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第十五章 大歳 利樹 その四

挿絵(By みてみん)


 さて、大見得を切ったところだがどうきりだしたものか。

 峰子先生の好きな探偵のドラマ「角を持つ男」、それの主人公の真似自体は上手くいったぞ。 とりあえず次は事情聴取でもするぞ。


「ではまず事件の全容を把握するためにもみなさんの箱に彼女の遺体が届いた時のことを教えていただけますか?」


 まずは状況把握、情報戦の基本だぞ。


「因みに私が最初に箱の中に遺体を確認したのは三日前の夜七時頃からですね。頭部、右足、内蔵、左足の順ではいっていて最後の左足は箱から移動しなくなりました。」


「……え?動かなくなる?」

「そんなことがあるのか、相変わらず不思議な箱じゃ!」

「……の、残ったい、遺体はどうしているんですか?」


 私の最初の情報提供に反応を示したのは三人。


 主婦の光本、老人の山本、大学生の網谷だったぞ。


 彼らはそれぞれ初めて知ったかのような反応だった。


「遺体は証拠品として保管しています。みなさんの箱に遺体は残らなかったのですか?」


「わしゃ知らんかったわい!」

「……私も箱で見ただけで、……思い出したら今でも吐きそうです。誰があんなひどいことを。」

「ぼ、僕も驚いて何度も閉じてるうちに中身がなくなってて……。」


 三人の感想はそれぞれ異なるが私には正直真偽はわからない。

 とにかく今は情報を集めなければな。


「では残りの三人はどうでしたか?」

「……内臓が残っていた。」


 筑波にはつながりがばれないよう振る舞えといったがいつも通りだぞ。


「私もわかんなーいです。」


 漫画家の船頭は相変わらず楽しそうにスケッチにいそしんでいる。

 スケッチの傍らでメモをとっているのも窺える。

 私達の会話の記録をとっているようだ。

 私に言えば録音機の一つや二つ売ってやるのに、古典的な女だぞ。

 なんにせよこの船頭という女はこの七人の中で一番楽しそうにしている。

 子供が死んでいるというのに一切臆することなくだぞ。


 彼女の猟奇的な作風のゆらいがここにあると考えるべきか、それとも……。


 とにかく今は情報が必要だ。


「守田さんはどうでしたか?」


 私はうつむいていた守田美紗に声をかける。


「……私も明美ちゃんの遺体は持ってません。」


 ……ふむ、これはどういうことだ?

 私と筑波しか遺体をもっていないだと?

 私の推測では遺体はそれぞれの箱にランダムで移動した後、「箱に一度入れたものは同じ箱に戻ってこない」法則に従い必ず誰かの元で残ると踏んでいた。

 私達がそうだったのだからな。

 それぞれが遺体をもっていれば持っているもので集まることですぐに殺人鬼がわかるだろうとは考えていた。

 箱に詰めた殺人鬼は自分の元に死体を残さないだろうからな。


 そういう意味もあってわざわざ遺体を処分せずに冷蔵庫に入れているのだぞ。



 そもそもここに来る時点で遺体が残っていないと言うのもおかしいぞ。

 遺体が残っていないのならばこいつらはなんのために身元がばれる危険を冒してここに来たのだ?

