
……おかしいよね、おかしいはずよね。
私は今の自分の状況が普通ではないことを理解しているのに、冷静だったの。
だからなのか、それとも本当はただ怖かったのかわからないけど私はこのまま帰るわけにはいかない、そう思ったの。
だから私は今一番信頼できる探偵の中村さんの後を追って歩き出していたの。
早く、……早く犯人を見つけるために、私は歩き出したの。
本当ならすぐに声をかけて今日の話の続きをするべきなんだけど、私はなんて話したらいいかわからなかったの。
落ち着いているはずなのに、私は何を話すべきかわからなかったの。
わからないけど頭が答えを出すよりも先に、私は歩いていたの。
とにかく私は中村さんと距離をとりながら後を追いかけたの。
喫茶店のある通りからある程度歩いたところで中村さんは街角を曲がり人気の少ない路地へとはいっていったの。
私は相変わらず距離をとって歩いていたからこのままだと中村さんを見失ってしまう!
「……ま、待ってください!」
私は中村さんを見失わないようにその路地へ駆け出す。
中村さんの曲がった角まで私が駆け寄ると後ろから声がする。
「止まれ、守田美紗。」
私のうなじに冷たい何かが当たる。
「……え、なんなの!?」
私が振り向こうとすると私のうなじに突きつけられた何かは強く押しつけられる。
「動くな!動けば撃つ!この距離なら背骨まではえぐれる。」
突然の出来事に動けない私だったけど、強い口調で話してきた人物がさっき会った人の一人だって私は気づいたの。
筑波先輩だ。
「……ふむ、でかしたぞ筑波!やはり念を入れてお前に尾行をお願いしていてよかったぞ。」
前からは中村さんの声がする。さっきまでの丁寧口調が嘘みたいに、いやみたっぷりなしゃべりかただったの。
「まさか最初の襲撃がお前だとは思っていなかったぞ、守田美紗。」
「……へ、中村さん?どうゆうことですか?」
「まぁここで話すと人目につく。場所を移そうではないか。」
私は中村さんと筑波先輩に連れられて人のあまり通らない高架下のトンネルまで来ていた。
「さて、筑波。私を追ってきたのは守田美紗だけだったのだな。」
「あぁ先輩、俺が見ている限りではこいつだけっす。」
え、先輩?
「……どうゆうことなんですか中村さん?」
「何、私は探偵だからね。あの中に殺人鬼がいれば最初に私を消しにくる、そう考えるのが自然だろう?」
「……え?」
「だから私を追ってくる者を逆に尾行するように筑波にお願いしていたのだよ。誰かを追う者は得てして自分が追われていることには気付きにくいからな。」
「……っち。」
それってつまり、私は筑波先輩にストーカーされてたってこと?
「とにかく私を襲いに来たと言うことは何か不都合があるのだろう、守田美紗?」
「……え、私は別にそんなんじゃ。」
「仮に何もなかったとしても君にはいくつか聞きたいことがある。第一発見者というものはえてして怪しいからな。」
……え、これってもしかして私が疑われてる!?
「……そ、そんな!わ、私はただ中村さんに何かこの事件について出来ることがないか聞こうと思って!!」
私が声を上げると再び筑波先輩が私のうなじに冷たい何かを突きつける。
でもそれはさっき突きつけられた何かとは違って横長のなにかだった。
「……下手な真似すれば今ここで潰す。」
私の背中からひしひしと強い視線を感じる。
それだけで私は何も言えず、動けず……、怖くなった。
筑波先輩、この人はとっても怖い。
とっても鋭い視線が私の心臓を貫いた様に私は何も出来ず動けなくなった。
……怖い。
……怖いの!!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
動機が激しくなる。
動けなくなる。
言葉が出ない。
涙が出てくる。
あけみちゃんをみた時には感じなかった思いが溢れてくる。
どうしてこうなったの?どうして?私はどうしてこんなことをしているの?
怖いよ、怖いよお兄ちゃん。
何であんな手紙出しちゃったんだろう。
どうしてこんな、こんなことに。
どうして?
「……っち、先輩こいつは違うっすよ。こいつは人を殺せないやつっす。」
私のうなじに押しつけられていた何かは取り除かれる。筑波先輩は無愛想にそう言ったの。
「……へぇ?」
私はその場に膝をついて倒れた。
スカートがちょっと汚れちゃうけど、それどころではなかったの。
私は今、この先輩に殺されそうだった。
よくわからないけど私は今本当に殺されそうだった。
今まで味わったことのない明確な殺意で私の中は埋め尽くされた。
……あけみちゃんもこんな気持ちだったのかな?
涙で目がかすむ。
怖かった。
怖かったけど。
けど私は確信した。
この人はその気になったら人が殺せる人なんだ。
「ふむ、まぁ守田美紗が犯人でない確認が出来たのはよかったぞ。ありがとう筑波。」
「……どうでもいいっすよそんなの。俺は早く犯人を殺すんっす。」
この人はあけみちゃんを襲った人以上に危険な人なんだ。
「それよりどうするんすかこいつ?ここにほったらかす訳にもいかないっすよ。」
「ふむ、そうだな。」
だから。だから。
「……あ、あの。」
「どうした守田美紗?」
この人は私に出来ないことをしてくれる。
「中村さんと筑波先輩は……、犯人をどうするんですか?」
「当然殺す。」
筑波先輩は一切の迷いなく答えてくれた。
「物騒だぞ筑波、学生相手にそんなことを言って。」
「……あ、あの!」
「……何だよ?」
この人は新しい材料が作れるの!
「私も協力させてください!!」
私のご飯の新しい材料が。