 黙って隠れていればこんな事件に巻き込まれずに済むというのに……、殺人鬼を見つけたいと言う守田への同情であったとしてもハイリスクすぎるぞ。


 私が気付いていない箱の特性があるのか、それとも本当は誰かが遺体を持っていてそれを黙っているのか……。

 少なくとも筑波の言っていたようにこの中に殺人鬼がいるのならその人物は正直に話しては来ないだろう。

 私が箱に詰めましたなどと言い出してきたらそれはそれで困るぞ。

 考慮すべき要素は多いがまずは聞けることを聞くのだぞ。


「では遺体を確認した時間帯についてそれぞれ教えてもらえますか?」


「そ、そんなの夜ぐらいだったけどせ、正確に覚えてるわけないじゃないか!」


 大学生の網谷は私の言葉に動揺をみせる。

 彼はここに来てから一行に落ち着きがない。


「……私もいつものように余ったおかずを入れようとして、……そしたら。」


 主婦の光本は気分の悪そうな顔で話を区切る。余程今回の事件がショックなのだろう。

 筑波が調べた限りでは子供がいるのは彼女だけだ。

 そして今回遺体になった明道明美は彼女の息子、光本幸太と同じ幼稚園に通っていたようだ。 自分の息子も襲われるかもしれないと言う恐怖もあるのだろう。

 老人の山本に関しては家族構成はわからないが一人暮らしが長いようだし、彼自身そこまでこの事件について思い詰めている様子はない。

 そういう意味では主婦の光本は死んだ明道明美と面識のある守田の次にこの事件に関心を持っていてこの場に来ることが自然な人物だ。

 裏を返すなら被害者と接点が一番あるのも彼女だ。

 筑波の情報通り彼女が他のママ友から浮いていると言うのならば何かしら殺人の動機があってもおかしくない。


「ワシも夜だったぞ、パチンコに勝った帰りじゃったからな!なんだったら店員に確認してくれてもかまわんぞ!」


 老人の山本はがははと笑いながら答える。

 この老人は主婦の光本とは対象的に被害者と接点がなさ過ぎる。

 しかし金に困っていると言う点、我々の中で一番時間を自由に使える点は軽視できないぞ。

 我々の元に遺体が届いたのは平日の午後、私の箱に残っていた左足を確認した限り死亡時間もそれほど経っていなかったと推察されるぞ。


 その理由は遺体からでる血だぞ。人の血液は時間が経てば固まる、これも峰子先生の好きなドラマから知った知識ではあるが実際死亡後長時間放置すると血液は固まり凝固する。

 私が箱から左足を取り出した時血液はある程度垂れていた。

 このことから少なくとも明道明美が殺害された直後に解体され箱に詰められるまでにそれほど時間は経っていないと考えるべきだぞ。


 ただこれに関してはもう一つ我々は気にしなければならないことがあるぞ。


 それはこの箱の特異性だ。


 筑波の以前持っていたカードはカードに取り込んだものは時間が経過しないという特性があったそうだ。

 この箱についてもなんらかの特異な効果がある可能性を軽視してはいけないぞ。


「私もー、夜くらいだったかなー?」


 そう答えてきたのは漫画家の船頭、相変わらずメモをとりながら絵を描いている。

 彼女の書いている絵はもう既にこの会場のスケッチだと一目でわかるほどに書き込まれていたぞ。

 一人一人の表情も特徴を捉えて書き上げておりさすがは漫画家と言ったところか。


 しかしもっと正確な時間を言えるやつはいないのか?

 みな適当に答えるばかりで話が進まないぞ。


「……俺も夜だったな。」


 筑波は既に聞き出しているから構わないが他の者はどうにも話をはぐらかしているようで歯がゆいぞ。


「……私が箱を開けたのは夕方の五時頃です。」


 ここで押し黙っていた守田美紗が話し出す。


「私が箱を最初に開けたのは丁度五時を過ぎたぐらいです。帰ってすぐだったんでそのくらいです!箱を開けたら突然血の匂いがして……。」


 被害者について語ってから静かだった彼女は突然しゃべりだしたぞ。


「……大丈夫ですか守田さん?」


「……それで開けたらあけみちゃんの足が入ってて!箱をすぐに閉めて開けてもまた足が入ってて!それで!!」


 錯乱したかのように突然だったぞ。

 恐らくこの会場の空気に耐えられなかったのだろう。


「開けたり閉めてを繰り返したら内臓と、その次にあけみちゃんの頭が入ってて!それでわかったんです!今まで入ってたのはあけみちゃんだったんだって!」


「私が最後に見たのはあけみちゃんの右手と左手で、それはあの時私達に手を振ってくれたあけみちゃんの手で!それが冷たくなってて!!」




 ……冷たくなる?遺体を触ったということか?


「……私の箱からあけみちゃんが出なくなったのは五時半頃です。台所の時計を見たんで覚えてます。」

 彼女はそれだけ言い終えて落ち着きを取り戻す。


「……ありがとうございます守田さん。」


 ……おかしいぞ。


 彼女の発言についてはおかしな点はない。

 彼女の発言した時間帯に熊のぬいぐるみに仕組んだ盗聴器によって彼女の悲鳴は聞いているぞ。


 しかし見終わったのは五時半だと?

 そうなると他の箱の持ち主達の証言と食い違いが起きる。


 少なくとも私が遺体を目撃する二時間程度前には彼女は手足と頭を目撃していることになるぞ。

 私が観測した限り箱の中に物があるときワープは発生しない。

 そしてワープの発生タイミングは箱を閉じたとき。


 つまり守田美紗の箱に三十分間の間連続で遺体が届くためには最低でも五回他の者が箱を閉じる必要がある。

 箱の大きさから考えて両手共に詰めることは出来ないだろうからな。


 勿論犯人が箱に遺体を詰め蓋を閉じたと考えられるが五回連続で守田美紗の箱に届くのはどうにも納得出来ないぞ。

 私がGPSで調べた限り箱のワープに規則性はなかった。

 そうなると一つの箱から別の一つの特定の箱にワープする確率は残りの箱の数、つまり6分の1の確率と言うことだ。

 六分の一の確率を五回成功させるには単純に考えて確率7776分の1になる。


 サイコロで五回連続一が出る確率と一緒だ、まずあり得ないぞ!!


 我々が遺体を目撃したタイミングが一緒であればそれぞれの箱でワープが起こり最終的に遺体が全ての箱を移動して全員が目撃したということで辻褄が合う。


 しかし守田美紗の証言が本当ならば話は違ってくる。




 考えられる可能性は二つ、二つだぞ!




 まず守田美紗の発言が嘘であること、そしてもう一つ!




 私の知らない箱の規則性がある、と言うことだぞ!!


 ふふ、これは面白いぞ。

 もしかすると本当にこの箱は特定の条件下で特定の箱に物を送ることが出来るかもしれないぞ。

 その法則が理解出来ればこの箱は完璧なワープ装置になるではないか!!

 そうすれば愛しの峰子先生の元にいつでも盗聴器を送ることが出来るぞ!!

 守田美紗が嘘をついている可能性も捨てきれないがこれは調査の必要があるぞ!!




「皆さん!!この事件を解決するにあたって率先して解明しなければならないことがわかりました!!」




「な、中村さん!?どうしたんですか?」

「なになに?もう解決ー?」

「まず我々のもつ箱!このトリックを知る必要があるぞ!」

「……中村さん?キャラ変わってません?」

「がはは、元気のいい若者じゃ!」

「……っち、面倒くせぇ。」


 しまった、私としたことがついつい興奮してしまったぞ。


「……失礼、久々の難事件に舞い上がってしまいました。とにかく一度みなさんの持つ箱を拝見させていただけないでしょうか?」


「……私は構いませんよ。」

「いいよー、見せあいっこだねー。」

「ぼ、僕も箱ならい、いいですよ。」

「……好きにしろ。」

「ワシも見せるだけならかまわんぞ。」

「わかりました中村さん!それで犯人がわかるんですね!」


「ええ、守田さん。この箱のトリックが今回の肝です。」


 正直これで犯人が特定出来るかはわからないがこの謎は大事なポイントだぞ。


「では皆さんがよろしければもう一度箱を持ち合っての集まりを早いうちに開きたいのですがよろしいですか?」


 私の問いかけに皆賛同し、明日の日曜日の同じ時間に再度この場所に集まることになったぞ。

 その後も改めて箱を開けたときの状況をそれぞれに訊ねたが守田美紗以外の面々は変わり映えのしない回答ばかりであったぞ。




 そうしているうちに時刻は四時を回った。


 そろそろ切り上げ時だろう。


「……では事件解決に向けて次の予定も立ちましたし今回の集まりはこの辺でお開きにしましょうか。」


 私がそう切り出した時に大学生の網谷が挙手をする。


「どうしました網谷さん?」


「さ、最後にさ、参考になるかわからないですけどい、いいですか?」


「……いいですよ。是非お願いします。」


 会も終わるというのに彼は相変わらず落ち着きがない。

 網谷は深呼吸をしてしゃべり出す。


「は、箱の中にビデオテープが入っていたのを知っている方はいませんか?」


 ……ビデオテープ?

 そんな物もいれてあったのか、是非見たかったぞ。


「確かにはいってたねー。フロッピーもあったね。」


 網谷の発言に船頭が便乗する。

 フロッピーディスクと一緒と言うことは老人の山本の物だろうか?

 彼の発言にさっきまで機嫌のよかった山本は眉をひそめたように感じたぞ。


「そのビデオテープがなにかあったのですか?」

「じょ、女性の方の前で話すのもよくないとおもうんですけどぼ、僕は出来心でそのテープの内容をみ、みたんです。」


「……それでどんな内容なのですが?」


「の、呪いのビデオとかのいたずらだと思って出来心で見たんです。」


「……。」


「は、はっきり言ってしまうと年代物のアダルトビデオだったんです。」


「……それで?」


「内容がですね、古いやつだったんで、かなり過激なやつで。」


 網谷は口をすぐめる。

 さらに一呼吸入れて彼は話す。


「……児童ポルノだったんです。……小学生くらいの。」



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